第6話伯爵令嬢side
「あのアホが……何を考えてこんな真似をしたんだ?」
私の隣に座っている兄が原告側を観ながらボソリと呟きました。無理もありません。あそこで浮かれているゲオルグ様は兄の友人であり、私の婚約者
「高等部の醜聞は中等部にも広がっていますわ。いずれ何かやらかすとは思っていましたけれど……」
「予想以上のアホだ」
「お兄様……」
憮然とした表情の兄からは
「あのアホが私達に気付く前に出るぞ」
兄の言葉に従い、私は席を立ちます。これ以上、この場に留まる必要は無いでしょうから。私達は法廷を出た後、廊下で待っていてくれた従者と共に帰路に就きました。そして馬車に乗り込み、ホッとしたのか思わず溜息が出ました。
「何を考えているのでしょう?」
「彼らか?」
「はい。ロクサーヌ王国は一夫一妻制。たとえ公的な愛人を持つとしてもそれは即位されてからのこと。いくら王太子殿下といえども公式の寵姫は許されません。ライト男爵令嬢との間に生まれた子供は等しく庶子となるでしょう。何故、殿下はあのような行為に走ったのか理解に苦しみます。ヴァレリー公爵令嬢との婚約を破棄しようとも、追放しようとも、ライト男爵令嬢と結婚はできません。普通に考えて、ヴァレリー公爵令嬢に頭を下げてライト男爵令嬢との子供の認知を認めてもらうか、もしくは、只の『愛人』として囲うのが常識ですのに」
「ステファニー、王太子殿下はライト男爵令嬢を『愛人』ではなく『妻』に迎えようと考えているんだ」
「は?妻……ですか?……男爵家の娘を正妃に……という話ですか?」
ちょっと意味が分かりません。下位貴族の令嬢がどうやって正妃になれるというのでしょう?殿下の子供を身籠っているからですか?
「前例があるだろう?」
「……お兄様は王妃様の事を仰っているんですか?」
「ああ、
「国王陛下の時は議会の承認が必要だったと聞きしています」
「承認と言ってもな、王妃が陛下の子を身籠ったと訴えた時には既に妊娠五ヶ月が経っていて堕胎できなかったのもある。それでも……未婚の伯爵令嬢を妊娠させたと言う事で陛下は責任を取られたに過ぎない」
「熱愛されての結果ではないのですか?」
「ステファニー、あんな公式記録を信じているのか?」
「……その言いようでは真実は違いますのね」
「当時、陛下は十五歳だ。対して王妃は十九歳。この意味が分かるか?」
「…………お兄様……もしや、王妃様が陛下を襲ったと言う事ですか?」
「ああ、酒と媚薬で朦朧とする陛下を
「襲わせた?」
「王妃の体内からも酒と媚薬を飲んだ形跡があった。当時は誰かの陰謀だと思われたが……そうではなかった。王妃の独断だ。困窮した実家と婚約者の浮気で精神的に追い詰められていたんだろう。酒に入れた媚薬も陛下ではなく婚約者に盛ろうとしていたそうだからな」
身分を超えた愛と謳われた国王夫妻でしたが、なんだか納得している自分がいます。
「王妃様が人前でベールを脱がない理由と関係があるのですか?」
「まぁ、精神的におかしくなっているのは今も同じだ。精神魔法で大人しくさせてはいるが何時発狂するか分かったものじゃないからな」
シンデレラストーリーはどうやら作られたものだったようです。国王夫妻に憧れて恋愛結婚を夢見た貴族子女は多いでしょうに。
王太子殿下は御両親の事を御存知ないのでしょうか?
それとも分かっていて二番煎じを目論んでいると言う事でしょうか?
「殿下達はこれからどうなるのでしょうか」
「どうにもなるまいよ。ああいう連中は自分が正しいと信じて疑わないだろうしな。まぁ、笑っていられるのも今の内だろう。お前には悪いがゲオルグとの婚約は白紙に戻す。奴らに関われば、シュヴァルツ伯爵家も連座にされかねない」
兄の言うことは正しい。
このままゲオルグ様との婚約を進めれば迷惑を被るだけではすまなくなりますもの。とはいえヴァレリー公爵令嬢との婚約を冤罪で破棄して、後ろ盾のないに等しいライト男爵令嬢を正妃に立てることなど、通常ではありえない話です。いかに王妃様という前例があったとしても、曲がりなりにも王妃様は伯爵令嬢。平民育ちの男爵令嬢とでは天と地ほどの差はあるのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます