第23話 見られた……見られてしまった……
見た。
見てしまった。
佳弥のもう一つの秘密。
あいつ……
パンツまで女もんじゃねーか!!
マジかよ。
見てしまった光景が、俺の頭の中でエンドレスにリプレイされている。
シャツのかわりになんたらブラを付けてるってのは聞いていたけど、まさかパンツまでそうだったとは。
なるほど、だから俺のいる前では着替えようとしなかったのか……
つまり、つまりだ。
……
そうか、わかったぞ!
佳弥は、あれだ、『心は女の子』なんだ。
そうか、そうだったのか!
……そう、なのかな。もう分かんね。
頭の中の整理がつかない。
このまま戻るのも気まずさしかないので、とりあえず祭殿を探してうろうろすることにした。
集落の中は結構な数の人が行き来している。服装以外は現代人と変わらない。皆「人間」だ。
男性は上半身裸で上から簡素な服を羽織っている人が多い。ほとんどの男性には体に入れ墨が施されている。俺たちに渡された服と似たものを着ている人もいたが、彼らは身分が高そうだった。
一方、女性は総じて上下が分かれていないワンピース型の服を着ている。
集落の中にはところどころに高床式の建物があるが、それらは貯蔵庫なのだろう。人が住んでいる建物とはつくりが違っている。
「というか、俺、どこにいるんだろ、これ」
目指すべき建物はおろか、俺たちが案内された家すらどこにあったかわからなくなってしまった。何せ似たような建物がそこかしこにあるのだ。
「どうされましたか」
と、若い女性に声をかけられた。
「う、
そう口走ってから、慌てて口を押さえた。
そうじゃない。目の前の女性はそんな名前のネットアイドルではなく……誰だったっけ。
女性は、お付きのものだろう、三人の女性に囲まれる形で立っている。そのうちの一人は、女性に日が当たらないように、大きな傘のようなものを掲げていた。
「先程も、私を見てそうおっしゃってましたね」
その傘の下、女性は漏れ出る笑いを押さえきれ無いように小さく笑っている。
「えっと、
俺のその言葉に、大宜津姫はなにやら探るような視線を俺に向けた。
「へえ、その方は貴方の恋人か何かですか」
「いえいえいえ、単に見知ってるというだけで、そういう人じゃないです」
なんでいきなりそんな質問になるんだよって感じ。
「そうですよね。貴方には、佳弥さんがいますもの」
うんうん、そうだな……って、ちょ?
「い、いや、佳弥ともそんな関係じゃ」
俺は手を体の前でぶんぶんと交差させ、体全体で否定して見せた。
というか、同性だって。
「あら、そう、そうなのですか。ふぅん」
俺より年下に見える女性。上半身には何枚かの単衣を羽織り、下半身は袴のようなものをはいている。長い髪は後ろに束ねられていて、あまり動きやすいとは言えない格好だ。頭には装飾が施された冠、首と腕には緑色の石が何個も数珠状についているアクセサリー。この村の『長』。
一体何のために出歩いているんだろうか。
大宜津姫が俺を見る目線は、何かを探るようなもので、その意味を測りかねて俺は何も言えなくなった。
「それで、虎守さまはどちらへ行かれるのですか?」
「ああ、そうだ、丁度祭殿に行こうと思ってたんです」
「祭殿? 私に、何かご用でしたか」
答えようとして、ふと違和感。
佳弥さん、で、虎守さま?
どういうこっちゃ。
まあ、気にしても仕方がないか。
「えっと……あれ、なんだったっけ」
変なことを考えたせいだろうか、何をしに行くつもりだったのか頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。
思い出そうとしても、佳弥の衝撃的映像しか浮かんでこない。
「いや、頼まれものだったんですが、何を頼まれたっけ……」
悩みだす俺を見て、大宜津姫はふふっと声を出して笑った。
「それでは、頼まれものになりませんわね。とりあえずご一緒に祭殿に参りましょうか。思い出すやもしれませんわ」
「あ、ああ、そうですね、すみません、助かります」
大宜津姫の言う通り、祭壇に行けば思い出すだろう……
そう思い、姫の後ろをついていこうとして、姫の手が俺の手をつかんだ。
「うぇっ!?」
「ご案内いたしますわ」
「え、い、いや、その」
「どうぞ」
そういうと大宜津姫は、俺の手を握ったまま歩き出した。
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