飽き症の天才は飽くなき無限の世界へと旅立つ

聖花シヅク

第1章プロローグ:天才はかくして無限の世界へと旅立った

第1話:飽き症の天才

「飽きた」


 その少年は早朝早く学校へとついたと思うと、開口一番にそう言った。

 少年の前に着く少女は顔へ手を当てると頭を振り、『またか』とでも言いたげな表情をしている。

 それもその筈で、高校に入って一年と一月ほどしか経っていないというのに、この言葉を訊いたのは既に10は超えているのだ。

 高校どころか物心つく前から一緒だった少女からすれば、既に数えきれないほどその言葉を訊いてきたことだろう。


 何度目かも分からぬその言葉を聞きながらも、少女は口を開いた。


「で、今度は何をやろうと思っているの?」


 少年の飽き症になれてきてからは、少女も『飽きた』の一言を訊いた後は呆れながらもこの言葉をいうことにしていた。


「特に決めていないが?」


 この少年の言葉もいつものことである。

 少年は特に次に何かやりたいことがあるわけではない。ただ、『今やっていることに飽きてしまった』、その事を報告しているだけなのである。なぜ、少女に報告しているのかは・・・・・特に理由はないのだろう。


 この少年。幼少期より周囲よりあらゆる分野に秀でながらも、途轍もなき飽き症な性格のせいで特定の分野を極めたことはない。努力はするが飽きればそこで終了。何をするにも長続きはせず、長くても3カ月も続いたことは無い。そして、どの分野においても一定以上の成績を残す、もしくは実力を見せつけるも、周りに相手になるものがいなくなれば即刻辞めてしまう。

 学力の面においても偏差値70を超える中高大一貫の学校へ通いながらも、ここまでの4年間一度として一位を逃さないほどの才能を持つ。

 運動の分野でも、あらゆる分野で全国区の選手並みの実力を発揮し、個人技においてはどの種目でも全国出場しているレベルだ。

 学外では読モなどをすることもあるなど、見た目に関しても非の打ち所がない。

 そんな少年の数少ない弱点の一つが、この飽き症だ。


「毎度のことながら、貴方のその性格は面倒よね。いつになったらその飽き症は治るのかしら?」

「一生治らないと思うがな。特に不自由に思ったこともない」

「そう言う問題じゃないのだけど‥‥」

「まあ、過去のことなどどうでも良い。次にやることを決めるとしよう」

「この状況に慣れた私が嫌になるわ‥‥」

「そうだな‥‥ここ最近やったのは『水泳』、『カバディ』、『陸上』‥‥見事にスポーツばかりだな」

「どの分野でも成績遺せるんだから、続ければいいのに」

「どの分野でも、ライバルがいなくなってしまってはつまらないだろう。程々が一番だ」


 この少年の言う程々が、どれだけの少年少女の心を、夢をへし折ってきたのか。それを知らせてやりたい。


「そうだな、久しぶりに音楽関係にでも手を出すか?」

「あなたの場合、音楽なんてやったらひと月持たないでしょう。もっと長持ちしそうなもの選びなさいよ。そうね‥‥例えば、ゲームとかいいのではないかしら?」

「ふむ、ゲームか。あまりやった事がないが‥‥」

「最近はVRの技術も進歩しているみたいだから、昔とはかなり変わっていると思うわよ」

「VR?」

「フルダイブ型のやつよ。たしか、ゲームとしては3年前くらいに市場に出始めていたはずよ」

「そのくらいは知っている。しかし、フルダイブの技術はまだゲームに用いるのには難しかったのではないか?」

「数カ月前まではそうだったみたいだけど、先月初のフルダイブ型ゲームも発表されていたわ。コンセプトは無限に広がる世界だそうよ。飽き症の貴方にピッタリじゃない」

「たまには息抜きをするのも悪くないか‥‥」


 そう言いつつ、少年はポケットからスマホを取り出し、そのゲームについて調べる。


「『Mondo Infinito[モンド・インフィニット]』か。イタリア語で『無限の世界』。コンセプトそのままだな」

「分かりやすくていいんじゃないかしら?誰もが貴方のように多言語をマスターしているわけでは無いのだから」

「それもそうか‥‥気に入った。今回はこれにするとしよう」

「貴方がこれをやるというのなら、私もやろうかしら」

「たまにはユイと一緒に何かをやるのも悪くはないか」

「そうね、ミトと一緒に何かをやったのは、もうしばらく前になるものね」


 かくして、天才と天才の陰に隠れた秀才は無限に広がる世界『Mondo Infinito[モンド・インフィニット]』へと足を踏み入れるのであった。




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