トライ・ランド

三澤 健

第1話 ゾンビシアター

トライ・ランド その場所の正体を知っているプレイヤーはいない。正体を知っているのはトライ・ランドを作り出したゲームマスターのみ。そしてトライ・ランドへの挑戦権を手に入れたプレイヤー達はここゾンビシアターへと集められる。そして今、ゾンビシアターからの脱出ゲームがはじまろうとしていた。



「あっ...............あれ?」

目が覚めると、見たことのない場所にいた。ここは映画館?しかし、何かが違っているような気がする。

「何だこれ?」

椅子には車のシートベルトのようなものが固定されており身動きが取れない。

よく見るとスクリーンの真下に三匹のゾンビのような生き物が透明なケースに閉じ込められていた。


「あぁ。中林も今起きたんだ。」

「久しぶりだな〜」

「え?......あっ!森川じゃん!それに三谷も!」

混乱していたためすぐには気づかなかったが、前後左右にも人が座っていた。そして自分の右側に座っていたのは俺の高校時代の同級生にして数少ない友達の森川と三谷だった。二人とも卒業後は疎遠になっていたので再開するのは約1年ぶりである。本当なら再開を喜ぶ場面かもしれないがそんな余裕は無かった。今のこの謎の状況で素直に再開を喜ぶ事はできない。

「何してるの?ていうかこれどういう状況?」

「さぁ俺らもさっき起きたんだけど何もわかんなくてさ、あのゾンビみたいなやつも最初はビビったけど別にこっちに来るわけでもなさそうなんだよね」

「え?そうなの....?」

確かに透明なケースに閉じ込められているためゾンビは全く動いていなかった。というより、動けないの方が正しいのだろうか。そして、周りをよく見ると自分を含めて合計13人の男女が椅子に座らされていた。


「なぁツルギ、私たちは何を間違えちまったのかな。絆を深めあえば絶対強くなれると思ってたんだけどさ。それであんな結果になっちまったら正直自信無くしちまうな」

「あんな結果になったのは俺たちの責任だよ絶対にシドやカレンちゃん達が悪いわけじゃない。でも何が正解だったかは俺にもわからないな」

「まぁ私たちがこんな暗い表情してたら、新しい奴らがビビっちまうからとりあえず明るく振舞っとこうぜ」


中林の前に座っている男女二人組は普通に会話をしていた。会話の内容はよく聞き取れなかったが何か重い雰囲気を感じる。それはまるでお通夜のような雰囲気であった。


「ねぇ美咲?あれって本物のゾンビなのかな?さっきから怖くて手の震えが止まらないんだけど」

「えーとあれが何なのかはよく分からないけど、一旦落ち着いて。何でこんな事になってるのか一度冷静になって思い出してみよう?」


左にいる女性二人組は、自分達よりは若いように見えた。自分達はちょうどつい最近20歳になりお酒も解禁された新成人だ。つまり高校生ぐらいだろうか。一人ははとても怯えていて、もう一人は彼女を守っている紳士な彼氏のようにも見えた。そして後ろにも何人か座っている。皆の会話を聞いていた中林は自分も何があったか思い出そうとする。



えーっと...確か今日は、秋葉原に出かけていてそれで...



2032年 10月22日 この日中林は、秋葉原にラノベを買い漁りにきていた。本なんてどこでも買えるだろうと思うかもしれないが、秋葉原限定特典が欲しかった為だけにわざわざ電車で90分かけてやってきたのだ。

そして念願の得点を全てゲットにさぁ帰ろうと思っていた時、あの災害が起こったのだ。

マグニチュード8.9の大災害。これによって中林がいたお店は火災が発生してしまったのだ。


(そうだ!確かあの時、逃げる途中にあった本棚の下敷きになって動けなくなっちゃってそのまま意識が.....あれ?...足...)

中林は本棚の下敷きになったときに足を怪我していた。しかし今、足を確認すると怪我なんてしていなかった。



「9代目の皆!ヤッホー!そろそろ起きたかな?まぁさっきまで死に掛けてたんだから混乱してるのはわかるけどーちょっと僕の話の聞いてもらうよ〜?」

突然スピーカーから声が流れてきた。突然のアナウンスに前に座っている男女二人組と中林の後ろの席にいた男以外は全員驚いている。


「急で悪いんだけど〜これから皆には、脱出ゲームを行なってもらうよ!前のスクリーンを見てね。」

皆は目の前の巨大なスクリーンを見ると何やら地図のようなものが表示された。

「スタートは今いる13階の9番シアター。エスカレーターを降りて行って9階にあるエレベーターまで辿り着くことができたらクリア!クリアした人は全員、トライ・ランドに挑戦できるんだよ!ゴールまでの道のりには、たくさんのゾンビが居るから触られないように気を付けてね!触られちゃったら脱落だよ?制限時間は30分!あっ、それともう一つ。君たちの中には今回の脱出ゲームが2回目、3回目の先輩もいるから分からないことがあったらその先輩に聞いてね〜。それじゃ!ばいば〜い」

地図にゴールまでの経路が表示されるとアナウンスは終了した。何が起こったのか分からなかった。突然誰かが話し始めたと思ったら急にゲーム説明をされたのだ、混乱するほうが当たり前である。

(ゾンビ?トライ・ランド?)

そんな疑問が皆の頭の中によぎっていた。急に知らない場所にいていきなり謎のゲームの説明を一方的にされたら誰だって混乱する。だが、その静寂は一瞬にして終わった。


ガタン!!!


何かのドアが外れたような音がすると、スクリーン下に閉じ込められていたはずの三匹のゾンビが出てきていた。


『うわぁぁぁぁ!』


皆は悲鳴をあげすぐに後ろに逃げようとした。そして悲鳴と同時に先ほどまで前に座っていた男女二人が動いた。


「私が二匹やる!」

女はそう叫ぶと、チェーンにボールが付いているモーニングスターのような物をゾンビたちに向かって投げた。そのボールは三匹のゾンビに勢いよく当たると、ゾンビは倒れた。

「あっ.......わりぃなツルギ!勢い余って全部私がやっちまったわ」

「まぁ俺が倒したかったわけじゃないからいいけどさ。今ので皆んな絶句しちゃってるよ?」

「え?あ〜ちょっと過激だったかな〜」

確かに皆、絶句していた。しかし、恐怖からの絶句ではなく混乱に近かった。

「わりーわりー。怖がらせちまったか?でもよ〜私たちは別に敵とかじゃないからとりあえず話を聞いてくれないか?」

一番後ろの席で全員震えていたが、その中の一人が話し始めた。


「とりあえず今は、言わなきゃいけないことだけ伝えて早くゴールへ向かった方がいいんじゃないですか?ツルギ先輩とメイ先輩がいれば間違いなく全員ゴールまで連れて行けますよ」

「何だよシド〜お前だってちゃんと護衛しろよな?」

「俺はまだこいつを使いこなせていないんで無理です。それに、俺なんかいなくてもクローバー最強の二人がいれば何も問題ないでしょ。」

「えーと二人とも落ち着いて.........とりあえず俺が皆に話すからさ...」

軽く言い合いになっていた二人を金髪の男が止めた。


「えーと皆聴こえるかな?俺はツルギ。さっきアナウンスがあった通り、これから俺たちは9階まで降りてエレベーターに乗らないといけないんだ。その左腕についてる輪っかとか何が起こっているとかは向こうについてから話すから、今は俺たちに付いてきてもらえないかな?」


「どっどうする美咲?何が何だかさっぱり分からないよ...」

「今はあの人たちに従った方がいいわ。下手に自分勝手に動かない方がいいと思う」

「なんや分からないけど、さっきのめっちゃカッコええなぁ」

「どうする?森川?三谷?」

皆はやはり混乱していたが、もしさっきの説明が本当ならこのまま何もせずに座ってると自分達は脱落。この訳の分からない空間で脱落なんてことになったらどうなるか分からない。そんな思いもあり皆は二人に従うことにした。というより、従う以外の選択肢がなかったのだ。


「よし!それじゃあ俺が前を。メイが後ろを守るから、みんな離れないようについてきてね」

「こう見えて私たち結構強いから安心しろよ?」

皆は不満げに頷いた。目の前の二人は一体何者なのか、ここは一体どこなのか。そんな思いも多々あったが一旦考えるのを後にしておくことにした。ここに残っていたがどうなるか分からない。ゲームや映画の場合真っ先に死んでしまうパターンである。だからこそ皆は反抗しなかった。皆の胸の思いはバラバラだが、ここで死にたくないという思いだけは同じ。そしてシアターの門が開き、ゴールまでの脱出ゲームが始まった。


ここにいる彼らは知る由もなかった。今自分達を守ってくれているこの先輩は、仲間を失った胸の痛みを嫌というほど痛感していた事に。



9番シアターの外に出ると右側にはエスカレーター左には別の8番シアターと7番シアターがあった。

「おっと。早速来てるぜ」

メイ先輩の言葉通り、登りのエスカレーターから大量のビンビが流れ込んできた。登りのエスカレーターは動いているが、下のエスカレーターは止まっているようだった。そして別のシアターの扉も開き、そこからも大量のゾンビが溢れ出てきた。

「やばいよ!囲まれちゃったよ!」

「どうする!?どうする!?」

皆が混乱していると金髪の男、ツルギは腰から金色の剣を取り出した。そして刃の部分を人差し指でなぞるとその剣は金色に光り輝きエスカレーターの周りにいたゾンビを吹き飛ばした。

「皆落ち着いて。最初に話した通り前を俺が、後ろをメイが守る。みんなは落ち着いて急いでついてきてくれれば大丈夫だよ。」

皆はツルギの言う通り落ち着いてエスカレーターを降りていく12階はフロアがなく壁になっていたので、問題なく下へ降っていく。11階には13階と同じようにシアターが三つあった。そしてゾンビも大量にいた。

「メイ!この回のゾンビかなり多いんだけど大丈夫?何なら俺が後方に...」

「何言ってるんだよツルギ!広範囲攻撃は私の方が得意なんだから、ツルギはいつも通り道を作ってくれよな」

大量のゾンビを二人は何なく倒していく。ゾンビは消滅するのでは無くただ床に倒れるだけでまた這い上がってくることは無かった。

「ねぇ三谷。中林。あれって本当にゾンビなのかな?」

エスカレーターを降っている途中で森川がふとした疑問を呟いた。

「え?でもさっきのアナウンスでもはっきりとゾンビって言ってたよ?」

「いや、確かにそうだけどさ。俺がアニメでよく見るゾンビは大体不死身だったんだよね。フィクションと同じ考え方するのもどうかと思うけどさ、あれがゾンビにしては違和感があるというか....ってうわ多!!」

ついに9階フロアまで辿り着いたが、エントランスのような一番広い階のためゾンビの数が他の階の何倍もいた。

金髪の男ツルギ先輩を先頭に止まっているエスカレーターを降ってきていたが9階に降りる途中のエスカレーターで一度停止した。


「これはちょっとまずいかもな...ゾンビの量が前回より増えてる。俺一人だけじゃ倒しきれないかもしれない...」

「おい!ツルギ!いつまでも止まってると流石に私も疲れてきちまうぞ!」

女性はさっきからずっと後ろから追ってくるゾンビ達を倒し続けていた。最初は余裕そうな顔をしていたがさすがに疲れてしまったのかもしれない。

「あぁ!ごめんメイ!どうするかな.....俺一人で何とかしようと思ってたけど、状況が状況だからな。シド!悪いけど手伝ってくれないか?」

ツルギはそう言って前から4番目、中林たちの後ろにいた少年に声をかけた。

「本当は今戦いたくないんだけどな。このまま脱落されちゃ面倒だし」

そう言うとその少年シドは腰につけていた刀を取り出した。少年が刀の刃の部分を人差し指でなぞるとその刀は緑色に光り輝いた。そしてエスカレーターを飛び越えて9階へ飛び移る。

「俺が奴らの気を引くので、早くエレベーターまで行ってください!」

「シド!何とか1分粘ってくれ。」

その少年、シドは、四方八方から襲ってくるゾンビ達を次々に倒していく。

ゾンビの目がシドに集中している間にツルギはエレベーターまでのゾンビを倒していく。エスカレーターからエレベーターまではかなり近かったので、ゾンビ達を一網打尽にする。ツルギがエレベーターのボタンを押すと、エレベーターは開いた。エレベーターの中は光っていて中がどうなっているかは分からなかった。


「さぁみんな!早くこの中に飛び込んで!」

皆は急いでエレベーターの中に飛び込んだ。最後の一人が飛び込むと、ツルギとメイは考えた。

「さーて。どうするツルギ?次のことを考えると、ここでゾンビを全滅させておいた方がいいような気もするけどよ。」

「確かにそうだね。でも俺たちの目的は新しい仲間を誰も死なせずにゴールさせることだから、ここで無理する必要はないんじゃないかな。それに今全滅させたところでまた復活してる可能性もあるし」

「まぁ確かにな」

そして二人はシドを取り囲んでいたゾンビを一掃する。自分が苦戦していた数を二人は簡単に倒した事にシドは少し不満そうだった。

「先輩達。あのゾンビ達を一瞬で倒すなんてすごいですね。嫌味ですか?」

「何だよ〜助けてやっただろ〜」

「シド。あの時、みんなを救えなくて本当にごめん。謝って済むことじゃないってわかってるけど、みんなを死なせたのは俺たちの責任だ」

「何言ってるんですか...俺たちが弱かったからあんな事になった。ただそれだけの事ですよ...それに...」

シドは黙り込んだ。自分達が助ける事ができなかった仲間のことを思い出していた。彼はそのままエレベーターへと姿を消した。

「今回は踏み込みすぎない方がいいのかもしれねぇな、っていうかもう何が正しいのか分からなくなっちまったよ」

「もうあんな事にはなりたくないからね。さっき話した通り、新しいみんなの前では明るく振る舞っておこう」

「正直そんな気分には慣れねぇけど、いつまでも落ち込んでたらあいつらにも面目多々ねぇからな」



二人がエレベーターに入っていくとそのエレベーターの扉は閉まった。こうして9代目のクローバーチームは犠牲者が出る事なく脱出ゲームをクリアされた。


しかし、彼らはまだ知らなかった。この場所の正体を。あのゾンビ達の意味を。

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