第2話 自己紹介

「あれ?ここは....」

目を開けると木々に囲まれた綺麗な街が広がっていた。遠くには湖も見える。時刻は夕方らしく、空がオレンジ色だった。

「はぁ....何とかクリアできたけど、やっぱりゾンビって怖いな...ねぇやっぱり次からはメイが前を攻撃してよ..」

「やだよ〜だ」

皆は後ろを振り返るとさっきまで自分達を護衛してくれていた二人がいた。

「さて!それじゃあお前ら!もう日も暮れちまうし、とりあえずなんか食おうぜ!ここはお姉さんが奢ってやるぞ〜あっちに美味い飲み屋があるからさ〜」

「いやメイ。奢るも何もないでしょ?トライ・ランドにはお金なんて無いんだからさ」

今周りにいる人間は全員知らない他人。こんなわけも分からない状況でご飯を食べるのは正直抵抗がある。しかし、だからと言って拒否すれば何も分からないままだ。今何が起こっているのか知る為にもこの人たちについていく必要がある。そのまま二人について行こうとすると、一人の少年は別の方向へ歩き出した。

「俺はやることがあるので失礼します。自己紹介は勝手にやってください」

少年はそれだけ言い残すと立ち去ってしまった。彼はゾンビシアターでシドと呼ばれていた少年だった。

「まぁ。仕方ないか。」

お姉さんはそう言って彼を追いかけようとはしなかった。


そうしてやってきたのはご飯屋さんだった。中に入ると貸切のような部屋に案内された。部屋の入り口にはクローバーと書いてある。そこに十二人が座った。

「そんじゃ!改めて自己紹介するぜ〜私はメイ!クローバーのQ(クイーン)だ!隣で疲れ果ててるこいつはツルギ!こう見えてもクローバーのK(キング)なんだぜ〜?」

お姉さん、メイは元気よく話し始めた。

「えーと、とりあえずみんなに決めてもらわないといけないことが二つあってね。一つ目が名前なんだ。僕のツルギって名前とメイの名前は本名じゃないんだ。みんなの左腕にリングがついてるでしょ?そのリングのnameって書いてある部分と触ると」

『うわ!!』

ツルギの話を聞きながら皆が触ると目の前にタッチパネルのようなものが出てきた。

「随分ハイテクね」

「そこに自分の名前を入れてね。あっでも注意して欲しいんだけど、一度名前を決めたら二度と変える事はできないからね。それと名前を決定した瞬間、自分の本名は忘れちゃうから、もし思い入れがあるなら本名に似た名前にした方がいいよ?」

「え?..........忘れる.........」

皆は手を止めてしまった。先ほどまでゲームのキャラ名を考えるかのように気楽に入力していたが、本名を忘れると言われたことで手が止まってしまった。

「え.....私...お母さんからもらった子の名前...忘れたくない.....」

「忘れるとか...じゃあ名前なんて決めなきゃいいじゃん」

「え〜っと。この世界に来てから2時間以内に名前を決めないと脱落になっちゃうんだよ。だから僕たちも、別に意地悪したいわけじゃないんだ」

「あの〜じゃあ本名入れちゃダメなんすか?」

まだこれまで一回も話していなかった少年が提案した。

「あ〜それな〜確か前回誰かがそれやったっぽいんだけどなぁ〜本名入れたところで、自分の本表を覚えてなきゃそれが本名かなんてわからないんだよ」

確かに一理ある。本名を入れて忘れないようにしても自分がそれを本名だと認識していおなければ意味が無い。

「もう一つ聴いてもいいっすかね?名前を入れた瞬間に本名を忘れるってことは、先輩達も自分の名前覚えてないんすか?」

「まぁな〜つっても別に後悔なんて無いぞ。そんな事でいちいち落ち込んでちゃ、トライ・ランドでは生きていけないからな〜」

皆は少し考えたが、ひとまず納得したようで名前をつけることにした。と言うよりゾンビに追いかけられてから考えるのが嫌になっていたののかも知れない。


「よし!じゃあ全員自己紹介するか!まぁ時計回りに言う感じでいいよな?」

「メイ?先に所属とかルールの事教えた方がいいんじゃ....」

「え?あ〜まぁそうかそうか。確かに教えとかねーと訳分かんないよな〜」

「と言うかそんなに早く自己紹介したいんだ....」

ツルギはかなり疲れているらしく声がさっきよりも小さくなっていた。

「だってこれから一緒に戦う仲間なんだぜ〜?」

メイはウキウキしながら答えていた。

「じゃあどっから話すかな〜まず全員そのリングをも一回みてくれ。名前の下にクローバーと数字が書いてあるだろ?それが自分の所属チームと番号なんだ。」

皆はそれぞれリングを確認すると、確かにクローバーの2、7、10、と一人一人違う数字が書いてあった。

「あの?クローバーって何ですか?」

ゾンビシアターで真ん中の席に座っていた少年、元中林が質問した。

「それがチーム名だよ。この世界、トライ・ランドは四つのチームに分かれて戦うんだ。今いるここはエリア1。そしてそのエリアのボスを倒したチームはボスメダルをゲット出来るんだ。そしてメダルを9枚集めると、エリア10にいるラスボスに挑める。そいつを倒したチームが優勝して、どんな物でも手に入って不老不死にもなれる理想郷にいけるんだぜ〜?」


「ど!どんな物でも....」

「不老不死って永遠の命って事だよね。やばくない?」

皆は興奮した。そんな夢物語みたいな場所が存在するのかと。

「あぁもう一つ。そのリングには丸い窪みがあるだろ?そこにこうやってアイテムメダルをはめ込むと、ゲームの魔法みたいな技が使えるようになるぞ?アイテムメダルはそこら辺のモンスターを倒すとゲット出来るからな」


「なんかゲームみたいで楽しそう」

「俺こう言うゲーム得意だからな〜明日早速行ってみようぜ」

皆の興奮はさらに高まっていく。しかし、その興奮はメイの言葉で沈黙へと変わる。

「あ〜盛り上がってる所悪いんだけどよ。メダル入れる溝の下になんか数字が書いてあんだろ?今は100%になってると思うけどそれは体力。まぁゲームで言うHPみたいなもんだな。それが0%になった奴は脱落。二度と生き返る事はできないぜ」

メイ先輩の顔はさっきまでの明るいテンションとは違い真面目な顔だった。

「え?....脱落って....」

「聞いてないっすよそんな事!」

「そりゃそうだろ〜今教えたんだから。」

「それって...死ぬって事ですよね...」

皆の顔は暗くなってしまった。これがお遊びではない事を今ようやく理解したからだ。

「そうは言ってもよ〜一人でボスに挑んだりでもしない限り、死ぬ可能性なんてほぼないぜ?」

『え?.....』

「お前らそんなに暗い顔しなくても大丈夫だよ!単独で戦ったりしない限り、まず死ぬなんてないからさ!」

メイ先輩は空気を変えようと再び笑顔で話しはじめる

「よし!それじゃあメイ先輩お楽しみの自己紹介タイムだ!まずは〜A(エース)の人から順番に頼むぜ〜?」

そして強引に自己紹介へと話を変えた。というより、早く飲みたいのかもしれない」

「A(エース)ってたぶん私ですね。私は、ミカという名前にしました。隣に座って居るこの子とは中学からの親友です。よろしく」

クールそうな少女は隣に座っていた親友の肩に手を乗せた。

「おぉミカちゃんか〜可愛いなぁってあれ?酒頼んで無いって事はもしかして未成年なのか?」

「はい、私とこの子は19です」

テーブルには確かにライムジュースが置いてあった。隣の子もオレンジジュースを頼んでいた。そしてよく見ると、先ほどまで起きていたはずのツルギは、ビールを一杯飲みそのまま寝てしまったようだ。

「それじゃ!次は2番の子頼むぜ〜」

こうして自己紹介は続いていった。


「2番エルです。この二人とは高校時代の同級生です。よろしくお願いします。」

「3番ミラです。エルがいった通り高校の同級生です。20歳ですよろしくお願いします。」

「4番アズです。........14歳........えと.........よろしくです」

「ワイは5番サイって言います!なんか今まで話す機会無かったけど、これからはガンガン喋ります!17歳です。よろしくお願いします!」

「えーと、6番ユキです。未だに何が起こってるのか理解出来てないんっすけど、まぁ頑張ります。21歳です。よろしくお願いします」

「はい。7番ナトです。エルとミラは高校時代からの友人です。えーと、アニメたくさん見てました。よろしくお願いします」

「皆さん初めまして。先ほどアベルと名付けました。歳は20歳。8番です。よろしくお願いします。」

「こんにちは...ユズです。ミカとは中学校から同じで大切な親友です。18歳です」

「どーもっす。J(ジャック)ゼンです。歳は21歳。趣味はゲーム。よろしくお願いします」

今いるメンバー全員の挨拶が終わった。後から教えて貰ったのだがこのチーム最後の一人。先ほどいなくなってしまった彼が、クローバーの10番名前はシドと言うらしい。


「お前ら!今日は飲むぞ〜!」


 『カンパーイ』


その日、成人組はお酒を飲みまくった。未成年組はその後すぐに解散してしまったのだが、成人組のメイ、ユキ、アベル、ゼンは朝まで飲んでいたらしい。ツルギは乾杯する時は起きていたのだが結局その後、朝まで眠っていた。エル、ミラ、ナトは途中で一緒に店を出ていったようだ。


メイはカイパイする前に、「みんながもっと打ち解けたら、またここで飲もうぜ〜」と笑顔で話していた。

でもこの時皆は知らなかった。クローバーが全員集まって乾杯できたのは、この日が最初で最後であった事に。

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