第8話男爵子息side


 僕達は何を見せられているんだ。

 彼らはアホか?

 公爵家の御令嬢が王太子達の言うような連中と懇意なはずがないだろう。屋敷の中で蝶よ花よと育てられてきた公爵令嬢だ。知り合う以前の問題だ。筆頭公爵家の令嬢で王太子殿下の婚約者を一人にする護衛や侍女はいない。常に一定数の人間が傍に控えている。下町に行く機会すらない。それでどうやって知り合うと言うんだ!?


 王太子殿下は知っているのだろうか?

 普通の令嬢は護衛なしに街を歩くことは無い。護衛や侍女を付けないのは学園にいる間の事だけ。その学園でさえヴァレリー公爵令嬢は特例で付けられていた。



『学園に護衛を伴ってくるとは何処までも規則を己の良いように変える』


『彼女のせいで貴族と平民の間に何時までも見えない壁がある』



 王太子殿下は何がそんなに気に入らないというのか。公爵令嬢に護衛を付けるように命じられたのは陛下だ。殿下はそれを窮屈に思われて護衛を解雇なさったが、その護衛たちは今何処で何をしているのか御存知ないのだろう。そうでなければこんな愚かな事はしない。王族の、それも王太子殿下直々に「必要なし」と言われた彼らにまともな職など無い。ヴァレリー公爵令嬢が彼らを拾わなければ、彼らは家族共々野垂れ死にしていた筈だ。

 

 ヴァレリー公爵令嬢は諸外国からも釣書が山のように届いていたのを、王家は横やりとでもいうような強引な手段で王太子殿下の婚約者に据えたという噂だ。真偽がどうであれ、ヴァレリー公爵令嬢が諸外国の要人と親しくしているのは確かだろう。


 婚約者を蔑ろにして罪を捏造する国を信用するだろうか?答えは否だ。この国はこれから先、諸外国の厳しい目と批判にさらされる事だろう。僕の家はヴァレリー公爵派ではないにしろ、何らかの手を打つべきだ。

 

 一刻も早く領地に戻らなければ――



 


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