幽霊とパフェ

水中

11a.m.


 月曜日、晴れの日だった。有給をとって3連休の最終日、僕は京都にいた。電車を待つ。前後左右見渡すと全ての方向に外国人がいる。あれは中国語か、そっちは英語、あっちは韓国語、これは、何語なんだろうか。もはやここは、日本ではなくなってきている、そんな感じがした。

 その日の予定はといえば、姉の家の近くにある喫茶店に、パフェを食べに行くことくらいだった。コンフレークの入っていない、最後までソフトクリームが詰まった完璧なパフェ。食べる前から幸せな気分になった。口の中がソフトクリームでいっぱいになって、冷んやりする感覚とミルクの甘い味が広がった、まだ食べてもいないのに。誰にも聞こえない音で僕は唾を飲み込む。電車が来る。人の流れに従って、僕は電車に乗り込んだ。


 それなりに混んでいたこともあって、立ったままでいることにした。吊り革を掴み目の前の車窓から見える景色をただぼーっと眺めた。

 周りは相変わらず音で溢れている。僕は音に敏感な方だ。大きな音は勿論、中でも特に人の話し声が苦手だった。何でもかんでもよくない方に考えてしまう癖もあって、他人の話し声は悪口に聞こえた。それは、僕という存在が酷く小さくなったような部屋の片隅に追い込まれたような、なんだか窮屈な気分にさせる。だから僕は外にいるとき必ず耳を塞ぎたくなった。ポケットからAirPodsを取り出してお気に入りのプレイリストを再生する。すると途端に窮屈さは消え、音楽と僕だけの空間になる。音楽は僕のヒーローだった。歌手の歌声とその後ろのサウンドに集中し、僅かに指先でリズムを刻む。目を閉じて、脳は思考を止め、僕は完全に音楽の海に沈んだ。


「まもなく…です」


遠くの方から微かに聞こえる。

音楽の海に沈みきった僕を呼び戻す声。

目を開ける。

丁度6曲目が終わる頃、目的の駅に着いた。姉の住む街、最高のパフェがある街。京都を訪れたときには必ず姉の家に遊びに行くため、何度も来ている街なのに、今日は特別な場所に思えた。きっと、いや絶対にそれはパフェのせい。もうすぐ食べられると思うと、それだけで頬が緩んだ。


 電車が止まって、ドアが開く。僕の手は吊り革とさよならして、止まっていた足、沈んでいた脳、僕の身体はパフェを目指して動き出す。

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幽霊とパフェ 水中 @_mu_2

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