第15話 金髪モヒカン舎弟

「これ、どのくらいで店に入れるんだ?」

「1時間……2時間はかかるかも。別の場所にしよっか」

「せっかく連れて来てくれたのに悪いな」


 ここで2時間待つくらいなら、まだ他のところを見てみたいという気持ちがあった。

 長蛇の列を見ながら足を進める。


「いやぁ、やっぱり並ぶのは女の子ばっかだね」

「まぁね。私も甘いものとか可愛いものに惹かれちゃうし」


 列の先頭にいるのは15〜6の女の子二人組。

 店に入るのを今か今かと待ち遠しそうに待っている姿が可愛らしい。

 その後ろには、メガネをかけた真面目そうな女性。

 さらに次に並んでいるのは――。


「……あん?」


 金髪でモヒカンスタイルという威圧的なお兄さんだった。

 いくら見た目を隠蔽しているとしても視線を隠すことはできないようで、「こっち見んじゃねぇ」とでも言いたげな反応をもらってしまい目を逸らす。


「あんまり見ない方がいいよ。何かあれば私が守ってあげるけど、トラブルはないに越したことはないから」

「そうだな。行こう」


 金髪の男はまじまじと俺を見てきたが、気にしないように歩く。


「――おい! 待てよあんた!」


 背後からドスの効いた声が聞こえて来た。

 おそらく……というより、間違いなく俺を呼び止めているのだろう。


「……はぁ、いくら隠蔽してるからって相手が悪かったね。ジオ、私が片付けるからジオは――」

「おい、待てって!」


 男は凄まじい速さでこちらへ向かっていたようで、俺が振り向いた時にはすでに目の前に立っていた。


「――なっ、速い!?」


 予想外の事態に驚く俺とキャス。


「……やっぱりだ」

 

 男は俺の顔をもう一度見て、ニヤリと口の端を吊り上げて笑うと、その手を――。


「お久しぶりです! ジオの兄貴ィィィィィ!」


 手を握り、地面に勢いよく打ち付けながら頭を下げた。



「お待たせしましたー。こちら雲のパンケーキが三つになります」

「姉ちゃんありがとな! ほら、兄貴とキャスさんもどうぞ!」


 ガラの悪い男が満面の笑みで俺たちにパンケーキの皿を渡してくれる。


「えーっと、あなたは一体……?」


 男が頭を下げてすぐ、彼が店内に案内される順番が来てしまった。

 そして俺たちは、彼に促されるままに店内に入り、こうして3人で席についている。


「俺っすか? 俺は昔、ジオの兄貴に拾っていただいたんすよ」

「え? 俺が君を?」

「そうっすよ! 確かに見た目は変わったかもしれないすけど、見てくださいこの傷を!」


 彼の左眉を切り裂くような一本の傷。

 目の前の男に見覚えはないが、この傷には見覚えがある。


「……もしかしてランド?」

「その通り! まじでお久しぶりです!」


 ランドは山に捨てられていた子供のうちの一人だ。

 どうやら素行に問題があったらしく、共に暮らすようになってからもしばらくは心を開いてくれなかった。

 だが、ようやく少しずつでも話をしてくれるようになると、彼は素行が悪いというよりも、キチンと導いてくれる大人がいなかっただけだと気付いたのだ。

 そうして二、三年を共に過ごして一人前になった彼を外の世界へと送り出して、今。


「簡単に言うと家建ててんすよ、俺。そんで、将来は兄貴にどデカい家を建ててあげたいと思って」

「確かにあの家、ボロいからね……」


 キャスが呆れたように共感する。


「そんなに過ごしにくかった?」

「ううん。そうじゃないけど、ジオはいつも私たちにベッドを譲って自分は床で寝てたし、申し訳なくて……」

「そうなんすよね。マッサージならいつでもしますけど、それじゃあ解決しませんしね」


 彼らが健康に過ごせるようにと思っての行動だったが、かえって気を使わせてしまっていたのか。


「っていうか、彼はいつ頃ジオにお世話になっていたの? 私は会ったことないけど……っていうか思い出して貰えなかったし……」

「ランドはキャス達が出て行ってからしばらく後だね」


 それなりに多くの子供達を育ててきたし、歳のせいかいつ頃の関わりか怪しい部分がある。

 山の内部の時間の進みを遅くしていたこともあるため、実際の年齢には少し差異が生まれているはずだ。


「てことは、キャスさんは俺の先輩ってことっすね! こんなすげぇ魔術師様も育ててたとか流石兄貴っす!」

「いや、それはキャスが自分で努力したからだよ。ランドもちゃんと職について、本当に成長したんだね」

「あ、兄貴……。すいません、ちょっと泣いてきます」


 彼は席を立って店の外へと歩いて行った。


「……言葉遣いは荒っぽいけど、まっすぐな子なのね、彼」

「あぁ、そうなんだよ……ぐすっ」

「ジオも泣いてるの!?」


 彼の熱さに当てられてしまったようで、気づけば俺も涙していた。

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