第3話昨日~記憶にない罪~

「き……貴様! あれだけ罪を犯しておきながらぬけぬけと……。お前がクロエに行った狼藉の数々……忘れたとは言わさん!!!」


「記憶にございません」


「~~~っ……」


 私が某政治家のようなセリフを吐いた後、ユベール王太子は頭から湯気が出るかと思うほど激昂して声にならない叫び声をあげる。この方は感情の起伏が激しすぎて付いていけないわ。こんな精神状態でよく生徒会長を務められたものです。

 常軌を逸脱した王太子の醜態を眺めていると、横に控えていたハインリッヒがユベール王太子に代わり、私の罪とやらを話し始めたました。


「ヴァレリー公爵令、貴女は取り巻きを使ってクロエの私物を破壊し、ありもしない悪評を流して彼女を孤立させましたね。クロエは茶会に参加も出来ずにいたんですよ! 私達と一緒にいることで漸くパーティーに参加できるようになりましたが、貴女はそこでも人を使って彼女に酷い仕打ちを……。ドレスを切り刻み、ワインを浴びせ、噴水に突き落とし……挙句の果てに下町のゴロツキを雇って拉致しようとしたでしょう!!!」


 最後の方は叫ぶように声を荒げております。

 よく見ると他の生徒会メンバーも同じように顔を赤くしています。あらあら、飼い犬は飼い主に似ると言いますからね。彼らが情緒不安定なユベール王太子と同じだとしても全くおかしくありません。

  

「ブランシュ!なんだ!その顔は!!」


「ユベール様、私の顔に何か?」

 

「私達を蔑んだ目で見ていただろう!!」


 何ですかそれは?

 言い掛かりも甚だしい。


「……ユベール様、被害妄想が過ぎます」


「誰が妄想だ!!」


「妄想でなければ目が悪いのではありませんか? それとも脳に支障があるのですか?」


「き、きさま~~~っ!!!」


 真っ赤な顔で怒る王太子は狂人ではないかしら?

 喜怒哀楽が激しいと言っても限度があると言うもの。ある日突然プッツンしてもおかしくありませんわ。


「医者を連れてきて頂戴。脳と精神科の両方をお願いね」


「畏まりました」


 私が自分の護衛の一人に医者を呼んでくるよう指示をだすと――



「酷いわ!ブランシュさん!! ユベールにまで酷い仕打ちをするなんて!!!」


 王太子や他の生徒会メンバーの陰からこちらを伺うように言い放つクロエ。その目にはうっすらと涙を浮かんでいた。私は手にしていた扇子を広げ、口元のあてるように持っていく最中に不自然にならないように周囲を見渡した。会場の男達はクロエの涙に魅入っている様子。まぁ、可憐な美少女が震えながら涙しているのだから男としては当然の反応なのかもしれない。その反対に、女達は白けた目で彼女を見つめていた。こちらも想像通り。女の涙は同じ女には通用しないもの。これでクロエは完全に女性を敵に回してしまったわ。


 

 それにしても、「酷い仕打ち」とは、何のことでしょう。

 私は、彼女になど全く興味ありませんけど?


 寧ろ、酷い事をされているのは私の方では?



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