バツ
らいなわき
第1話
私には人の死が見える。
ある日、友達の顔に黒いバツ印が描かれ、その数時間後に友達は交通事故で亡くなってしまった。
それ以来、死が近い人を見るとバツ印が見えるようになってしまった。
バツ印は、人によって濃さが違い、それによって時間が近いか遠いかが分かる。
今までの統計上、濃ければ最短で数分後、薄くても最長で数時間ほどだった。
いずれにせよ、見えた時点で残された時間はかなり短いということが分かる。
私は死を回避しようと幾度となく手を尽くしたが、そのどれもが失敗に終わった。
それだけでもかなり辛かったのだが、その中に死を早めてしまった人がいた。
その人は自殺未遂を何度もしている男の人で、ビルの屋上から飛び降りようとしている所を私は説得していた。
何とかして助けたい、とその時の私は必死になっていて、冷静じゃなかったんだろう。
無理やりその人の手を掴んで、引っ張りあげようとした。
男は私の手を振り払い、そのままバランスを崩して落ちていった。
どうせ死ぬ運命だったから仕方がない。と割り切れるほど私は図太くなかった。
こんなの、私が殺したも同然だ。
もし見られていたら逮捕されていただろうし、遺族に知られたら復讐されるかもしれない。
罪悪感と恐怖に襲われこの時から私はもうバツ印が見えても関わらない事を決めた。
運命は決まっていて、そこから回避する事は出来ない。
至ったのはそんな結論だった。
○
あぁ、やっと終わった。
会社を出ると軽く伸びをして、大してやりがいもない仕事が今日も終わったことを喜んだ。
そのまま、すぐ家に帰り冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、それを一気に呷った。
飲み終わり、ふと部屋を見回す。
何か、違和感を感じる。
明確な理由は分からない、だがいつもと何かが違う。
まぁ気のせいか、と軽く違和感をあしらい、テレビでも付けようとリモコンを手にしようとして、気付いた。
リモコンの配置が変わっている気がする。
特別几帳面な性格でもないが、変なこだわりがありリモコンは毎回決まった位置に置いていた。
何故…と顔を上げるとまだ付けていないテレビ画面が目に入る。
そこに良くは見えないが、自分の顔に何か黒いものが、あった。
瞬間的に部屋にある姿見の前に移動すると、顔にドス黒いバツ印が浮かんでいた。
今まで見たことの無い、恐らく漆黒と形容するのに正しい黒さ。
すると、私の後ろにある押し入れの扉がゆっくりと開いた。
出て来たのは、顔に自分と同じようなドス黒いバツ印が付いた女性。
その手には包丁が握られている。
私は姿見から目を離さず、逃げようともしなかった。
運命からは逃れられない。
助けようとして助けられなかった、あの日に痛感したことを再び思い出し。
私はそれを受け入れるようにゆっくりと目を閉じた。
〜完〜
バツ らいなわき @rainawaki
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