第27話 この女、キライ
これは一体、何の拷問なんだろう……
今、俺の前では、佳弥と
最初はこうではなかった。そう、こうではなかったんだよ……
俺たちの家を訪れた大宜津姫はそのまま中に入り、話をし始めた。曰く、「お願いがある」と。
もてなしを受ける代わりに――その結果、佳弥と俺は安定してこの世界の『旅』を進めることができる――この村の長、つまり大宜津姫の願いを聞くという『古からの契約』があるらしい。
最初に大宜津姫が口にした『お願い』は、「黄泉比良坂にある『告厄茸』というキノコを取ってきて欲しい」というものだった。
そんな、何だか物騒なものを一体何に使うのか――それは聞かない約束らしい。佳弥は二つ返事でOKをしたのだが、大宜津姫のお願いには『続き』があったのだ。
いや、正確に言えば『二つ目』ということか。
「今晩、虎守さまを私の護衛として一晩『貸して』欲しい」
そのお願いには、しかし佳弥はすぐに返事はしなかった。
「どちらへ行かれるのですか。ボクも同行します」
護衛というからにはどこかに連れていものだと佳弥は解釈したのだろう。しかし大宜津姫は軽く首を振った。
「その必要はありませんわ。一晩、私と一緒に祭殿で過ごしていただくだけですの」
大宜津姫が俺に視線を向け、そして顔を赤らめた……
そこからだ。佳弥のスイッチが入ってしまった。
「護衛というのであれば、ボクも一緒に」
明らかに佳弥の声のトーンが変わる。攻撃色を隠そうともしていない。まっかっか。
しかし大宜津姫は動じる様子はない。
「日が暮れた後は、祭殿は『男子禁制』です」
佳弥にそう言うと、大宜津姫は口元で軽く笑った。
そうだよなぁ、佳弥は心は女だと言っても、体は男だもんなぁ――って、ん? いや、俺も男なんだが。
「それは、しかし」
「それとも、貴方方はもう『夫婦の契り』を結んでいるのですか? 男同士で」
なんでそんな話になってるんだか、俺にはよく分からない。しかし、大宜津姫は誰にでもわかるように『男同士』という言葉を大げさなほど強調した。
それに対して、佳弥は言い返す言葉につまったようで、相手を射殺さんばかりに睨んでいる。
おいおい、村の長にけんか売ってどうすんだよ……
もしかしたら大宜津姫が俺を殺した犯人ではないかという疑念は、もう今は佳弥にとってどうでもいいものになってしまっているようだ。いや、きっと佳弥は心の中で『犯人がこいつかどうかは関係ない。ぶっ〇せ!!』と叫んでいるに違いない。そんなオーラをビンビンに放っている。
「佳弥、待て待て。たかが一晩の護衛じゃないか、なんでそんなに怒る」
「虎守くんは黙っててくれるかな」
佳弥は大宜津姫を睨んだまま、凄みのある声を放った。
こ、こえー……
しかしそんな佳弥の様子にも、大宜津姫は目を細めるだけで、見るもの――特にヲタクは喜びそうだ――を溶かしてしまいそうな可愛らしい笑みを浮かべている。
「でも、虎守さまは貴方の『恋人』ではないと、私におっしゃっていましたわよ」
大宜津姫の言葉に、佳弥の表情が変わった。
絶望――まるで『信じていたものに裏切られた』かのごとき表情になると、そのまま俺の方へとその顔を向けた。
いや、ちょっと、まって。
「虎守くん、そんなことを、いつ、どこで」
「う、うぇ? そ、そんなこと、俺、言ったかなぁ……」
言ったっけ?
……なんか、言った気がする。
でも待てよ。それは確か――
「ええ、はっきりとおっしゃいましたわ。私と偶然出会って、そのまま祭殿へとお連れするときに」
俺が殺される前のこと。
大宜津姫が、なぜそれを知って、いや、『覚えて』いるんだ――
「来たれ、来たれ、鉄の剣、我が手に!」
宙に手をかざす。俺の手に、ずっしりとした質量を感じる剣が握られた。
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