第21話 真性のSな幼馴染が支配した日

 他のクラスメイトがいる前で一体何を言うかと思えば、あの細い足で俺を踏みつけるっていうのか?


 冗談にしてはきついぞ。珠季の中の俺は一体どういう存在でどんな扱いをしていいと思っているのか、それだけでもはっきりさせておかなければ。


 街香とのやり取りで多少の免疫は出来ているとはいえ、珠季は根本が違うから同じようにいくと駄目な予感さえある。


 このままクラスメイトの視線を一点に受けるのも厳しいので、とにかく珠季の前に近づくことにした。


「やっぱりわたくしの前に来てくれると思っていたわ。あたるくんなら当然の行動ね! さぁ、あなたを踏みつけてあげるから足下にきて」


 あぁ、やはりの意味だったか。


 小さい頃に一緒にいた時は、単純に役作りの相手としてやっていたから気にする余裕も無かったが、珠季は時々俺を足で踏みつけるという"遊び"をした。


 俺は嬉しくもなんともなかったが、珠季はそうすることで俺が喜ぶとでも幼いながらに学んでいた可能性がある。


「……悪いけど、俺はやらないよ。ましてここは教室の中だしね」

「どこだろうと関係ないのだけれど、わたくしからの"ご褒美"が欲しくないの?」

「いらないよ」


 周りの女子たちからの冷ややかな視線もあるし、近東たちも引いたような目で俺を見ている以上、珠季を甘やかすわけにはいかない。


「へぇ……小さい頃にわたくしの足を散々舐め回しておきながら、そういう態度を取るなんてあたるも偉くなったのかしらね?」

「それは違うよ。少なくとも直接舐めてないからね? 俺は踏まれていただけだし」


 知らなかったと言わんばかりに、彩朱や恋都もちょっと俺を怪しんでいる。


 しかしそんな中、


「――子役で売れたからって、妄想を現実に持ってくるのはおかしいね。あたるは身に覚えのないことを言われているというのに、それでもを通すつもりかい? 神城珠季!」


 俺と珠季の間に割って入り、俺を守るかのようにして街香が前に立った。


 今まで敵扱いされていたのに、くすぐりの刑だけでこんなに変わるものなのだろうか? 


「ふふん、愚問なことを言うのね。子役時代は関係なく、これはわたくしの常識であって、あなたごとき低俗な庶民には関係の無いことなのだけれど? そもそもあたるくんとあなたは敵同士なのではなくって?」

「いつまでも過去に囚われて周りが見えないのはお前の方だと思うけど? 神城」 


 街香はもう前だけを見てるってことなんだな。何て頼もしい。


「……どうでもいいわ。わたくしはあたるくんが拒もうとどうでもいいの。拒まれながらも彼を這いつくばらせて、わたくしの足で踏みつける……あぁぁ、想像するだけでイキそうだわ!!」


 珠季は恍惚とした表情を浮かべ、舌を出しながら目を細くして俺を見ている。その姿にこの場にいる誰もが寒気を感じたようだ。


「ちっ、サディスティックな奴め。あたるは気づいていなかった?」

「何を……?」

「この女が真性のSだってことを。マチはあたるとこいつがどういう感じだったのかを見ていない。けど、こいつはガキの頃に目覚めてたって確信してる」

「S……うぅん。思い当たることしか無いような……それにしたって何で」


 とにかく教室の中が凍り付いているし、話が進まないのをどうにかしないと。


「……このままマチと逃げようか? あたる」

「それもいいかもしれない。でもSだろうと何だろうと彼女を落ち着かせるよ。多分俺だけしか出来ない問題だろうしね」

「あたるがそうしたいなら……」


 ヘリで学園に来ただけでもやばい子だと分かるし、黒ずくめの男たちを引き連れてきたのも厄介すぎる。こういう時に限って空上先生は来てくれないし。


 普通の状態に戻すには、珠季に対して何かしてあげなければ収まらないはず。


「珠季。ここで再会したことは嬉しいよ。けど、ここではおしとやかな君でいて欲しいんだ。だから彼らも含めて、この場を抑えることって出来ないかな?」


 ギャルカフェで遭遇した時はマシだったのに、学校に来てが外れたのか素がそうなのかは分からないけど、まずは落ち着いてもらおう。


「あたるくんの言いたいことは分かるわ」

「え、じゃ、じゃあ……!」

「――つまり、抑えきれないわたくしをはずかしめたいのね?」

「えぇっ!?」


 なぜにそんな思考にいくんだ。


「……とまぁ、そろそろお遊びもおしまいにしてあげるわ。空上先生も来る頃だろうし、この辺で許してあげるわ」

「へ?」


 そうかと思えば急に無表情になって、冷めきった目で教室を見回している。


 そして、


「先ほどから石化している愚民の皆さまにはこのサプライズは刺激が強すぎたかしらね? それにまさかと思うけれど、わたくしの言葉を本気にしたのかしら? そうだとしたらつまらないわね」


 まるで興味でも失せたかのように、珠季は黒ずくめの男たちを手で払い、この場から下げさせた。


「そうそう、断っておくけれどここにいる彼……あたるくんとわたくしは幼馴染の関係ですわ。ですので、明日以降はそのつもりで接して頂けるとこちらも特に気にしないので、そこに隠れている空上先生もそのつもりでお願いしますわね!」

「あはは~……特別扱いはしないってことで分かりました~」


 珠季は完全に教室のみんなを支配してみせたな。一連の行為はあえて見せたにしても、あれでは誰も気安く声なんてかけられないと思うが。


「珠季……どういうつもり――」

「わたくしに悪気なんて無いの。無いけれど、あたるくんを支配していいのはわたくしだけ……それだけは覚えていてくれる?」

「い、一応覚えておくよ」


 せっかく彩朱と街香が変わりだしてきたのに、何でこうも凶悪な幼馴染が残っていたのだろう。


 四人の幼馴染全員と特別な仲になる――簡単じゃないのかもしれない。


「…………ボクだって負けないんだから」

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