初心者を探せ!
「勝二、よくも連休中、放置してくれたな」
「すまん。先約ができた」
「それは聞いた」
登校して早々、中学時代からの友人に俺は絡まれていた。
相変わらずの無表情。
美人が台無しだぜ、とか抜かそうものならヘッドロックが決まる。
俺の頭に。
この元剣道ガール、フィジカルは高いが、実は沸点が低い。
「熱中したら周りが見えなくなるのは分かってた……今回は止めるべきだった」
「なんでだよ」
教室へ向かう廊下で、憂いの溜息をつく藤坂。
「せっかくの連休を無駄に──」
「おはよう、藤坂さん!」
「おはようございます」
すれ違う同級生へ挨拶する藤坂は、まるで別人のように淑やかに笑う。
青春を謳歌するJKって感じだ。
そして、俺へ向き直ると見知った無表情になる。
なんでだよ。
「せっかくの連休を無駄にするからだ」
「無駄って、お前……実に有意義だったが?」
かわいそうなものを見る目、やめろ?
俺のピュアハートが傷つくぞ。
「チュートリアルのボス、オープニングは初心者が倒せる相手じゃない」
「へぇ、オープニングって名前だったのか」
さすがティタン・フロントラインでは大先輩の藤坂だ。
知ってて当然か。
「あそこはパスして、私と一緒に遊ぶべきだった」
「いや、だって倒せそうなら挑むべきじゃん……」
友人との付き合いは大事だと思う。
こうやって遊べる時間は、きっと今しかない。
でもな、藤坂よ。
男には負けられない戦いが──
「負けの込んだギャンブラーみたいなことを言うな」
「いや、負けてないから」
はい、本日2回目、かわいそうなものを見る目!
「というか昨日、メッセージ送ったろ?」
深夜に嬉々としてクリア報告を送った非常識な男。
それが俺だ。
最低だな、自重しよう。
「信じられない」
「ばっさりだな、おい」
「昨日まで撃破不可能とされたオープニングを、たった5日で撃破……さすがに信じられない」
藤坂は真面目に言ってるみたいだが、撃破不可能なんて大袈裟だ。
チートを疑う強さだったが、性能は互角、被弾すれば損傷するし、何より撃破できた。
俺より上手いゲーマーで世の中は溢れてるんだ。
申告者がいないだけだろ。
「いいさ、いいさ。あの勝利は俺の胸の中にしまっておくよ」
教室に辿り着いた俺は、臍を曲げたアピールをする。
それを見た友人は、これまた本日2回目の溜息をつく。
幸せが逃げるぞ、藤坂。
「ただ……仮に、仮にだ」
「おん?」
着席しかけた腰を浮かせ、珍しく勿体ぶった言い方をする藤坂を見た。
「オープニングを撃破したことが事実なら──黙っておいたほうがいい」
「チュートリアルマスターって名乗る気だったんだが?」
もちろん嘘だが、世間に反発したい青少年の心が疼いちまった。
捨てとけ、そんな安っぽい心。
それに名乗るなら、もっと洒落たネーミングが──
「戦争の火種になる」
ティタン・フロントラインってゲームだよな?
◆
宿題を片付けた俺は、VR機器を被ってティタン・フロントラインの世界へ飛び込んだ。
戦争の火種はごめんだが、ようやくチュートリアルが終わったところだぞ?
我慢できないぜ!
「うおっ眩し…くもないか」
超高画質で描画されたポストアポカリプスな世界──ではなく、猥雑な印象を受ける都市が眼前に広がっていた。
微妙に曇った空の下、全高10mの巨人が並び立つストリートを、サイボーグやら獣人やらカオスな人々が行き来している。
ここがティタン・フロントライン、始まりの地か。
父さんの時代から格段に進化したVRMMOは、現実と区別がつかないという。
確かに現実と誤認しそうなリアリティがあった。
「さて──」
何をしたらいいんだ、これ?
チュートリアルをクリアして燃え尽きた俺は、リザルトでの会話を聞き流してログアウトしてしまった!
自業自得じゃん。
どうしよう。
「君、ここは初めて?」
おお、神よ。
迷える子羊に、優しい声をかけてくれたのは薄着の美人なお姉さん。
その背後には、手を振る厳ついデザインのサイボーグさん。
なにこれ、
「身構えないでくれ、怪しい者じゃない」
それを言った時点で怪しい者に認定されるぜ。
表情が読めないメカメカしい頭部だと尚更。
「良ければ私たちのクランに入らない? 初心者募集中なの」
「この世界の歩き方ってやつを手取り足取り教えるぜ」
なんだ、親切な先輩じゃないか。
心配して損した──
「アットホームなクランだから初心者でも安心、やる気次第で即戦力!」
「ノルマはないから自分のペースで進めていい!」
「チュートリアルをクリアしていたら即幹部入り!」
「今なら格安でパーツを融通できるぞ!」
めちゃくちゃ圧が強いし、目が怖い。
謳い文句から隠し切れない闇が滲み出てるぜ。
これブラック企業か、新興宗教の勧誘だよ。
「すいません、俺の家は浄土真宗なんで間に合ってます」
「何の話?」
「おいおい、ニュービーがビビッてるじゃねぇか」
困惑する俺たちの間にガテン系の兄さんが割って入ってくる。
鋼みたいな筋肉が眩しいぜ。
「そんな零細クランよりも俺たちのところに来いよ! 対人戦の楽しさを教えてやるぜ」
「誰が零細だとぉ? 害悪フレイムロッカーどもが!」
「あぁ? フレイムロックは人権だろうが!」
サイボーグと筋肉が対面して睨み合う。
俺そっちのけで場外乱闘を始めそうな勢いだ。
あと、フレイムロッカーって何?
「うわぁ、人権とかだっせ。時代は重逆ダブルショットガンだわ」
「アリーナじゃ旧世代なんだよなぁ」
「あのニュービー、デフォのままじゃん」
「本当に初心者っぽいな……」
ぞろぞろと野次馬が集まってきて、勧誘どころの騒ぎじゃない。
チュートリアルをクリアしてなくても初心者ってだけで火種だよ。
「そこの君」
この場を収めてくれそうな知的ボイスに振り向けば、狐耳が揺れていた。
視線を落とせば、黄金色の髪と耳と尻尾をもつロリが!
名前以外デフォルトの俺と違ってメイキングに命かけたんだろうな。
「世界の真実を知りたくはないか?」
意味深なセリフにときめかないこともないが、俺の目的はロボットバトルだ。
そうとも──俺の道は決まっていた。
迷うことはねぇ、ここを振り切って傭兵でもアウトローでもやればいい。
そんなジョブあるか知らんが。
「いえ、結構です──」
「世に銀蓮の祝福と安寧を…」
この場を後にしようとする俺の前に、額に13の数字が書かれた全身サイボーグの一団が現れる。
真面目に新興宗教みたいなの出てきたんだが。
ティタン・フロントラインって初心者が絶滅危惧種だったりするの?
「そこまでよ!」
けたたましいエンジン音と共に乱入してきたのは、厳ついデザインのバイク。
そして、パンクな格好をした銀髪赤目の美少女だった。
その華奢な見た目に反し、厳ついバイクでブレーキターン──後輪の旋回半径には、全身サイボーグの一団。
雑技団みたいな宙返りを披露して一団は退く。
普通にかっこいい。
ゲームジャンルが迷子になっているぞ、ティタン・フロントライン!
「乗って!」
「うっす!」
ここで足止めされても面白くないし、この場の勢いに俺は従うぜ。
迷うことなくバイクの後ろに飛び乗って、美少女の細い腰に抱き着く。
落ちると危ないからね!
「おい! 待ちやがれ!」
「これ以上、逃してたまるか! 追うよ!」
「世に銀蓮の祝福と安寧を…!」
「あれって配信者の──」
エンジンが唸り声を上げ、急加速する世界。
華麗なライディング・テクニックで野次馬を躱し、だだっ広いストリートへ飛び出す。
あばよ、親切そうで親切じゃなかった先輩たち。
俺は風になる!
「助かりました……えっと」
勢い任せでバイクに乗ったが、俺は彼女の名前を知らない。
ミラーに映る銀髪赤目の美少女と目が合い、不敵で可愛らしい笑みを返された。
今のは、きゅんと来たね。
「ふふっ通りすがりのヘルパーさんよ──追手が来たみたい!」
最近のヘルパーさんはスタイリッシュだぜ!
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