第28話ロクサーヌ国王side
この国はもうお終いだろう。
民衆は暴徒と化し、頼みの綱であるヴァレリー公爵はもういない。
私は
王国の唯一の王子として生まれ、当然の如く王太子になった。そして父の跡を継いで国王に――――
両親に、そして周囲に舗装された道を歩いてきた。
それに疑問を持ったことはない。私の父も同じ道を歩んでいたし、周囲の者達も似たり寄ったりの人生だ。自分の思い通りに生きても構わない、と言われると逆に困る。何をしていいのか分からないからだ。
綺麗に舗装された道に異物は一つだけあった。いや、二つか。
王妃と、彼女が産んだ王子。
この二つが私の、引いては王家の異物だ。
当時、王太子であった私には婚約者候補が五人いた。
いずれも国内有数の名家の令嬢ばかり。
その五人の令嬢の中から未来の妻が選ばれるとばかり思っていた。
選ぶのは私ではない。両親と議会だ。
『国内で最も優秀な令嬢が次の王妃だ』
幼い頃から聞かされていた言葉。
異を唱えることはなかった。それが当然だと思っていたし、物心付く前から王族教育を受けていたせいか、妻を娶るというよりも仕事上のパートナーを選ぶ感覚に近かった。恐らく私の婚約者候補に挙がっていた彼女達も同じ気持ちだったろう。
まさか女性に襲われるなど思いもしなかった。
あの日の夜会は、私の婚約発表だった。
正式に王太子の婚約者を公表する日――だったらしい。
両親である国王夫妻はサプライズのつもりだったのだろう。当事者の私にも五人の令嬢にも内密にしていたのだから。今にして思えばサプライズにしてくれて良かったとさえ思う。そうでなければ相手の令嬢は醜聞と屈辱の中で生きていかなければならなかった筈だ。
懐妊したから妃にした。
心の壊れた伯爵令嬢に同情しなかった訳ではない。
彼女の心を壊した婚約者の男とその一族は秘密裏に処理した。令嬢の為ではない。王家の醜聞にならないための処置だ。彼女の実家も同じ。余計な事を公表しないようにと
それでも綻びは出る。
王家は、私と妃の恋愛物語をでっち上げた。
作りものの御伽噺に国民は熱狂した。民だけではない。貴族の子弟子女までもが食いついたのは意外だったが……それでも醜聞として広まるよりはマシだった。特に若い女は恋愛ものを好むようだ。この御伽噺は結果的に王家にプラスに動いた。
落ち込んでいた王家の人気が回復し、国内安定に繋がった。
意外にも経済効果もあったようで、胸をなでおろした。まぁ、二度と同じ手段は使えないだろうが。
国民の感情を考えると二度目はない方がいい。
目新しいからこそ受け入れられたのだと、生まれたばかりの我が子の顔を見て理解した。
媚薬以外の薬を飲まされたせいか、私の男性機能は著しく低下していた。王族として致命的ともいえる弱点だ。完治する見込みはないとのことで、自分はもう二度と子供を作れないのだと自覚した。
幸い、息子が一人生まれていた。
この子を跡取りとして育てれば何とかなる。
だが、後ろ盾が弱すぎる。伯爵家は貧しく力がない。
王子を立太子させるだけの家の娘を婚約者に迎えるしか手がなかった。
「お初にお目にかかります、国王陛下。私はヴァレリー公爵が一子、ブランシュ・クリスティーネ・ヴァレリーと申します」
私に挨拶をするのは息子の婚約者、ヴァレリー公爵令嬢だ。
家柄、血筋、年齢、容姿、と選びに選び抜いて息子の婚約者にして貰った。僅か四歳とは思えない挨拶に綺麗なカーテシー。…………これで息子と同い年とは。
「流石、宰相の娘だ。この年齢でこれほど見事な挨拶ができる令嬢は他にはいないだろう。実に聡明だ」
「ありがとうございます」
やり手の宰相も娘には甘いのか、褒められて嬉しそうにしている。人は見かけによらないものだ。それにしてもブランシュ嬢は王家の血が濃く出たものだ、と感心した。これなら次の後継者は期待できる。是非ともブランシュ嬢に似た孫が欲しいものだ。彼女に似たならば間違いなく優秀だろう。
最高の婚約者を用意したというのに何故か息子は反発した。
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