僕は人を殺すのが得意だ。

たま

僕は人を殺すのが得意だ。

 僕は人を殺すのが得意だ。

 どんな相手でも苦痛を感じさせずに、息の根を止められる。

 ある程度のお金を払ってもらえば、僕は誰でも手にかける。

 孤独に耐えきれない老人も、いじめられている小学生も。

 自殺する勇気がない人間を、死に導く。

 それが僕の仕事だ。


 今日の依頼人は少女だった。

 セーラー服の袖口から、自傷痕のある手首が見える。

「これ、依頼料です」

 差し出された封筒には、一万円札が何枚も入っていた。


 要望は刺殺だ。

 僕は事前に研いでおいた、鋭いナイフを取り出す。

 少女は僕の目の前に立っている。

 黒い瞳が、白い瞼に覆われた。


 僕は彼女を知っている。

 同じ学校に通う同級生だ。

 これが最後の機会だと思い、僕はおもむろに口を開いた。


「君のことが好きだよ」

 少女はゆっくりと目を開けた。

 じっとこちらを見つめる瞳が、次の言葉を待っている。

「何年も前から、ずっと好きだった」

「……そっか」

 少女は穏やかに微笑んだ。

「ありがとう」

 しかし、それだけだった。

 告白の返事はなかった。

 彼女は自分の残した言葉が、僕を縛る呪いになると理解していた。

 その優しさが痛かった。


 僕は少女にキスをした。

 冷たい死の味がした。

 この感触を永遠に忘れないと誓った。

 形見を得た気分だった。


 僕は少女の首を刺した。

 血が噴き出す。

 返り血が熱い。

 少女は笑っている。

 その目が少しずつ死んでいく。

 僕の初恋が死んでいく。

 殺人を後悔したのは初めてだった。

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僕は人を殺すのが得意だ。 たま @tama03

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