鈴音寮の幽霊

真島 タカシ

序章

夏休み。

入学して、初めての夏休み。


八月、最初の日曜日に、帰省する。

長期休日期間には、寮に居られない。


そして、部屋の荷物も、寮から運び出さなければならない。

夏休みの初日から、六日間で寮から搬出し終えなければならない。


真由は、ゴールデンウィークにも帰省しなかった。

一年生で帰省しなかったのは、仁美、聡子と真由だけだった。

仁美は、石鎚山市の隣町、古条市出身だ。


近隣の町から、入寮している学生は、毎週、土曜、日曜日に帰省している人が殆どだ。

中には、金曜日の夕方から帰省し、月曜日に自宅から登校して、帰寮する寮生もいるようだ。


しかし、仁美は、土曜、日曜日にも帰省しない。

ゴールデンウィークにも帰省しなかった。

何故、帰省しないのか尋ねた。


「家に居ると、両親が、構ってくれと、際限なく絡んでくる」

「特に、お父さんが」と仁美が云った。


同感だと、三人で大笑いした。

それ以来、親しくなった。


真由は、明日、午前十時に、母親と祖父が、車で迎いに来る事になっている。

それで、漸く帰省する事になった。


一年生で、最後まで寮に残ったのは、聡子と真由だった。

仁美は、父親の休日が、昨日だったので、一足先に帰省した。


そして、今日、三人で海水浴へ行く事になった。

仁美に誘われたのだ。


真由は、聡子と一緒に、古条市の塩浜海水浴場へ出掛けた。

古条駅から歩いて、海岸沿いの道を歩いた。

仁美が見えた。手を振っている。


三人で、道の駅の、簡易シャワー室で水着に着替えて、海水浴場へ向かった。


午後六時まで、遊んだ。

まだ陽は沈まない。

三人は、駅前の回転寿司で、食事をする事にした。


海岸から、コンクリート階段を上り、歩道で立ち止まった。

横断歩道で、車が途切れるのを待っていた。

すぐに横断歩道の停止線で、車が停止した。


三人は、お辞儀をして渡り始めた。

停止している車の前過ぎ、道路の中央辺り。

突然。真横に車。

衝突音。何かが宙に。

一瞬。目が合った。

聡子だ。


無数の線が真っ直ぐ、水平に奔る。

コマ送りに、運転席の若い男の顔が見えた。

車は、減速しない。

猛スピードで車が走り去る。

仁美が道路の真ん中に座り込んだ。


真由は、何が起こったのか解った。

聡子が、道の駅の進入口で倒れている。


仁美は、放心状態だ、

仁美の腕を掴んで、道の駅側の歩道へ引連れた。


横断歩道で、停止してした車の運転手が、聡子の側に居る。

携帯電話で通報している。


横断歩道で、停止した車を猛スピードで追い越したのだ。

横断歩道を渡っていた三人に、突っ込んで来た。


ひき逃げだ。


警察車両が到着した。

数分後、聡子が救急車に運び込まれた。


暫くして、現場検証が始まった。

真由は警察官に証言を求められた。


仁美も、通報した男性も、証言していた。

しかし、一瞬の出来事だったため、捜査に繋がる証言は無かったようだ。

車種と色は、特定されたが、ナンバーを見ていたかった。


あれだけ、大きな事故にも係わらず、事故車両の破損の欠片も無かった。


聡子は、病院で死亡が確認された。

警察は、ひき逃げ死亡事件として、捜査している。


しかし、捜査は難航している。

未だに犯人は、捕まっていない。


真由は、犯人を許せなかった。

誓った。

何かを。

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