あなたの声"だけ"が聞きたい
奏流こころ
あの夏、運んできたこと
小学校の高学年から毎年、夏休みは図書館で過ごしていた。
部活に強制入部というルールはなくなっていたから、俺は涼む場所を求めて辿り着いた所が図書館だった。
最初は雑誌コーナーの所を読み漁り、次に宿題を持ってきて勉強をしていると、辞書や図鑑で調べながら勉強をした。
気が付くと、名作の本に手が伸びていて、読破していった。
中学からはジャンル問わず、背表紙や装丁のデザインやタイトルを見て、読みたいと思った本を読んでいた。
高校1年の今、席に着く前にゆっくり歩きながら本を眺めていると、目に止まった青い本を見つけた。
早速、開いて見ようと本に手を伸ばしていると、違う所から小さな手が自分の手と重なった。
「「あっ」」
驚いて手を引っ込めた。
ツインテールに髪を結ってはいるが、服装は大人びている感じがして、何より可愛かった。
「すみません」
俺は直ぐに謝った。
すると彼女は慌てて「私の方こそ!」と言って、じたばたしている。
「先に読んで良いので」
「い、いやいや!貴方が先ですよ、どうぞ」
押し問答を繰り返したが、結局じゃんけんをして、彼女が勝ったので、俺は2番目に借りることにした。
「ありがとうございます」
「ゆっくり読んで良いので」
これがきっかけで、俺は彼女と図書館で会う度に、話しても問題のない小部屋や外で会話をするようになった。
本の話を中心に会話は弾み、いろんなことを話していた。
※
ある日のこと。
小部屋に2人きりでいた時のことだった。
「花火大会?」
「一緒にどうかなって」
もちろん俺は承諾した。
花火大会、女の子と一緒に見る、初めてのことだ。
出店に寄ってからの方がいいのか。
浴衣で現れると予想して、甚平を着た方がいいのか。
妄想ばかりが膨らんだ。
前日は楽しみで眠れず、遠足前の気分のような精神状態だった。
当日はシンプルにTシャツとジーンズのズボンで待ち合わせの図書館前で待っていると、淡い色のひまわりの絵があるワンピースを着たあの子が現れた。
赤リボンのついた麦わら帽子に白のサンダル、小さなポシェットを肩にさげて。
可愛らしいー…ドキッとした。
一緒に出店を見て回り、わたあめを買ってちぎって食べる所を見て、ますます可愛いなと思っていると。
「はい、どうぞ」
一口分のわたあめを摘まんで、俺に差し出していた。
「あーん」
おーう…何か、ヤバい…。
心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいに、激しくバクバクしていた。
深呼吸をしてから、俺は差し出されたわたあめを食べた。
甘くて、後から更に甘かったー…
※
花火を見終えて、図書館前に戻って来た。
「じゃあ、またな」
なんだか、彼女の様子がおかしい。
とても緊張していて、震えていた。
「ねぇ…」
小さな声で、続きを言った。
「もし、もしだよ…会えなくなったら、寂しい…?」
今にも泣きそうな顔をしていた。
張り裂けそうな気持ちになって、俺はー…。
「会えなくなるのは、嫌だ」
はっきり言うと、彼女は一気に体の力がなくなるようによろめいた。
だから、彼女の体を支えた。
安心した表情で、彼女はこう言った。
「良かった…ありがとう…」
こうして、夏休みの最終日は終わったのだった。
※
次の日、2学期が始まった。
教室に入ると、俺の隣に席があった。
1学期にはなかった隣の席。
これはどういうことだ。
と思っていると、担任が来て、その後ろにもう1人いた。
「紹介する、転校生の
目を見開いた。
あの子…だ…。
しかも、雰囲気が違う。
不機嫌な顔で、髪型はツインテールではなくストレート、ブレザーのポケットに手を突っ込んで。
黒に赤ラインの入ったヘッドホンを着けていた。
これは、ゆきと俺の物語ー…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます