31.特級魔術の巻物
魔力とは一体どういう物なのかは今だはっきりと解明はされていない。その発生原理も含めて研究中としか言いようがない物ではあるが、確かに世界には魔力があり、
下級、中級、上級、特級と区別された
しかし、当然ながら
「――もぅ! 時間が無いってのにッ!! 術式に暗号文を混ぜておまけに
根本的に攻撃魔術と異なる考え方の術式に思わず愚痴をこぼすチェシカ。
攻撃魔術の術式は簡略でありながらも効果、威力をより大きくするのが基本だが、この
そもそも
チェシカは帝法魔導学院の
「これで――どう!?
「――――」
「ちょっと! 何黙ってんのよッ!!」
押し黙ったまま言葉を発しないヴァンに、痺れを切らしたチェシカが声を上げたその時、部屋の転移魔法陣が魔力光を放つ。
「チェシカ! ゼツナはここには来ないよ! 一人で残って決着をつけるって!」
黒の民の里から転移して来たヒュノルが開口一番、説得に失敗したことを告げる。
「――ったく! あの娘はッ!」
ある程度予想出来たとはいえ、案の定な結果に苛立った口調になる。
「ヴァン! 黙ってないで答えて!
多少の八つ当たりは自覚しつつも、チェシカは荒立つ口調を気に留めることはしない。
「――結論から言おう。
「問題? 何よ?」
「この
「なん……ですって?」
ここに来てその事実は致命的になる。
「理由はわからん。元々完全な【
ヴァンは「おそろらく」と前置きを加えて続ける。
「【
魔術が
「それじゃ、この
「いや、使えるぞ」
「は? いや、今さっき不完全だって……」
「術としては不完全だと言ったのだ。
「ちょっと待って――」
チェシカはしばらく広げられた
「それってつまり――」
「うむ。不完全な【
「不完全ってどの程度なの? やっぱり封印は解除されないとか?」
「それは発動しないことを意味する。そうではなく、この場合は一定時間の間、封印が解除されると思われる」
「一定時間ってどのくらい?」
「実際に発動させてみないと確実な事は言えないが、この術式の記述から判断すると、おおよそ数分といったところだろう」
ヴァンは「あくまで推測だがな」という言葉も付け加える。
「――あんたでも正しい記述に書き換えれないの?」
「無理だ。私とて知らない術はどうしようもない。この【
「――賭けるしかないわね。とにかく解読を急いで。時間的にギリギリかもしれない」
◇
今回の相手は魔術戦よりも近接物理を好むと思われるので、対物理装備を念頭に置いている。その為、普段はゴテゴテとした装備は付けないが、胸と胴が一体となっている
「――ふぅ、終わったぞい」
汗一つかいていなかったが、額の汗を拭う仕草をするヴァン。その口調も感情の起伏の無い平坦な声から、最初の好々爺然とした口調に戻っていた。
目の前に開かれて置かれていた
「――助かったわ」
受け取ったチェシカは一言例を言うと
「ヒュノル! 行くわよッ!!」
「わかった!」
ヒュノルに声をかけて部屋の転移魔法陣へと歩いて行くチェシカに向けて、ヴァンが声をかける。
「――ほれ、これも持っていけ。何かの役に立つかもしれんて」
ヴァンがそう言うと、先ほどの
「これは?」
受け取ったチェシカはそれが剣の柄だと気づく。
尋ねたのは何かではなく、どういった物なのかということ。
「儂がこしらえた物じゃ。まぁ、特に
「
「その柄を目標にして魔術を放てば、その術を媒介にして術の属性に応じた刃が発生するんじゃ」
ヴァンは目を閉じて腕を組み、自慢げにうんうんと首を振る。
「大抵の魔術には対応するじゃろうて。まぁ、耐久テストはそれほどしておらんでな。どれほどの回数、剣を発生させることが出来るのかは未知数じゃがの」
これといって特に変わり映えの無いどこにでも見かけるような剣の柄ではある。ただ
「わかった。遠慮なく使わせてもらうわ。ありがとう」
「ヒョッヒョッヒョッ。感謝も礼もいらんて。その代わり――必ずその魔人をブチ殺すのじゃ」
ただただ純粋な憎悪だけが籠った笑みを浮かべるヴァン。
「――ふん」
チェシカは一つ鼻を鳴らすだけで答えた。
誰かの為に戦うのではなく、誰かの指示を受けて戦うのでもない。チェシカ自身が決めた結果として戦うのだ。
「【
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