第五話 やはらたまくら
ジジ……、と
柔らかい影を落としながら、
たしかに、見慣れた女官より日焼けして、肌の
炎天下、畑仕事に汗を流して、今まで生活してきたのだろう。
ほっそりした身体つきの女官が多いなか、目の前にいる女官は肩の肉付きが良く、胸やお尻も、力強く豊かだった。
「そう……、じゃあ、河原で石積みはした事あるの?」
「あるとも。」
(本当のことだ。見くびらないでもらおう……。)
楽しかった夏の思い出に、大川の頬が緩む。
「田植えは?」
「田植えはないけど、
「へえ……。」
気がつけばすぐ近くに
「でも、山の上の
「………。」
大川の顔から笑顔が消えた。
(知るわけがない。
行った事があるわけがない。
歌垣とは……。
「
ご馳走で腹を満たし、
(
あたしの
明るい月夜に。)」
「なッ……!」
(どういうつもりだ! その歌は、誘い歌ではないか……。)
大川は眼の前で
(赤くなった顔を見られたくない。)
混乱のなか、その事だけがハッキリ思いとしてあり、大川は
しかし、大川より背が低い
(丸見えだ……。)
「
どう返すと思います?」
大川は戸惑いつつ、目を
「
照れる月夜や
(
冬野を行き、神に捧げるような檜葉を手折りましたよ。
明るい月夜に。)」
と即座に返した。
(あ……、どうした事だ。これではまるで、私が、この
戸惑いが深くなる。
そんな大川をよそに、
「あの……。」
と口元を手で抑えながら、頬を赤らめ、
「そんなすぐに歌を作れる
と心から感心したように言った。
大川は、なぜだかすごく誇らしく、胸が、ぐぅっ、とくすぐったくなり、ちょっと笑った。
「ちゃんと返す歌も決まってるんです。
さ
(萎え草のように柔らかい胸の
恋しい
オレが霜のおりた檜葉を手折って来たのだよ。
一夜でも共に寝てくれたら、その時は家に帰そう。
それまでは帰してあげないよ。)」
「…………。」
あまりの歌の
さっきから、息が苦しい。
「さあ、そのままを口にしてください。」
「で、できない。」
大川は必死に頭を振る。
「いけません。
「さあ、あとについて。
大川は天井を見る。
(…………。)
何も考えられない。
息が苦しいままで、頭が少し痺れている。
何も考えられないのに、
……若やる胸。
言葉につられて、一瞬、
すぐに視線を天井に戻し、大川は小さな声で、
「
「
「
と声を絞り出した。
(早く、この状況を終わらせたい。)
大川は天井を見つめたまま、
「さ
───一夜でも共に寝てくれたら、その時は家に帰そう。
それまでは帰してあげないよ。
(そんなこと……!)
大川はゴクリと唾を飲み込んだ。
そんな事を口にするのは、
「もう、もう……許して。お願い……。」
ついに大川は
許してなんて、
父上にはほとんど願い事もしてこなかったし、他の者は、大川に「許して」なんて言わせる事はしなかった。
この
「いけません。さあ……、早く。」
「えッ!!」
大川は目を見開き、戦慄した。
(信じられない。どういう事なの。)
この
どうやっても、
大川は驚愕のうちに、ぼんやりと口を開いた。
「さ
「あたしは
と
その後の事は良く覚えていない。
ただ、
柔らかい
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093084360321568
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