初めてのキス

みろく

第1話 猫目の河童と赤狐

部活が終わって和也の家に恵と聡が何となくあつまる。

聡は部活とは別にスイミングスクールにも通ってるので3人で集まるのは多くて週1回くらいだ。

和也もバスケットボール部で白熱し部活は楽しいがこの2人とゆっくり話が出来ない事がいささか不満。

恵は相変わらず本の虫だが演劇部なんぞに何故か入っていささか楽しんでいるようだった。


「あー腹へった夕飯、どうする?」和也が呟いた。

「もうそんな時間かぁ~面倒くさいな····ごめん和也、母ちゃんうるさいから帰るよ」

「矢島、僕も一緒に帰る」聡は頷き荷物をまとめ「また来週! 今度はメシ一緒に食べような」と笑顔で手を振った。

「んじゃ来週な!」和也は寂しそうな笑顔で2人を見送った。


遊びに行くと「メシ食ってけよ! 1人は寂しいんだよ」と笑いながらいつもひき止める寂しん坊な和也····。

学校で仲間が居なく苛められっ子で家に帰れば母にないがしろにされ殺されかけた恵。

どちらからでもなく行動を共にするようになった。

「ただいま~友達一緒だよ」

「お帰り、お友達もご飯食べてもらったら?」


恵は初めて会う聡の家族に照れくさそうに挨拶をして食事を共にした。

妹の望は「お兄ちゃんと同じ人類じゃないみたい」と笑った。

(本当に女の子みたいに綺麗ね)母も中学生になって初めて息子の友達をみて思った。

夕食を終えて聡の部屋で中間テストの範囲を確認する。

ゴロゴロしながら教科書を広げていると満腹の腹が眠気を誘う。

「矢島? 寝るなよ」

「ん~····眠くなってきちゃった」ぶつぶつ言いながら重たい瞼と格闘している聡の自分に正直で素直な行動が恵は好きだった。

「寝るな」言いながら聡に覆い被さり頬を両手で包み、揺すってみた。起きない····。

聡のふっくらとした唇にキスをした。

反応は無い。何度も唇を重ねてみたが起きない。


ギュッと抱きしめ舌を絡める。口の中で互いの唾液が溢れでて聡の耳元まで流れて来た。

(なに? )驚きながら目を覚ました。

「起きた?」聡は上に覆い被さり抱きしめられていた事に気がついた。

「恵····なに?」ドキドキが止まらない聡は動けずに問いかけた。

「僕は矢島が好きだ。今度は矢島からキスして」

聡からも恵を抱きしめ震えながらキスをした。

聡は初めて深いキスをした。


恵が帰った後も、とろける感覚がいつまでも身体と心を捕らえ朝焼けが照らし始めても寝つけなかった。


サイレンの音が朝の静けさをかき消した。


学校は何時もと変わらないが何かが違う。

「矢島、おはよう。今朝サイレン凄かったね。何か事件?」恵は何喰わない顔で話しかけてきた。

聡は顔から火が出た。


教室に入るなり教師がしどろもどろに説明した。

「事故があった····詳細はまだ分からない。今日は臨時休校だ。寄り道せずに気をつけて帰れよ。」


「何があったんだろう?」

「和也は何か知ってるのかな?」隣のクラスに和也を迎えに行く恵と聡だったが和也は居なかった。

2人で帰る途中、規制線が張られたアパートの前にパトカーが数台停まっている。その回りに中継車とレポーターが蟻のように群がっていた。

そのアパートは和也の住んで居るところだった。

聡と恵はレポーター達を押し寄せて規制線の中に入り込もうとするが警察に取り抑えられた。

「友達が住んでるんです!何があったんですか?」

聡が叫ぶように警察に喰ってかかった。

「友達の名前は?」

「林 和也です」

「今、調査中だから何も言えないけど君たちは入ってはいけないよ。ここは刑事さんたちが調べてる最中だから、帰りなさい」

2人は追い返された。


家に帰ってテレビのニュースで和也が死んだことを知った。

寝ている和也さんを刃物で····無理心中····母親も現在治療中····意識が戻り次第事情を····

アナウンサーの言葉が途切れ途切れに聞こえた。

(嘘だ。来週、ご飯食べるって約束したじゃん。んじゃ、またなってバイバイしたじゃん、信じない!)

聡はテレビを消して恵の家に電話をかけた。恵の母親が出た。一生懸命「恵くんは居ますか?」の問いかけに英語の返答しか貰えず諦めて電話を切った。


次の日、学校に和也の姿はなかった。

体育館で全生徒に向けて校長が和也の死を説明し「家庭内で何か悩み事がある場合は先生達に相談してください」との言葉で締めくくった。


母子家庭だった和也は遠方の親戚が生前の友達のいるこちらでと葬儀を執り行ってくれた。

和也の死に顔は血色も良く「あ~良く寝た、腹へった」と喋りだしそうだった。

甘美なファーストキスを堪能した後に訪れた悲しみ。聡は母親の事を気にして帰らなければと後悔した事をポツリと溢した。

「たら、れば、かも、だな。」恵は唇を噛みしめ静かに涙を溢した。


「さようなら、和也」








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