『短編』 ある少女の遺書
魔導管理室
これを読んでいるあなたは、だれですか?
拝啓、私の家族へ。
あなた達がこれを読んでいる時、私はもう死んでいるでしょう。
私が死んだと知った時、どんな気分になりましたか?
少しでも苦しんでくれたなら、少しでも悲しく思ってくれたら、私はとてもうれしいです。
あなた達は私がなぜ死んだのか、不思議に思っていると思います。
あなた達がこの先出来るだけ苦しんで生きるように、私の想いを綴っていこうと思います。
まず、入れる場所がなくてどこに書こうか迷ったものを今のうちに書いておこうと思います。
私が死んだ場所は、私が一番好きで、一番美しいと思っている場所です。
なぜあんなゴミだらけで不潔な場所を好いていたのか、あなた達は分からないと思います。
だから書きません。
書いてもあなた達を苦しめることができなさそうなので、分からないまま、悩んで生きていてもらえると、私は喜びます。
お父さんへ
あなたは、客観的に見てよい父親であったと思います。
家族四人が不自由なく生きていけるだけのお金を稼ぎ、休みの日には家族サービスを行い、行きたいといった場所には連れて行ってくれました。
姉にとっては、あなたはとてもいい父親であったのでしょう。
幼いころは、毎週のように姉が好きな美術館などに連れて行ってくれましたね。
でも、私が大きい公園で遊びたいといったのを、聞き入れたことが一度でもあったでしょうか。
いくら私が絵などを見るのはつまらないと訴えても、これくらい我慢しなさいとしかいいませんでしたね。
私が芸術と呼ばれるものが嫌いになったのは、間違いなくあなた達のせいです。
今でもはっきりと、覚えていることがあります。
私が、姉のように習い事をしたいと頼んだ時のことです。
部屋を出た直後、独り言を言いましたね。
「お前に金をかけるより、由美に使った方がいい」と。
あの日から、私は惨めな気持ちになりたくなくて、わがままを言うのを止めました。
あなた達は落ち着きのある子になったなんて言っていましたが。
おめでとうございます。
これで、もう私にお金をかけることはありませんよ。
お母さんへ
小さい頃は、まだ私のことを気にかけていてくれましたね。
でも、姉に比べて、さほど優秀ではないことに気づいてからは、私に向けていた時間を姉に向けるようになりましたね。
あなたはよく言いました。
「あなたの頑張りが足りないのよ。お姉ちゃんはあんなにできるんだから、あなたもやればできるのよ」と。
ストレスがたまると、私に良く当たりましたね。
なんでこれぐらいできないの、どうしてお姉ちゃんみたいにうまくできないの、なんで、なんで、なんで。
トンビが鷹を生んだからといって、次に生まれるのも鷹とは限りません。
トンビからトンビが生まれても、おかしなことなど何もないでしょうに。
高校に入ってからでしょうか、あなたはよく、「なんで頑張らないの?」と聞くようになりましたね。
私が頑張っていたときは、何一つ言わなかったくせに。
私がそこそこ頑張って、それなりに良い高校に受かった時に、あなたは言いましたね。
あなたは聞こえていないと思ったでしょうが、実は、部屋の外にいたんですよ。
「なんで由美と違って、由香はあの程度の高校にしか行けないの」と。
ねえ、知っていますか?
あなたが卒業した高校よりも、偏差値は少し高いんですよ?
自分のことは棚に上げて、姉が優秀なのは自分のおかげみたいに振舞って。
姉が優秀なのは、自分の教育のおかげ。
私が劣っているのは、私の努力が足りないせい。
私がどれだけ自分のことが嫌いになっても、私のせい。
私が起こしたことも、私のせい。
おめでとうございます。
あなたの不出来な娘は、もうこの世にはいません。
どうか思う存分、喜んでください。
お姉ちゃんへ
あなたは私が唯一尊敬する人物であり、私が一番嫌いな人物です。
あなたは私の憧れでした。あなたは私の目標でした。
幼いころは、あなたみたいになりたいと思っていました。
無理でした。
成長していくにつれて、私がどれだけ手を伸ばしても、あなたに届くことはないとわかってしまいました。
あなたはとても優秀で、それはとても有名なことでした。
私は何度、「お姉ちゃんは優秀だったから」と期待されたのか分かりません。
何度「お姉ちゃんは優秀だったのに」と落胆されたか数え切れません。
高校生のころから、よく教科書や消しゴム、ノートををなくすようになりませんでしたか?
隠していたのは私です。
私があなたに追い付くには、足を引っ張って、あなたを引きずり下ろすしかないとわかっていたから。
醜い妹でごめんなさい。
でも、あなたも悪いんですよ。
いつだって私の前にいるから、いつだって私の壁になるから。
もしあなたがいなければ、お父さんは私に関心を持ってくれたでしょう。
もしあなたがいなければ、お母さんは私を愛してくれたでしょう。
もしあなたがいなければ、私は私を好きになれたかもしれません。
でも、これはを考えるのは無意味なことです。
だって、私が生まれたのは、あなたが「弟が欲しい」と言ったからなんですから。
弟じゃなくてごめんなさい。
あなたの望む通りに生まれなくてごめんなさい。
おめでとうございます。
望まれない子供は、もう死にましたよ。
ここまでちゃんと読んでくれましたか?
あなた達は私のことを愛してはいないので、ひょっとすると、読まれていないかもしれませんね。
まあ、その方がいいと思います。
これは生産性のある遺書ではありません。
私がどれぐらいあなた達を嫌っていて、どれだけ私の死の責任があるのかを押し付けるためだけの遺書ですから。
でも、もしここまで読んでくれたなら、それぐらいの関心があったなら、
どうかできるだけ苦しんでください。
どうかできるだけ悔やんでください。
それが私の死に対する、唯一の弔いです。
さて。
これを読んでいる時、姉は生きていますか?
生きているならば、二枚目は見なくても構いません。でも、もし死んでいるなら、
あなた達はこの先を見るはずです。姉の死について、知りたいはずだから。
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さて。
これが見られているということは、私は悩んだ末に姉を殺したのでしょう。
私は、どのように殺したのでしょうか。
絞殺?刺殺?撲殺?
まあどれにしても、姉は死んでいるはずです。
私がなぜ姉を殺したのか。それはもう言うまでもないですね。
もし分からないのならば、それはもう救いようがありません。せいぜい無駄に悩んでください。
姉が死んだとき、あなた達はどれぐらい動揺して、どれぐらい取り乱して、どれぐらい現実逃避をして、それを受け入れたときにはどれだけ悲しんで、どれだけ悔やんだのでしょうか。
私の死なんて、軽く吹き飛んだかもしれませんね。
正直、殺すか殺さないかは、半々だと思っていました。
私は姉が嫌いだったけど、それでも尊敬していたのは確かだから。
それでも殺したということは、それだけ私の恨みが強かったということでしょう。
どうぞ後悔してください。苦しんでください。
あなた達がありったけの愛を注いだ優秀な娘は、ほかでもないあなた達のせいで死にました。
私はもう死んでいるので、あなた達のことを見ることができません。
でも、あなた達がとても苦しんでいることは分かります。
とても嬉しいです。
どうか、悩んで、苦しんで、悔やみながら生きてください。
これが私の、一番の復讐です。
あなた達が苦しんでくれるなら、私は地獄の底で笑えるはずですから。
『短編』 ある少女の遺書 魔導管理室 @yadone
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