見えざる守護

ちょこれゐと

見えざる守護

俺は今、スーツで自転車を漕いでいる。

どう考えても間に合わない。

もちろん、サドルになんて座らず、立ち漕ぎだ。

いい年をこいた大人が、髪も振り乱して、流れる汗も拭わず、鬼の形相で自転車を漕いでいる。

周りから見れば、さぞ滑稽だろう。


今向かっているのは、我が社の上お得意先様だ。

待たせるわけにはいかない。

しかし、代わりの者を寄越すわけにもいなかい。

なぜなら、我が社はベンチャー企業で、社員は俺1人、つまり、代わり、はあり得ないのだ。


その時、目の前の信号が点滅し始めた。

渡りたい、間に合わないかもしれないとは思ったが、そのまま横断歩道に侵入した、その時!


横から曲がってくる車に気がついた。

ぶつかる!!!

そう思った瞬間、急に視界に光が溢れて目が開かなくなった。

なんとか現状を把握しようと目を凝らしていたが、眩しくて、何も見えない、だが、衝突の痛みも感じない。

一体どうなっているんだ!?


やがて、光が収まった。

辺りを見回してみると、得意先のビルの前だった。

は?どうなってんだ?


ふと時間がなかったことを思い出し、時計を見た。

ほとんど時間は経っていない。

身体も特にどこも痛まないし、自転車も壊れた様子はない。

ほっと安堵の息をついて、ビルの外壁に映る自分の姿を見た。

事故にあった様子はない。しかし、髪もスーツもあまりにも酷かったので、見た目と息を整え、ゆっくりとビルの中に入っていった。


無事、商談を終えた後、あの時何が起こったのかを考えてみた。

あの光はなんだったのか、あの後車はどうなったのか。


ふと、スーツのポケットに入れた封筒の存在を思い出した。


これは、妻からもらったものだ。

まだ中は開けていないが、占いや魔術を昔から研究している妻は、時々こうしてよくわからないものを持たせてくれる。


俺は、その封筒を開けてみた。

その中には特別そうな紙に、いろんな色が混ざったインクで描かれた、魔法陣のようなものがあった。

そして下側に、妻の字で、貴方を護ってくれますように、と書いてあった。


今までは、魔術なんてくだらないと内心思っていたが...

今日は彼女の好きないちごケーキでも買って帰ろう。

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