第31話残念な国

 

「ブランシュ、今回はご苦労だった」


「ありがとうございます。お父様」


 私を労ってくれる父は優しい目をしていました。


「ところで、例の件はどうなっている?」


「滞りなく。陛下は快く承諾してくださいました。アクア王国の水源は既に確保しておりますし、魔法具による魔力補充の施設の建設も間もなく完了致します」


「うむ。これで我が国は更なる発展を遂げられるだろう」


 父の表情は晴れやかでした。


「ところで、アクア王国は本当に何も御存知ないのですか?」


「まったく気付いていない。まぁ、一部の者は気付いているが、どうする事もできないだろう」


「そうですか……」


 アクア王国は、他国が自国の水資源を奪う為に侵略してくるかもしれないという危機感を持っていないようです。あの国は一体何を考えているのでしょう。国が海に沈んだとしても、帝国は同情こそすれ本来は手を差し伸べる事などありませんのに。

 水に恵まれているアクア王国は、その水による水害に頭を悩ます事はあっても、逆に水の枯渇で悩むとは考えた事がないのでしょう。ワスティータス王国の王女を側妃に迎えておきながら、そんな事にすら気付かないなんて……。水は国によっては金に換算できないくらい貴重ですのに。


ですわね」


「そのお陰で上手くいったようなものだ。そうでなければ、今頃我々は窮地に立たされていたかも知れぬ」


「えぇ、全くですわ」


 アクア王国の王族の皆さまには感謝しなければなりませんね。

 愚かなお方達ではありますが、この度だけは役に立ってくださいましたわ。第三王子殿下とそのお仲間には可哀想な結果ですけどね。ですが、国が消滅するよりかはマシでしょう。あの王子殿下なら理解してそうですわ。だからこそ『準保護国』の申請に積極的だった。


 実際、積極的だったのはアクア王国の外交官ですけれど、その裏にいたのは第三王子殿下でしょう。彼の指示があってこその働きに違いありません。


 アホが頂点にいると操る側も大変でしょうね。


 神輿は軽い方が良いという者もいますが、はっきり言って軽すぎるのも問題です。

 頭空っぽを担ぐと何をしでかすか分かりませんし、思考回路がメチャクチャでいて行動力だけはありますもの。そんなアホを担ぐ位なら人形でも担いでいた方が余程マシでしょう。


 担ぐ側にもある程度の資質が必要ですわ。


 まぁ、コレが実に難しい。

 上手く担がれてくれる為政者など稀でしょうが……。


 アクア王国の第二王子殿下は上手く担がれてくださるのでしょうか?

 裏表のある人物には見えませんでしたし、マデリーン様に対しても誠実な対応でした。少しの間ですが人柄的には問題ないと思いますわ。国の現状を理解していますからバカな発言はしないでしょうしね。


 要観察、といったところかしら?




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