第123話 束の間


「……危うくジオが、100年もの間、帰ってこないところだったということか?」


 再会を祝して腕を固めたあと、ルーエに事の仔細を伝えた。

 もちろんちゃんとハグもしたが、気持ち悪い笑みを浮かべていたので、もう一度関節を軋ませておいた。

 ルーエは、最初のうちは冗談だと思って聞き流していたが、俺の真剣さに居住まいを正して話を受け入れてくれる。

 実際に体験しなければ、常人ならば思考が追いつかないだろうが、腐っても彼女は魔王。

 あり得ないような事柄でも、事実として素直に飲み込む。


「未来の私がどんな気分だったかはわからないが、自分を犠牲にしてまで天降石とやらを食い止めたのは流石だな。これもまた、ジオへの愛が成せる技……か」

「は、はは……」


 こういう時、なんで返せばいいんだ。

 俺のために、かどうかはさておき、彼女が世界を救ってくれたのは事実だが、それにしては反応が薄すぎるというか、キザというか。

 自分の死すらも決断の範疇内だと言っているような潔さ。


「だが、私一人では力不足だったというのは癪だな。これでも、お前を除けば世界最強の自信があるんだが……」

「しょうがないよ。見たことはないけど、そもそも一人の力でどうにかできるものじゃないだろうし」

「……その言い方だと、二人ならどうにかなると言っているようだが?」

「それは……まぁ。できることも増えるし、俺以外にもミヤがいる」


 おそらくだが、ルーエの得意な消滅魔術は天降石との相性が悪いのだ。

 魔術で生成した物体が触れた部分を消滅させるというのは強力だが、対象が巨大すぎるとあまり意味をなさない。

 むしろ、削ったことで天降石が割れ、被害が広がってしまう可能性もある。

 未来の彼女もそれを考えて、破壊するのは程々に、残りの魔力を全て使って防御に徹したのだろう。


「やるだけやってみるしかないよね。あの人たちのためにも」

「あぁ、私も一応は魔族の長だし、できればみんなを守ってやりたい」

「ミヤもお二方に同意です。頑張りましょう」


 気付くと真横にミヤがいた。

 いつの間に、と驚きが口から漏れる。


「こちらは村の方々に詳細を説明し、信じてくださらなかったので脅し……失礼、必死な説得の末、協力してくれることになりました」

「今、脅したって言ってなかった?」

「言っておりません」

「今、脅したって言ってたぞ?」

「言っておりません」


 すまし顔で恐ろしいことを言う子だ。

 思えば、一緒に暮らしていた頃も同じようなことが何回か……いや、思い出すのは後でいい。


「これから対策を話し合うつもりなのですが、お館さまはどうされますか? テレポートで誰かに助けを求めに行くというのも良いかと」

「それも考えたんだけど、魔力を温存したいから。ルーエと一緒に対策会議に参加するよ」


 俺の教え子の中で再会したのはキャス、ランド、シャーロットの3人。

 正直、一人でも駆けつけてくれたら心強いのだが、手紙を出している時間はない。

 また、キャスとランドに関しては、前者は名うての冒険者として、後者は建築業者として世界中を飛び回っている。

 だから現在の居場所が特定できず、徒労に終わる可能性が高い。

 反対に、シャーロットはケンフォード王国の騎士団長ということで、不在だとは考えにくい。

 とはいえ、最近、王の命を狙う刺客が現れたばかりだし、警備を手薄にさせるのは得策ではない。

 つまり、援軍は偶然に頼るしかないのだ。

 そうそう上手くことが運ぶわけもないし、俺も俺で、莫大に魔力を使う算段がある。

 天降石については、俺とルーエ、ミヤ、そしてカグヤノムラの人々で対処するしかないだろう。

 

「承知いたしました。それでは参りましょう」


 早足で宿を出て、村の広場に向かっている時、ルーエがふと呟いた。


「……根本的な話だが、どうして天降石が降ってくるんだ?」

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