第30話第三王子side

 

 優しいのは良い事だ。

 だが、いざとなれば非情な決断をする勇気も必要だ。それが備わっていたならば……。いや、よそう。それは長兄にも当てはまる。要は二人揃って為政者の資質が欠けていた。平時の時は別にそれでもいい。だが、非常時にはそれでは困るのだ。特に今のアクア王国にはが必要なのだ。


 それに次兄がマデリーン嬢に並々ならぬ想いを寄せていた。

 次兄は優秀だ。長兄やマデリーン嬢にはない非情さがある。次兄なら妻になるマデリーン嬢を大切にするだろう。


 長兄の事以外なら割とマトモな国王父上だ。

 本来なら幽閉後の病死を、臣籍降下の辺境送りにする事で全て丸く収まったのだ。僕としては思うところもあるが、長兄はその方が良い。亡き王妃殿下の実家も長兄の事は見限っている。このまま王都に留まったところで父上に何かあれば命の保証はできない。夫婦揃っての事故は嫌だろう。僕だって兄弟としての情はある。既に子供が出来ないように処置されているから子供という火種に左右されることもない。長兄夫妻はこの事を知らないし、知らせる気もない。


 勿論、何も知らない長兄夫妻を利用しようとする連中はいるだろう。今までにも二人を利用して王家に取り入ろうとする者がいないわけじゃない。臣籍降下したとはいえ、元王族。それも元王太子だ。周辺の貴族は王都の、引いては王家の情報を聞き出そうとするだろうし、親しくなって中央貴族の弱みを知ろうとするかもしれない。

 

 だた、彼らはいずれ気付くだろう。

 

 二人があまりに知らなさ過ぎている事に。

 元王太子の無知ぶりに驚愕するに違いない。


 そうして気付く。

 

 二人を、元王太子は利用できないと――――


 

 利用するには自分達のリスクがあまりに大きすぎて、割に合わないと。

 アレに王位継承権を持たない元王太子など何の利用価値がある? という現実を理解できる筈だ。


 中央の貴族共がそうして長兄夫妻を利用する事を諦めたように。



 利用される側にもある程度の知識と知恵は必要なのだ。




 さようなら、長兄。

 僕は貴男の事は嫌いではなかった。それは次兄も同じでしょう。

 それでも国のために切り捨てなければならないんです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る