魔法学校のぼっちで変人なクラスメイトから結婚を申し込まれた優等生の話
@ishikuro
第1話 かりそめの婚約者
(どうしてこうなったのかしら)
ベッドに座って頬杖をつきながらヘレンは心の中で呟いた。
視線を動かして、本や道具があふれて足の踏み場もない雑多な一人部屋を眺める。
今彼女が居るのは魔法学校の男子寮の一室だ。本来なら女子が立ち入るべきところではないが……まぁ、それはそれとして。
部屋の主はいない。もう日付が変わるくらいの時間だというのに。
(勇んでやってきた私が馬鹿みたいじゃない……)
ヘレンはフードまですっぽりと被ったローブの下をのぞいた。
着ているのは胸元に切り替えがある薄手の白の寝衣……自分の持っている中では一番それっぽい服だ。
「……」
待ってる時間が落ち着かず、三つ編みにして前に垂らしている、腰までの長さの金髪を解いてもう一度編み直す。
それを何度も繰り返していると。
「――――え」
ふいに人の声と、バサバサと本や紙が落ちる音がした。
そちらを見ると、部屋の入口にボサボサの黒髪の青年が立っていた。目元を隠すほど長い前髪をしている彼の口はぽかんと開いている。
「お邪魔してるわよ、デリック」
彼のベッドに座っているヘレンは片手を上げた。
「へ、へへへヘレン!? なんでここに……っ」
自分の声にはっとしたように、彼が扉を閉めた。
男子寮の中でも端にある一人部屋は他から離れているが、確かにここにいるのが知られたら少しまずい。
立ち上がって、挙動不審なデリックに近づいた。
普段から猫背気味だが、彼は意外と背が高い。対面するとヘレンの頭がちょうど胸の位置になる。
その彼のシャツもローブも何かの液体が飛び散っていた。一部のシミが動いているのを見ると、これはスライムだろうか。
視線を上げたヘレンはデリックに、にっこり微笑んだ。
「なんでって、これからは婚約者でしょ。何と呼べばいいのかしら。デリック様? それとも旦那様?」
「……だ、……ん、んん」
デリックの顔が耳まで真っ赤になった。
唾をのんで咽せたのか、苦しそうに咳をする彼からヘレンはそっと視線を外した。
(……先が思いやられる)
これが、世界の魔法技術を二百年進ませた天才であり――今日からヘレンの婚約者だというのだから。
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