おっさんと王国観光
第45話 教会
「よおおおしジオ! やっと観光の時間だぞ!」
肝が冷えた模擬戦も終わり、俺とルーエはひとまず解放されて二人で歩いていた。
エドガーという小説家に会いに行くのは明日ということで、今日はこの後ケンフォード王国の観光をすることにした。
行動範囲は、門から城の外までのちょっと高級なエリア。
「さて、どこに行こうか」
「こういう国では教会やら貴族の家やらを見学するのが一般的らしいな」
「へぇ、よく知ってるな」
ルーエが「一般」のことを知っているとは思わなかった。
どこで知識を仕入れたか気になって聞いてみる。
「お前がジャ……なんたらと戯れている時にちょっとな」
「……聴覚強化で観光客の会話を聞いてたんだな」
通りでぼーっと見ていたわけだ。
でも、そのおかげで俺たちのやることは決まった。
「それじゃあ、まずはその教会ってやつに行ってみようか」
「教会なら大通り沿いにあるらしい。陽が暮れる前に行くと良いと聞いたし、少し急がないとな」
そう言って歩き出したルーエ。
彼女の隣を歩いていると、彼女が突然腕を絡めてきた。
「ル、ルーエさん……?」
「……文句でもあるのか? こう人が多いと逸れてしまうかもしれないし、ジオのような田舎者は私がいないとどこへ行くかわからないからな」
「確かに……?」
気心知れた仲とはいえ、さすがに密着されるとドキドキしてしまう。
……はぁ、これは山籠りの弊害なのかなぁ。
道端を歩いているカップルは如何にもこなれた顔で歩いているし、俺にもこんな余裕がほしい。
いずれ俺も社交パーティとやらに呼ばれるらしいとシャーロットが言っていたし、その時にでも勉強させてもらおう。
胸の高鳴りを抑えているうちに、おそらく教会であろう建物が見えてくる。
城に勝るとも劣らないような巨大な建造物。
灰色の石造りで、縦長の窓が多く取り付けられている。
「これが教会……俺が幼少期を過ごした村には教会なんてなかったな」
「私の国にも……まぁそれは当然か。この間のように願いごとも満足にできないだろうからな」
「……悪い神様とか祀ったりしないの?」
そう聞くと、ルーエは呆れたように肩をすくめた。
「仮に邪神がいたとして、願って何になる? 願う時間があるなら少しでも自分を鍛える方が良いだろう」
最もな言葉に何も言い返せない。
「おお……だが、これは美しいな……」
教会に入ると、高い天井に向かって伸びる白く磨かれた石の柱と、煌めく色のついたガラスが目に入った。
「この大理石の柱は……でして、ステンドグラスが光を浴びることで投影される影が……」
すぐ近くでは、観光客と思わしき人たちが黒い服の男から説明を受けている。
おそらくあの男が「神父」という存在なのだろう。
「おや、あなた方も観光ですかな?」
二人でキョロキョロ辺りを見回していたからだろうか、解説を終えた神父が話しかけてくれる。
「そうなんです。私たちは田舎から出てきたので全然わからなくて……」
「そうでしたか。では、少しばかり説明をさせていただいても?」
「もちろんです。お願いします」
神父は手に持っていた書物を胸に当てながら言葉を続ける。
「この教会は、我らの主に対する祈りの場です。歴史も深く、教会内には様々な聖人の彫像や聖書が展示されていて、歴史を感じられるでしょう」
彼の指差す方を見てみると、壁際に台座が彫られ、その上にゆったりとした服を着た男の像があった。
また、反対の壁際には年季のある本が飾られている。
「さらに、中庭には美しい薔薇園があり、ここで読書を楽しむこともできます」
「神に祈って何になるというんだ?」
「おい、ルーエ!」
彼女の質問が場にそぐわないものであることくらい俺でもわかる。
だが、神父は優しく笑い、気分を害したようには見えなかった。
「たとえば、何か絶望的な事態に見舞われたとします。個人の力では到底太刀打ちできない事態に。その時、私たちの祈りは神へ通じ、神によって救済されるのです」
「自ら戦うことはしないのか? 個人では太刀打ちできなくとも、力を合わせれば勝てるかもしれないぞ」
「人々が互いを信じ合えばあるいは……ですが、それは難しいのです。だから私たちは、個人を、集団超える神に祈りを捧げるのですよ」
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