あなたの声"だけ"が聞きたい

奏流こころ

あの夏、運んできたこと

 小学校の高学年から毎年、夏休みは図書館で過ごしていた。

 部活に強制入部というルールはなくなっていたから、俺は涼む場所を求めて辿り着いた所が図書館だった。

 最初は雑誌コーナーの所を読み漁り、次に宿題を持ってきて勉強をしていると、辞書や図鑑で調べながら勉強をした。

 気が付くと、名作の本に手が伸びていて、読破していった。

 中学からはジャンル問わず、背表紙や装丁のデザインやタイトルを見て、読みたいと思った本を読んでいた。

 高校1年の今、席に着く前にゆっくり歩きながら本を眺めていると、目に止まった青い本を見つけた。

 早速、開いて見ようと本に手を伸ばしていると、違う所から小さな手が自分の手と重なった。


「「あっ」」


 驚いて手を引っ込めた。

 ツインテールに髪を結ってはいるが、服装は大人びている感じがして、何より可愛かった。


「すみません」


 俺は直ぐに謝った。

 すると彼女は慌てて「私の方こそ!」と言って、じたばたしている。


「先に読んで良いので」

「い、いやいや!貴方が先ですよ、どうぞ」


 押し問答を繰り返したが、結局じゃんけんをして、彼女が勝ったので、俺は2番目に借りることにした。


「ありがとうございます」

「ゆっくり読んで良いので」


 これがきっかけで、俺は彼女と図書館で会う度に、話しても問題のない小部屋や外で会話をするようになった。

 本の話を中心に会話は弾み、いろんなことを話していた。



 ある日のこと。

 小部屋に2人きりでいた時のことだった。


「花火大会?」

「一緒にどうかなって」


 もちろん俺は承諾した。

 花火大会、女の子と一緒に見る、初めてのことだ。

 出店に寄ってからの方がいいのか。

 浴衣で現れると予想して、甚平を着た方がいいのか。

 妄想ばかりが膨らんだ。

 前日は楽しみで眠れず、遠足前の気分のような精神状態だった。

 当日はシンプルにTシャツとジーンズのズボンで待ち合わせの図書館前で待っていると、淡い色のひまわりの絵があるワンピースを着たあの子が現れた。

 赤リボンのついた麦わら帽子に白のサンダル、小さなポシェットを肩にさげて。

 可愛らしいー…ドキッとした。

 一緒に出店を見て回り、わたあめを買ってちぎって食べる所を見て、ますます可愛いなと思っていると。


「はい、どうぞ」


 一口分のわたあめを摘まんで、俺に差し出していた。


「あーん」


 おーう…何か、ヤバい…。

 心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいに、激しくバクバクしていた。

 深呼吸をしてから、俺は差し出されたわたあめを食べた。


 甘くて、後から更に甘かったー…



 花火を見終えて、図書館前に戻って来た。


「じゃあ、またな」


 なんだか、彼女の様子がおかしい。

 とても緊張していて、震えていた。


「ねぇ…」


 小さな声で、続きを言った。


「もし、もしだよ…会えなくなったら、寂しい…?」


 今にも泣きそうな顔をしていた。

 張り裂けそうな気持ちになって、俺はー…。


「会えなくなるのは、嫌だ」


 はっきり言うと、彼女は一気に体の力がなくなるようによろめいた。

 だから、彼女の体を支えた。

 安心した表情で、彼女はこう言った。


「良かった…ありがとう…」


 こうして、夏休みの最終日は終わったのだった。



 次の日、2学期が始まった。

 教室に入ると、俺の隣に席があった。

 1学期にはなかった隣の席。

 これはどういうことだ。

 と思っていると、担任が来て、その後ろにもう1人いた。


「紹介する、転校生の霧島きりしまゆきさんだ」


 目を見開いた。

 あの子…だ…。

 しかも、雰囲気が違う。

 不機嫌な顔で、髪型はツインテールではなくストレート、ブレザーのポケットに手を突っ込んで。


 黒に赤ラインの入ったヘッドホンを着けていた。


 これは、ー…

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