転生は失敗に終わりました 〜自殺ではチートは得られません〜

シラツキ

第一章

第零話「前世の記憶」

 ここは小学校の裏山。名前は特になかったはず。

 今は夏だからか、木々が山肌を完全に覆うように生い茂っている。

 ただ案外、山の中に入っていくとあの時の景色はあまり変わっていない。


 思い出す。

 約十年前の思い出したくない思い出。


 小学生の頃はよくここに遊びに来ていた。友達の家でゲームをするのも楽しかったけど、それでも俺は外で体を動かすのが好きだった。

 その頃は友達と比べて体の成長が早かったから、あらゆる遊びで『勝てる』ことが楽しかったってのもあると思う。

 今となって言えばそこから体は全然成長していない。

 

 

 さて、どんな遊びをしてたっけな。

 俺は足が速かった。リレーのアンカーになるくらいには速かった。

 鬼ごっこの鬼役になればどんな奴でも捕まえられた。

 そうだ、よくここで鬼ごっこをやっていた。


 あそこの木の下でジャンケンをして鬼を決める。

 鬼になった俺は目を手で覆い、二十秒数える。

 かくれんぼでもないのに目を覆うのは、俺限定のハンデだった。


「もういいかい」とは言わない。

 俺がそういうと、逃げている側が返事をしなくてはいけない。

 返事をすると場所が分かっちゃうからという理由の、これもまたハンデだった。


 だから、何も言わず目を開く。

 そしたら、なんと目の前にアイツが居た。目の前と言っても、数メートル先。


 体の大きい俺をいつも小馬鹿にしてくるあのアイツ。その態度がいつも鼻につくアイツ。


 くっそ、舐めやがって。


 考えるよりも先に足が動く。それを見てアイツも逃げて行く。

 アイツは小さくてすばしっこいが、俺の速さには負ける。

 これまでもアイツを捕まえられないことは無かった。

 ふん、すぐ捕まるくせに調子乗んじゃねえよ。


 細い腕、細い脚。

 全く、そんな華奢な体でそっちが恥ずかしくないのかって言ってやりたい。

 走っている姿を見ても、いつ転んでしまうのかとむしろこっちが心配になってしまうくらいだ。

 悪いけど、俺に喧嘩売ったことすぐに後悔させてやるよ。



 違和感を覚える。



 距離が縮まらない。どれだけ手を伸ばしてもアイツに届かない。

 どんどん山の奥に入って行き、足元が悪くなっていく。

 そのせいか縮まるどころか、どんどん離されていく。


 分からない。

 手を抜いているつもりはないのだが、これでは俺はただ山登りをしているだけではないか。

 一向にアイツの背中を追って行くだけ。


 まあ、アイツは体力がない。この坂を登りきった辺りで息が切れるはずだ。

 あれだけ飛ばしてたんだから、絶対そのはず。

 ほら、今まさに登りきったところで膝に手をついて呑気に休憩し始めた。

 甘いんだよいつもお前は。


 今日はタッチする手にもかなり力が入る。

 悔しさからか、嬉しさからか。

 はい、俺の勝ち――――




 

 

 自分の思った以上に手に力が入っていた。

 油断をしていたアイツはもちろん前に押し出される。

 体小さいし。体重も軽いから。


「おいおい何すんだよ〜!」


 いつもならそうだよな。

 ちょっかい出す俺にいつもそう言ってたよな。何回も聞いた。今日だって聞いた。

 でもどうして今は、



 お前が落ちた音しか聞こえなかったんだよ。

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