3.旧道

西峰が、森本さんの殺害を自供した。

警察は、西峰の仲間、弘川を取調べのため、自宅へ向かったそうだ。


小森君の携帯に、豊田さんの母親から、連絡があった。

警察からの情報と、警察の動向が伝えられた。


いくつか、不明な点がある。

一年前に、牧原さんと小森君が、待ち合わせをしていたのは、水車公園だ。


その水車公園に隣接する、道の駅の伝言板に「岩屋公園で待つ」と書込みがあった。

西峰達三人組と、高専入学組八人グループは、ファミレスでトラブルになった。

そのファミレスに居た女子の一人が、伝言板に書込んでいるのを西峰の仲間が見たそうだ。


だから、西峰の証言を信じるなら、伝言板に、メッセージを書込んだのは、西峰ではない。

西峰は、弘川から、伝言板に書込んだ女子の話しを聞いたそうだ。

西峰は、目撃したのは、弘川だと思っているそうだ。


水車公園の隣、道の駅の伝言板に「岩屋公園で待つ」と書込んだのは誰か。

西峰が、標的にしていた森本さんでは、なかったそうだ。


牧原さんは、その書込みを見て、岩屋公園へ向かった。

だから、牧原さんではない。

筈だ。


勿論、自作自演の可能性もある。

しかし、牧原さんは、豊田さんに、小森君と会う事を伝えている。

昨日の研修所で、豊田さんが証言している。


勿論、これも虚偽かもしれない。

疑えば、限が無い。


皆の話を信じれば、豊田さん、北村さん、大垣さんの三人の内、誰かだ。

ただし、豊田さんと大垣さんが、小森君のサインを知っていれば、なのだが。


そして、先週、つまり森本さんの事件当日も、道の駅の伝言板に「岩屋公園で待つ」と書込みがあった。

これは、豊田さん、北村さん、大垣さんの三人と弘川の四人の内、誰かだ。


今度も、道の駅の伝言板に、書込みがある事を西峰に伝えたのは弘川だ。

そうすると、伝言板に書込んだのは、やはり弘川になる。


豊田さんは、警察で取調を受けている。

しかし、豊田さんは、警察から解放されている。

それ以上、追及されていないのだ。


だから、豊田さんでは、ないのかもしれない。

勿論、嘘の証言をしているのかもしれない。


森本さんが、殺害された日、豊田さんは、インフルエンザで、自宅に帰省中だった。

大垣さんは、自宅から通学している。


二人共、古条市の自宅に居た。

だから、移動手段は、電車とバスしか無い。


駅前の防犯カメラやバスの車載カメラの映像には映っていない。

だから、自宅に居たのだろう。


勿論、自家用車という手段もあるのだが。

家族が、犯行に加担している可能性は低い。


もう一つ。

森本さんの、遺体の傍らにいたのは誰か。


これもトラブルのあったファミレスに居た女子だ。

牧原さんの事件の時、伝言板にメッセージを書込んだ女子と、同じ女子だろうか。

これについては、情報が無い。

可能性としては、北村さんが一番、怪しい。


北村さんは、午後八時二十分頃、帰寮している。

鈴音寮玄関の防犯カメラに映っている。

当日の午後から、北村さんは、外出して自宅へ帰っていたそうだ。

一度、森本さんが、共用部清掃の当番交替者ではないか、と疑って調べた事がある。


岩屋神社前のバス停から午後八時五分のバスがある。

森本さんが、午後八時に、岩屋公園に行っていたとしても、そのバスに乗れば、ぎりぎり、午後八時二十分過ぎに帰寮できる。

だから森本さんは、共用部清掃の時間までに帰寮出来た。

筈だ。


だから、共用部清掃当番の交替者が、北村さんだという疑いは、一応晴れた。


しかし、北村さんは、午後八時二十五分頃、もう一度、外出している。

これも、高専前のバス停から、午後八時三十分発の岩屋町方面のバスに間に合う。


ただし、岩屋神社前のバス停に到着するのは、午後八時四十五分頃だ。

その岩屋神社前のバス停から、同時刻、入れ違いに高専方面のバスが発車する。

そのバスに乗ったとしても、門限には間に合わない。


その後、北村さんが帰寮したのは、午後八時五十五分。

これも、鈴音寮玄関の防犯カメラに映っている。

だから、バスでは、到底、門限に間に合わない。


第一、北村さんは、その時間帯、駅前やバスの、防犯カメラに映っていない。

それでは、北村さんは、岩屋公園へ行って帰って来たのだろうか。

それは、何のために、岩屋公園に行ったのか。


律子と話しをしていると、四班の稲田先輩が戻って来た。

すぐに、一階のコミュニケーションスペースへ入って来た。


「もう一遍、行って来る」

稲田先輩が意気込んで云った。

旧道を通って、北村さんを探すと云うのだ。

一班と五班も、直接、旧道へ向かっているそうだ。


旧道?

そう云えば、西峰もスーパーに車を駐車して、岩屋公園へ歩いて向かっている。


高専の東校門の前の道は、石鎚山へ続く旧道だそうだ。

石鎚山市の名称由来の山に続く道だ。


途中に岩屋町のスーパー、岩屋神社がある。

旧道は、スーパー、岩屋神社の西側に通っている。


バス停は、正門のあるバイパス道にある。

千景は、旧道を通って岩屋町へ行った事がない。

国道へ続くバイパスより、岩屋神社へは距離的に近いそうだ。


そうだ、寮生は全員、自転車を持っている。

岩屋公園へバスで行くより、自転車の方が早いのかもしれない。

バスの発着時間に拘束される事もない。

ただ、今、実際に自転車に乗って検証する事は出来ない。


おそらく自転車で岩屋公園へ行ったのだろう。

森本さんの遺体の傍らにいたのは、北村さんだろう。


午後八時四十分頃。

北村さんは、森本さんの遺体の傍に居た。

西峰が、スーパーから車に乗って、もう一度、現場へ戻った時間だ。

何のために?


また、小森君の携帯に着信音。

皆、一斉に小森君に注目した。


「はい」

豊田さんの母親からだろう。

「…分かりました。はい。失礼します」

暫く頷いていたが、電話が終った。


「豊田さんのお母さんからでした」

そんな事は分かっている。


小森君が、白川先生に向かって報告した。

女子寮生、全員に注目されていて、ちょっと怖気付いているようだ。


弘川は、自宅に居ない。

どこへ、出掛けているのか、分からない。


仲間の長田に確認に向かったが、長田も居ないとの事だ。

警察は、高専前バス停から、岩屋神社前バス停まで、重点的にパトロールしている。

旧道周辺についても警察は、バイパス同様、北村さんを捜索している。


これ以上、寮生が、事件に、巻き込まれては堪らない。

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