第2話昨日~婚約破棄~

 裁判前日の学園での昼休み――



「ブランシュ! お前のような非情極まりない悪女は未来の王妃に相応しくない!よって、お前との婚約を今ここで破棄する!!」


 アホが何か吠えています。

 ここは、そんな事を宣言する場所ではないのですけれど。


 何故、今、それを宣言なさったのでしょう?


 周りをよくみて欲しいものです。


 今は昼休みの食堂。此処にいる生徒達は食事の真っ最中。人目を忍んで話し合うと言う発想がないのでしょうか?

 こんな場所で「婚約破棄」を叫んだところで意味などないでしょうに。


 それに……。


 私は今、食事中なんです。

 食べ終わってからでもいいですか?



「聞いているのか!ブランシュ!!」


 あ、ダメなようですね。

 悪目立ちはしたく無いのですが、仕方ありません。なにしろ、王太子は生徒会メンバーを従えてきているのですもの。


 生徒会メンバーが勢ぞろいです。


 生徒会長のユベール王太子、副会長のハインリッヒ・ディオール、会計のオットー・ヴァレリー義理の弟、書記のゲオルグ・グレイとリューク・マノン。そして、五人の少年たちに庇われるように後ろに控えている一人の少女。


「ユベール様とその御一行様、今度は何の遊びを始めたんですか?」

 

「遊びだと!? 貴様!自分が今どういった立場に置かれているか分かっているのか!!」


「あら? ユベール様こそ御自分と立場を理解されていらっしゃらないのではありませんか?」


「~~~っ……ブランシュ、貴様ぁ……!なんなのだ!その、ふてぶてしい態度は!」


 私なにか失礼なこと言いましたか?

 首を傾げると更に激昂する始末。どこに怒る要素があったのか謎です。

 

「ブランシュ! ふざけるな!! 貴様がクロエに犯罪まがいの酷い嫌がらせをしていたのは分かっているんだぞ!!!」


「クロエ? クロエというのは、ユベール様の後ろにいる少女の事ですのか?」


 ちらりとユベール王太子の後ろに隠れるよう立っているクロエを見ると、何故か小刻みに体を震わせていました。フワフワの緑の髪にレモン色の瞳をした美少女は見るからに庇護欲を誘う容姿の持ち主のようです。

 あれが、噂に名高いクロエ・ライト男爵令嬢ですか。編入してからというもの、王太子殿下を始めとする数多の高位貴族を誑し込んでいるとか。様々な噂が流れています。彼女はある意味で有名人ですからね。知らない学生はいないのではないでしょうか?

 もっとも、相手が誰か分かっていても知らぬふりをするのが貴族というものです。現に名乗り合ってもいませんし、彼女に話しかけた事もありませんから「初対面」に違いありません。


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