報告と邂逅の三分前
「魔王様ぁぁぁぁぁぁ! お帰りなさいませぇぇぇぇぇぇ!!」
「なんでいるんですか」
私たちを出迎えたのはザラキアだった。相変わらず騒がしい人である。
「婿め、私は魔王様の配下たる四地王ぞ? 故にこの城にいようが何の問題も──」
「五月蝿いから用がないなら帰ってもらっていいかしら?」
「申し訳ございません魔王様! 要件が済み次第速攻で視界から消え失せますのでッ!!!」
「手短にお願いね」
ルシファルは淡々と言った。多分、長いと判断した瞬間に放って帰ると思う。それにしても、彼がアポなしでここを訪れるのは珍しいな、と思った。
「ルーティが動き出したようです」
「──なるほど、あの子がね」
面白い玩具を見つけたみたいにルシファルはニヤリと笑った。自分で言うのも何だが、私のこと以外でそういう反応をする彼女は珍しい。
──ルーティ=ネクルマアサ。ルシファルの親衛隊──もとい側近舞台、四地王の一人。第一級の呪術師。生と死の理を壊す霊媒術を得意とする。その力は凄まじく、数万人の骸を同時に操るその能力は、一人で最新鋭の軍隊一つに匹敵するかそれ以上の力を発揮する。ただ、そんな彼女には問題があり──
「あの引きこもりが動き出すとは、ね」
──そう、引きこもり。引っ込み思案で引き気味で常に引き笑いを浮かべるような根暗女が彼女である。人見知りで人嫌いな彼女が動く理由があるとすれば、それはもう一つしかない。
「何の用かしら」
心底楽しそうな声音で、ルシファルは呟いた。
「ルーティは現在、ここから300キロメートルほど北西に離れた"毒の沼地"付近の館でひっそりと暮らしています」
「いい立地ね」
「はい。ですが、ここ数日は近辺での彼女自身の目撃情報はなく、代わりに骸の群れの行進情報が確認されております。村などを避けた迂回ルートのようなので被害などはありませんが、何せ数が数なので場所は筒抜けです! 現在我が領地付近を抜け、魔王城に向かってきておりますッ!」
なるほど、やはり目的はルシファルのようだ。しかし動機はなんだろう。まさか反乱などではあるまいが。
「ふうん。それなら、迎えに行きましょうか」
パチンっ!! と指を弾くと共に、高純度の魔力がバチバチと弾けた。
「骸の姫の元へ運べ、
詠唱とともに魔力が私たち三人を包んだ。強い光に思わず目を瞑る。耳がキーンとする感覚と共に、風が頬を撫でた。目を開ければそこはもう、だだっ広い緑の平原だった。ひとつ異常があるとすれば、我々はのどかな気候に相応しくない骸たちに囲まれている。
「貴様ら道を空けい! ルーティはどこだ!?」
「傀儡でしかない骸に問いかけても意味はないのでは……?」
「五月蝿い、貴様は黙っていろッ!」
なるほど、その喧しさなら容易に伝わるか。という言葉は寸でのところで飲み込んだ。実際に意思が通じたのかは定かではないが、骸による包囲陣の一角が開いた。ずしんずしんと大きな足音が、大地を震わせ、段々とこちらに近づいてくる。見遣れば、5メートルほどもある巨人の肩に、小さな少女が座っていた。骸たちは皆彼女に傅き、恭しく頭を垂れる。
「久しぶりね──ルーティ」
六芒星の刻まれた、闇のように黒いローブ。その下から青白い肌と、蒼髪と、赤い瞳を覗かせたルーティは、大きく口角を吊り上げて──ルシファルに飛びかかった。
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