第9話公爵令嬢2

 そもそも婚約者がいる身で他の女性と親しくするなどマナー違反も甚だしい。相手の女性もそれは同じこと。婚約者のいる男性と知っていて近づいた嗜みのない女性が妃になったところで上手くいくはずもありません。ましてや、それが下位貴族なら直の事。あの階級は上昇志向の強い者が多い。それだけなら問題はないでしょうが、厄介なのが上の人間に対して如何に自分をよく見せるのかを心得ている事です。

 

 

「王太子殿下は、臣籍降下なさるつもりはないのでしょうか」


「ブランシュ様……」


「側妃様同様に自由闊達な方のようですし、このまま王宮という籠の鳥でいるよりかは外で自由に生きた方が宜しいと思ったまでですわ」


 自分の後ろ盾ともいうべき筆頭公爵家の令嬢との婚約を破談にしておいて、何事も無かったかの如く振る舞う彼らの気持ちが理解できません。貴族達の大半が王太子とミレイ側妃を許していない。いいえ、寧ろこれは許してはならない所行です。


「足場が脆弱な方では国をまとめるのは大変でしょうに」


 国王とその周りの指示さえあれば王位は盤石だとでも思っているのかしら?

 そんな訳ないでしょうに。

 貴族を敵に回して王位につけません。仮につけたとしても傀儡にされるのが関の山。


「……殿下はきっと考えもしていないと思われます」

 

「そうですか。それは残念ですわ」

 

「……」

 

「これは私の独り言ですが、帝国は美しく賢い未来の王妃の誕生を望んでおりますわ。そしてその相手は何も王太子でなくとも構わないと。かの王子である必要は全くございません」

 

「っ!?」


 聡い方。

 私が何を言いたいのかを理解なさっている。

 俯き加減のマデリーン様は表情を悟られないようになさっているのでしょう。

 これは列記とした内政干渉。

 しかも残りの王子の二人が次の王でも全く問題ない、寧ろバカな現王太子を廃嫡した方がいいのでは?とまで匂わしたもの。彼女も私がここまで言うとは考えなかったのでしょう。まぁ、私が彼女の立場でも他国の令嬢がそこまで言うとは考えません。


 マデリーン様の手が小刻みに震えています。


 私に訴えたいことや言いたいことは多々あるでしょう。

 もっとも、何処かの誰かさん達のように立場を弁えない愚か者にはなれないようです。今のアクア王国の立場からは決して反論できないものですからね。

 

 

「それですわ、マデリーン様。今度は私のお茶会に参加していただけませんか?親しい方のみの参加となりますので気兼ねなく過ごせますわ」


 ニコリと微笑んだ私の顔を見て彼女は一瞬呆けたような表情を浮かべた後、小さく溜息をつき、快諾の返事をなさいました。

 


 やはり彼女こそ王妃に相応しいですわね。

 ただ、彼女の横にいるのが現王太子というのはいただけません。


 マデリーン様に相応しくないんですもの。

 あんな男には勿体ない淑女だわ。


 それとは別として、彼女とは個人的に親しくなりたいですね。

 


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