第46話
数日後、あまりにも人気なカフェと言うことで地元のテレビ取材が入ることが決まった。
定休日である水曜日に、地元テレビ局のスタッフから電話が来ていた。
何を特集するかと、期待を膨らませて聞いていたさとしはテンション高いと思ったら急に低い声で対応した。
テンションがダダ下がりだった。
お店の電話の受話器を置いた。
「ねえねえ、テレビ局から何の話?」
紗栄が電話を引き継いだため、相手が誰か知っていた。
「え? 俺、そんなこと言った?」
何かショックだったらしく、遠くを見ていた。無言でリビングの2階へ行く。
「ちょっと、黙って行かないでよ。」
紗栄は階段に向かって叫ぶが、反応しないため、そのまま着いていった。
お店の電話は1階に置いてあったため、2階に戻っていく。
「ねえ、どんな内容なの?」
テーブルにあったみかんの皮を剥いて食べ始める。
「小さな男の子の取材だって。」
「え? 洸の取材? さとしの取材じゃないの?」
「もの珍しいんじゃないの? 洸がカフェのお手伝いしてるのが。」
苛立ちを隠せなかった。紗栄はため息をつく。
「さとしは取材されないんだね。かわいそうに。」
「本当のこと言うなよ。予算がおりなかったかもしれないじゃん。俺。東京じゃCM1本500万はくだらないんだぞ。」
さとしの目から涙が少し出る。
ギャラ自慢している。
「まあまあ。落ち着いて、ここは宮城。東京じゃないの。求めるものが違うのよ、きっと。」
納得できないテレビ局の要求に腹が立った。
そもそも、洸は毎回お願いしてるわけじゃないし、たまたまその日だけお願いしてただけ。
さとしは、ふと思い出した。
「なあ、そういや、たけしに電話したっけ? 返事のコールも来てない気がする。」
慌ててスマホの履歴を確認するとそれらしい番号は一切なかった。
すっかり電話をするのを忘れていたさとしは、とりあえず優子に電話確認しようとしたら、お店の扉が開くガラガラと音がした。
「こんにちはー。」
噂をすれば何とやらと。
扉を開けていたのは佐々木たけしと手を繋いで来たのは洸だった。
さとしと紗栄は、2階からお店の1階におりた。
「あ、あ。今、電話かけようとしてた。なんで、ここにいる? しかも、なんで洸?」
「…まあ、話は長くなるんですけど、簡単に言って、俺、辞めてないですから。あんたはマンチカンの店長じゃないですし、普通に働かせてもらってます。」
「は?」
さとしは顎が外れそうになる。
洸は走って紗栄の元に行く。
「紗栄ー。」
紗栄の両太ももにギューとする洸。
「つまり、そう言うことです。」
たけしは洸を指差す。
「意味わからないんだけど。」
「喜治さんは無事退院して、店も開店してますし、俺も普通に働いてます。洸は……ここが良いって駄々こねるので連れてきた次第です。あとで優子さんから電話あると思いますので、じゃ、荷物ここに置きますね。」
洸の荷物を置いて、そのまま立ち去ろうとするたけし。
何だか納得できないさとし。
「え、いや、まあ。マンチカンに戻ってきて欲しいと思ってはいたけど、なんで普通な対応してんの? なんか言うことあるっしょ。」
頭を掻きむしって言う。
「あ、ああ。どうも、すいませんでした。あ、あと、これ、紙袋忘れて行きましたよ。」
パチンコ屋で当たった景品が入った茶色い紙袋を手渡された。
中には高級な携帯ゲーム機の箱が入ってる。
このこともすっかり忘れていたさとし。
「いやあー、言い方、軽いよね。これはどうも、受け取りますが…」
立ち去る後ろ姿のままでたけしは言う。
「もう、紗栄には近づきませんから。このままマンチカンで仕事させていただきます。それでいいっすよね。洸…、もう、マンチカンでは過ごしたくないってあんた達とお店屋さんごっこするって言ってましたよ。」
「お、おう。それでいいよ。紗栄もいいんだよな?」
「うん。洸のこと、ありがとう。見ててくれて。」
「別に…んじゃ、俺はこれで。」
扉のベルがガラガラと鳴って、たけしは立ち去った。
その後ろ姿はとても寂しげだった。
嫌なことされたのに、洸のことはしっかり見ててくれた。
何だか複雑な気持ちの紗栄だった。
まさかのテレビ取材が来たからか、ちょうどよく洸がやってきた。
洸も、お店の手伝いができることが嬉しかったみたいだ。
さとしのスマホが鳴り響く。
名前は優子と表示された。
スワイプして電話に出た。
「優子さん?」
『ごめん、さっき、そっちにたけしくんが洸を連れてったと思うんだけど、どう?来たかな?』
「来ましたよ! 洸はここにいますが、たけしはさっき帰りました。」
『洸はいたのね。何だか、マンチカンのお店にいたくないって駄々こねられちゃって、連れてって大丈夫だったかなと思って、申し訳ないんだけどさ…』
優子は声を落とした。
予想外になってしまったことに申し訳なさそうだった。
「優子さん、気にしないでください。洸が行きたいところに行かせてあげましょう。ウチは大丈夫ですから。」
そう言って優子を安心させて、電話を切った。
さとしは腰をかがめて
紗栄の横にいる洸の頭に手を添えた。
「洸、今度からパパとママが仕事の時はここ来るか? 洸、お店好きなんだろ?」
「洸は、紗栄が好き。さっくん、嫌い。」
「ま、それが本音だろうけどな。お店の手伝いしたんだろ? きちんと返事しないとやらせないぞ? この店の店長は俺だかんな?」
「むむむ。お店も好きだもん。やるんだもん。さっくんより僕が紗栄のこと助けるんだもん。べーだ!」
「お? やるか? んじゃ、表出ろや~。勝負だ!」
さとしは突然、洸と殴り合いか相撲を取るのかと思ったら、店の引き出しの中に入ってた大きな凧を広げて、凧糸を伸ばして空に飛ばした。
ちょうど山に近くて、電柱も少なかった。
青空の雲をキャンバスに青い凧が飛んでいった。
「いつの間に買ってたの?これ。」
「何、言ってるの。これ、ゴミ袋で作ったの。手作りだよ。割り箸つけただけ。紗栄、知らないの? ほら、洸もやってみ。」
凧糸を洸に手渡すと、震えてあっちこっちに飛んだが、さとしが横から助けてあげてどうにか飛んだ。
洸はこれが初めての凧あげだった。
興奮して何度も何度も上に
高く高く飛ばしていた。
「すごい。高く上がったね。さとし、洸のために準備してたんだね。よかったね、洸。」
「さっくん。特別に許してあげる。」
「上から目線? 仕方ねえな。店長直々にお手伝い任命ね。」
さとしよりも看板になりそうな洸がお手伝いとして任命された。
洸は嬉しくて、凧糸をどこまでも伸ばして凧あげしていた。
その空はとても青く、雲はソフトクリームのようにふわふわしていて、青い空に飛んだ凧は同化して見えなくなることもあった。
太陽はギラギラと照らし輝いていた。トンビが空高く飛び立っている。
明日もきっと晴れることだろう。
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