第73話 役割
自分が物心ついてから心に残り続け、ついにはそこで仕事を始めた。
ロジャーにとって教会とは神への祈りの場であり、守るべき人々の憩いの場であり、そして兄弟のような存在だった。
だが、それが今、地下から湧き上がるようにして現れた魔人によって粉々に破壊されている。
「――なっ」
耳をつんざくような爆発音。
遠く離れていても風圧に身体が吹き飛ばされる。
一瞬にしてあたりには木材が散らばり、教会は影も形もない。
ジオが出発した後、彼らはそれぞれの日常へと戻ろうとした。
ロジャーは教会へ向かう前にエドガー宅に寄り、夕飯を済ませると、仕事のために出ていったのだ。
そして、その時間のずれが奇跡的に彼の命を救うことになる。
魔人の起こした爆発に巻き込まれずに済んだのだ。
現場に向かい、教会のあった場所にぽっかりと穴の空いたのを見て、ロジャーは酷く衝撃を受けた。
だが、ジオとの特訓を経て折れない心を得た彼はすぐさま立ち直り、武器を手に地下から湧き出てくる魔物へ向かっていく。
その頃、爆音に驚いたエドガーとルーエも屋外へと出てきた。
「おいおい、いきなり揺れたと思ったらなんだこれは!?」
「……ジオの見立ては間違ってなかったようだな。あそこから魔物が出現しているのを見るに、牧師が魔物研究をしていたのだろう」
「だからってあんなヤバそうな奴がいきなり現れるか!? 読者に叩かれるぞ!」
「そうだな。おそらくなんらかの生贄を介して呼び出される悪魔……あの牧師が知らずに使ったな?」
魔人は目覚めたばかりなのか、周囲の様子をうかがっていて行動を起こしていない。
これ幸いとばかりにルーエは言葉を続ける。
「元々は大したことのない魔物だったのだろうが、肥えた人間を喰らって徐々に力を増しているようだ。私の見立てでは……名ありの魔物と同程度の強さはありそうだ」
「ネームドモンスターと!? 村が滅びてしまうぞ!」
「その可能性は高いな」
「ジオは王都へ向かったし、あんたが戦ってくれるのか!? 俺はペンより重いものは持てん!」
ロジャーは一人、村人を逃しながら魔物と戦っている。
魔人以外はC級程度の魔物ということもあって、撃破には困らないが時間はかかってしまう。
「……面倒だがジオが悲しむといけない。もちろんアレは私が始末するが……おい人間!」
奮闘する副牧師に声をかける。
「流石にアレの相手をしながら村の人間を助けるのは厳しい」
「見捨てるということですか!?」
「いや、選ばせてやろう。私がアレの相手をしている間に雑魚を倒すか、お前がアレを食い止めている間に雑魚を掃除してやるか」
「そんなの、あんたが魔人を相手にする方がいいに決まってる!」
「そうか? やり合うなら加減はできんし、間違いなく村は地図から消えるぞ」
決して誇張や嫌がらせではない。
魔人の起こした爆発の範囲を見るに、戦えば周辺環境に甚大な被害が出るだろう。
数の多い雑魚を倒すのにも時間がかかるし、村人の避難は絶望的。
そうなれば、最も救われる人間が多い選択肢は――。
「――私が魔人の足止めをします」
「正気か!? いくら修行したからって、アレの相手は無理だ!」
「でも、私が戦えば……村の人は助けられますよね?」
震える身体を必死に抑えながらロジャーは問う。
「……30秒。それだけ持ちこたえられるなら、雑魚を掃除してアイツも引き受けてやれる。それで良いか?」
「はい! お願いします!」
「死が目前に迫っているというのにいい返事だ! 流石はジオの弟子だな!」
作戦開始の号令など要らず、二人は言葉を交わすとそれぞれの標的に向かっていく。
「ま、まじか……俺は、俺は村人の避難役をやるぞ! ……後で体験したことを聞かせろよ!」
エドガーもまた、混乱する村人たちの元へ駆け出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます