ちえちゃんは異次元が見える
久坂晶啓
序章 ラーメン危機一髪
ちえちゃんはまあまあ元気な17歳で偏差値が57くらいある。
まあまあ賢いが天才というほどではない。
ただ家族は全体的にアレなのでブレーンとして頼られることが多い。
「大変だちえ助けてくれ、このままじゃ店が潰れちまう」
「どうしたのお父さん」
父47歳が唐突に駆け込んできた。
「テレビの撮影が来るんだよ、料理対決企画で。
ただでさえギリギリの経営なのに、負けて醜態さらしたらいよいよおしまいだ」
「じゃあ断ればいいじゃない」
「相手はビン底メガネのヨシ坊だぞ、この俺が引き下がれるかってんだ」
「え、そばとラーメンで勝負するの」
ヨシ坊は父の地元の仲間で小学生の頃エグいメガネをかけていた。
大人になって脱サラした後特に修行などせずに我流でそば屋をやっている。
つまり脱サラした後特に修行などせずに我流でラーメン屋をやっているちえ父の相手としてはちょうどいい。
「ローカル局のつましい番組だからな、そのへんはいいかげんなんだろう。
でも判定はローカルタレントの津部野彦麿(つべのひこまろ)さんがやってくれるらしいぞ」
「そこ喜ぶポイント?つべのって言ってる時点でユーチューバー感がすごい」
「とにかく頼む、力を貸してくれ」
「え~私インスタントラーメンしか作れないけど」
「いや料理じゃなくて、お前の類まれなる頭脳で策を授けてほしい」
父は正しく理解していないが、確かにちえちゃんには類まれなる能力がある。
「今から修行するとかヨシ坊さんを暗殺する以外で?」
「以外で」
彼女はこの世界の真実を知っているのだ。
「じゃあ私からの指示は1つ。後攻を取ること」
後攻が勝つ。それが料理対決の真理である。
「わかった、他のすべてを犠牲にしてでも後攻を取るぞ。
ありがとうな、ちえ!わははは!」
そう言って父は駆け出して行った。
「うん。たぶん大丈夫だろう。
正直勝ったところで経営状態が改善するとは思えないけど…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして対決の日がやってきた。
会場はちえ父のラーメン屋。店がテレビに映ることを父は喜び、ちえちゃんは危惧した。
まったく映える店ではないがそば屋の方よりマシだったのだろう。
狭い店内に司会者とタレントとテレビクルー数名とそれぞれの家族が詰めている。
司会者が元気にしゃべり始めた。
「シリーズ『遠くの名店より近くの店』、今日は猪鹿町のラーメン屋『一発逆転』さんにお邪魔しています」
なお情報番組の1コーナーらしい。
「まず先攻の『数割そば』のご主人の入場だ。何割なのかまだ決まっていないという斬新なスタイルのそば屋、メニューはざるそばです。
さっそく実食!」
「いただくでおじゃる」
津部野彦麿が食事を始める。マロでキャラづけした語尾の割に服装はカジュアルだ。
店内にそばをすする音だけが響く。
じっくり20分かけて完食した。
「なるほどでおじゃる」
「続いて『一発逆転』のご主人の入場、メニューは店名を冠した一発ラーメンです。これで負ける訳にはいかない」
ちえ父がラーメンを提出、つつがなく実食が終わった。
父がそっと「これで大丈夫だよな」という視線を送り、ちえちゃんは静かに頷く。
「さあいよいよ判定です。勝って番組特製ステッカーを手にするのははたしてどちらのお店か。
津部野さんお願いします」
「はい。
まず先攻のざるそば、特別美味くはないが不味くもない、まあまあの味です」
「おなじみテレビ的な忖度の一切ないコメントが出ました」
「次にラーメン、やはり特別美味くはないが不味くもない、まあまあの味です」
「津部野さん語尾を忘れてます」
「忘れてたでおじゃる」
「では、判定は」
「ただラーメンの方がちょっと伸びてたので勝者ざるそば、そば屋の勝ちでおじゃる!」
「ということで『数割そば』さんの勝利に決定しました!」
「ええ~~っ、そんな~~」
膝から崩れ落ちる父。店は今後も存続していけるのか?
どうするちえちゃん?!
一章に続く!!
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