幼馴染4人組と『再会しても仲良しだよ』と約束したのに、再会しても『ざまぁ』と言い放って俺に馴染んでくれないんですが?

遥 かずら

第1話 永遠の約束。からの

「ナカくん。約束してくれる?」

「うん、約束する! みんなと永遠に仲良くして、みんなみんな、僕とずっと一緒に! そして絶対――!」


 ――――


 寝付けない夜のほんの数時間の間に、幼い頃の夢を見た。かなり昔、それこそまだ小学校に上がる前のガキの頃の話だ。


 女の子四人と俺一人。夢で見たのは断片的で一番近くにいた女の子の夢だけが鮮明だったが、みんな可愛い女の子だったことを思い出す。


 今では考えられないが、ガキの頃は家が近いというだけでしょっちゅう一緒にいて遊んでいた。今でいう幼馴染って関係だろうか。


 幼いながらにしてすでにハーレムが出来ていた俺だったが、小学校低学年頃に両親が海外に赴任することになり、俺も海外に渡ることになった。


 その時、四人の幼馴染とも泣きながら俺を送り出してくれたことを覚えている。愛称で呼び合っていたせいか四人の名前は正確に覚えていないが、俺にはかけがえのない幼馴染だった。


 ガキの頃は好きとか嫌いとかを意識する余裕も無いくらい一緒にいたわけだが、その時に約束したことだけは俺の中ではっきりと覚えている。


 四人とも小さくて可愛くて、分け隔てなくお嫁さんにしたいと約束をした。とはいえ、結婚だとか恋人だとか深い意味で考えなかったくらいの頃だ。今となっては永遠の約束でも何でも無いだろうし、そもそも四人とも覚えていないだろう。


 ちなみにその時に交わした約束は、


「ナカくん。再会しても仲良しだよ! 約束だからね!」

「うんっ! 大きくなっても僕、さーちゃんと絶対に仲良くする!」

「めっ! みんなも仲良しなの! でも、一番はわたし! だからナカくんは変わったら駄目だよ! 約束!」


  ――と言った感じで、最後まで俺にべったりだった「さーちゃん」という女の子と、いつまでも仲良くするといった曖昧な約束を交わしたことだ。


 今となってはその頃に交わした約束は無効も同じだろう。しかし高校編入を機に、俺は戻って来た。


「大変だろうけど、しっかりやるのよ?」

「分かってるよ」

「でも帰国子女なあなたなら、女の子の扱いに心配はないでしょ。あ、そうそう、編入することをあの子たちに伝えてもらってるからね!」


 別に扱い慣れてもいないが、あっちでは近い距離で接していたし、優しくすることを心掛けていた。さすがに付き合うまではいかなくて恋愛の経験は乏しいけど……。


 体は鍛えていたから、体当たりされるくらいではひるまない自信はある。


「あの子たちって?」

「もちろん、あなたが幼い頃に一緒にいた女の子たち!」


 親が言うには幼馴染の子たちの親とは、連絡を取り合っていたらしい。つまり海外にいながらも、ご近所付き合いだけは続けていた。


 そして親の話では、あの子たちはいつも一緒にいて高校生になっても変わっていないとも。


 とはいうものの、果たしてこの期に及んで俺だということが分かるものなのだろうか。小学生と高校生では面影も何もあったものじゃないだろうし、ガキの頃に交わした永遠の約束なんて、夢の中の話くらいにしか思っていないだろう。


 面影だけでは判断出来そうに無いが、四人とも大人しくて可愛かった。おそらく高校生になっても変わらずにいるはず。


 俺の顔はガキの頃からあまり劇的に変わっていなく、せいぜい筋肉が増えたくらい。だが、見かけたらきっと優しく声をかけてくれるに違いない。


 そんなことを思いながら言われたクラスの教室に入ると、


「えんざいちゅうの男に天誅!! たあぁぁっ!」


 教室の中に入った直後、正面から不意打ちのように飛び蹴りを喰らった。


 しかし、


「硬ぁっっ!?」


 俺の腹に命中した蹴りだったが、伊達じゃなく鍛えた腹筋のおかげで何も感じなかった。それどころか、攻撃してきた見知らぬ女子が教室の床に尻もちをつき、太もも周辺からは白い下着がちらりと見えている。


 朝早く来たせいかこの女子しかいないので、そういう意味では誤解されずに済みそう。

 

「えっと、大丈夫?」


 不意打ち攻撃をしてきた女子の方がダメージを受けているようなので、俺はその子に向かって手を差し伸べる。

 

「えんざいちゅうの男のくせに気安く触れるな!!」

「……へ? えんざい……ちゅう?」

「こっちはお前のことは全部知ってんだからな! 出席リストにえんざいちゅうって書いてあったし!! 気安く近づいたら今度は本気で蹴るから!」


 もしやと思うが、俺の名前を間違って認識しているのでは?


 事前の説明によると学年途中の編入生に関して特別扱いはなく、みんなの前で自己紹介をすることが無いらしい。その代わり各自が所持しているタブレット端末で、編入者の名前を事前に確認することが出来るという。


 端末上は振り仮名がついてないせいもあってか、おそらく読み方が分からない人もいるのは予想出来る。


 そうだとしても、


「勝手に俺を犯罪者にしないで欲しいかな。遠い西に真ん中の中で、とおざいあたるって読むんだよ」

「真ん中の中であたる? へぇー……アタル? ……違う、ナカ――」


 名前に違和感でも感じるかのように、俺の顔をじっと見ているのは何だろうか。


 女子の外見はいかにもなギャルで、細い手足すら日焼けサロンで焼いたような色をしている。その足で飛び蹴りというのもなかなかだけど。


 金色だけじゃなく銀も茶色も混ぜ合わせた長い髪が目につき、長い髪で隠しきれていない耳にはピアスも見えている。


「なにじろじろ見てんだよ? キモッ」


 顔は日焼けしてないものの、睨みを利かせてまともに見せてくれない。初対面で飛び蹴りされただけでも驚くが、ここは優しく声をかけなければ。


「――ちょっと落ち着いてくれた? 何もしないからそろそろ席についてもいいかな?」

「ふん、ナカのくせに生意気すぎ」

「……何度も言うけど俺の名前は「ナカ」じゃなくて、「アタル」だからね。えっと、君は――」


 不意打ち攻撃を喰らったついでに彼女の名前を聞こうとするも、俺の言葉にギャルは目を丸くして驚いている。


「俺? 俺って言った? うっわ、違和感あり過ぎ~。ナカのくせに俺とか全然似合わなすぎなんだけど」


 何だこのギャル。帰国してすぐにどこかで会った記憶が全く無いんだが?



 陸郷りくごううみ学園高等学校。


 ここは俺が通うはずだった小・中学校の付属学校で、つい最近まで女子高だったらしい。しばらく女子高としていたものの、生徒数が減少して共学に。とはいえ、廊下はもちろん、通学路を歩いていても見渡す限り女子ばかりが目立っていた。


 それはともかく、親曰く幼馴染の子たちはこの学園にいるらしい。一番仲が良かった「さーちゃん」なら、俺の名前を見ただけで話しかけてくれそうな期待はある。


 といっても、俺のことは「ナカくん」と呼んでいたから、面と向かって自己紹介でもしないと気付いてくれないかもしれない。

 

 それに俺もあの子たちの正確な本名は気にしてこなかったし、愛称しか知らなかったりする。覚えているのはせいぜい名前の頭文字イニシャルくらい。今となっては面影だけを頼りに探すしかない。


 それにしても、


「俺は俺としか言いようがないんだけど、他に何て言えばいいかな?」

「だから~それが生意気だって言ってんの! 大人しく僕って言えば良くない?」

「……その前に、君のことは何て呼ぶのが正解? 俺だけ呼び捨てされてるのに、本名は教えてくれないのかな?」


 間違った呼び方をされてはいるけど。


「親しくないのに教えるわけなくない?」

「そっちが言うなら別にいいけど、俺もほら……」


 タブレット端末を見せて俺も確認しようとすると、


「……あーウザ。護国ごこく彩朱さあや。文句は?」

「無いよ。護国さん、でいいのかな?」

「好きに呼べば? 本当、薄情だし勝手に変わってるしムカつく……」


 気のせいかふくれっ面をしているし、少しだけ顔を赤くして照れているような。


「というか、何度も言うけど俺はあたるだから。間違っても「ナカ」じゃないんでその辺よろしくね」

「……俺って言わない方がいいと思うけど? らしくないし、マジで生意気」

「そんなこと言われても、俺は昔から俺だし変えようが――」

「そろそろみんな来るし、離れてくんない? 近すぎてキモいから」


 何なんだあのギャル。自己紹介にしては失礼過ぎる。顔だってまともに見せずに自分の席へ行くし、俺だけ損してるじゃないか。


 少しずつ慣れていくしかないとはいえ、初日からギャルの相手をすることになるなんてこれから厳しそうだな……。

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