第9話 魔王です。25歳です。
午前中からお酒を飲むのは、旅行中だけと決めている。
そして今、午後になった。
よっしゃぁ、酒場に行くぜ!
「ぷにぷに、ぷにぷに」
私はプニスケに腰かけて、また町まで運んでもらう。
『はあ……』
「な、なに? 言っておくけど、そんなガブガブ飲むつもりはないよ。情報収集が本当の目的だよ。酒場は色んな人が集まるから、色んな情報が集まる。RPGで学んだんだから!』
「いえ。情報収集は結構ですが、寝て酒を飲んでプニスケに運んでもらおうという生活を続けていたら、せっかくのスリムな体型があっという間に横に広がるだろうな、と忠告したいだけです』
私は忠告に従って、自分の足で歩くことにした。
「よ、よーし。どっちが先に町に着くか競争だよ、プニスケ」
「ぷにー」
ぷにぷに走るプニスケの後ろを、私は追いかける。本気を出したプニスケは結構速い。OLだった頃の私の全力疾走くらいだ。運動不足の私と同じレベルは自慢にならないと思うけど……ぷにぷにと跳ねて移動している割には、いい速度なのでは。
「負けちゃった。プニスケは凄いねー」
「ぷにぃ」
私に撫でられて嬉しそう。
スライムの可愛さを、もっと色んな人と分かち合いたい。エリザベートが私を見つけたときの興奮が分かってきたかも。
「お。今日も来たな、シロハちゃん。デカいスライムを連れた銀髪の少女が町を歩いてるって噂になってたけど、やっぱりシロハちゃんのことだったか」
酒場に入ると、マスターが話しかけてきた。
「あはは、目立つもんね。おかげで領主の娘のエリザベートと仲良くなれたよ。とりあえずビール大ジョッキ」
私はカウンター席に座る。
「エリザベート様はスライム好きで有名だもんな。しかし、こんな大きなスライム、どこで手に入れたんだ? ステライムって、ただでさえ貴重なんだろ?」
「魔王城の地下で石化してたのを解除したの」
「なにっ? 魔王城に入ったのか!」
「うん。私、優秀な魔法使いだから、封印を突破しちゃった。というか、私が魔王でございます」
私は人々の反応を確かめるため、魔王であると軽い口調で暴露してみる。
「シロハちゃんが魔王……? おいおい、冗談はよしてくれ。魔王ってのは、もっと恐ろしい存在のはずだぜ。ガキの頃、紙芝居で見たんだ。シロハちゃんはどっちかというと、魔王に捕まるお姫様だぜ」
すると、周りのお客さんたちがマスターに同意した。
私みたいに昼間っからお酒を飲んでる人がいれば、ランチを食べに来ただけという人もいる。
身なりを見ると、鎧を着ている人が多い。金属製だったり、革製だったり。
魔法使い風の人も、襟元から鎖帷子がチラチラ見えてる。どれも格好いい。しかし可愛くはない。
ゲームとかに出てくる鎧って、平然と太ももや胸元を露出してるけど、現実だとそうはならんね。デザインを優先したら防御力が台無しになって、鎧の意味がないもん。
「みんな、冒険者なの?」
私は質問した。
するとフルプレートアーマーを着た女剣士が、私の隣に腰を降ろした。
「そうさ。マスターが元冒険者からね。自然と冒険者が集まるんだ。情報交換したいなら冒険者ギルドか、この店か、という感じかな。もちろん冒険者じゃない人も来るけど」
「へえ。女性なのにそんな重そうな鎧を着て動き回るんですか? 凄いですね!」
「ありがとう。この鎧は高かった。これを買えるだけの冒険者になれたのは、私の誇りだ。けれど……君のように可愛らしい服にも憧れるよ」
「美人さんですから、似合うと思います!」
「ふふ、君にそう言ってもらえると自信が湧くよ。けれど、武器と鎧のメンテナンスには金がかかる。ポーションも用意しなきゃならない。冒険者は出費が多いんだ。とても普段着に金をかけられないよ」
女騎士さんは自嘲気味に言う。
すると、ほかの冒険者たちからも似たような声が上がってきた。
「着れりゃいいって感じよねぇ」
「俺は穴が空いてる古着でも買うぜ。おかげで女房より裁縫が上手くなった」
「服に金使うなら、飯と酒に回すぜ」
「ワシは自宅では裸族じゃ」
ふむふむ。
冒険者って大変なんだなぁ。
デザインと防御力を両立した防具があれば、冒険者たちもオシャレできるのに。
「ところで、みなさん。魔族が封印されてる場所に心当たりない?」
「魔族が封印されてる場所? そんなの知って、どうしようって言うんだ?」
マスターが不思議そうに言う。
「私がその封印を解いて、仲間にするんだよ。私が魔王だって信じてくれなくてもいいけど、魔王城に入ったのも、そこでこのスライムの石化を解いたのも事実だから。ね、プニスケ」
「ぷに!」
「誰も入れなかった魔王城になぁ……それってマジなのか?」
マスターは信じがたいという顔だ。そのとき。
「マジです!」
と叫びながら、エリザベートが酒場に入ってきた。
「私、ついさっき、シロハさんに招待されて魔王城に入りました。魔王かどうかはともかく、普通の人にはない能力を持っているのは確かです」
「マジか……エリザベート様がそう言うなら確かだな。そうか、シロハちゃんはあの城の封印を破るくらい凄い魔法使いなのか。なら、魔族の封印を解いて仲間にするってのも、酔っ払いの戯言じゃなさそうだな」
「戯言じゃないし、ジョッキ一杯で酔っ払ったりしないよ。おかわり!」
「……シロハさん。お酒、お強いんですか?」
エリザベートは、二杯目のジョッキを受け取る私を見て呟いた。
「まあ、強いほうかな」
「……マスター。私に白ワインをください」
「エリザベートも飲めるの? 飲んでいい年齢なの?」
「この国では十五歳から飲酒が認められています。そして私は十五歳。問題ありません!」
エリザベートは澄ました表情で答える。
が、マスターは困り顔を浮かべた。
「そりゃ法的には問題ないけど……エリザベート様、こないだ、グラスワイン一杯でベロンベロンになって、屋敷の人に迎えに来てもらったじゃないか」
「そうなんだ。弱いなら、あんまり飲まないほうがいいよ。体質とかあるし……」
「あのときは十五歳になったばかりで、飲むペースが分からなかっただけです! シロハさんより私のほうが背が高いんですから、私のほうがアルコール分解能力が高いはずです! 負けません!」
いやぁ、そういうものじゃないと思うけど。
「そもそもシロハさんは、ちゃんと十五歳になってるんですか? グビグビ飲んでますけど」
「私はこう見えて……実は二十五歳だから……」
そう答えた瞬間、酒場全体が今日一番の驚きに包まれた。
「う、嘘だろ! 二十五どころか、正直、十五より若く見えるぞ!」と、マスターが叫ぶ。
「十五歳未満に見えたのにお酒を提供したんですか?」と、エリザベートが表情を厳しくする。
「二十五歳……私と同い年じゃないか。それでこの肌の艶……ど、どんな方法を……? そういう魔法があるのか? だが私が今まで会った魔法使いは、年相応の外見だったぞ……」と、女剣士さんが動揺している。
「方法って言うか……魔王だから、かな?」
トラックに跳ねられるまで、私だって二十五歳の顔だった。
それが魔王に転生したらロリってた。方法とか秘訣とか、答えられん。
「なるほど……信じよう。君は魔王だ」
女剣士さんは神妙な顔で言う。
なんか思わぬ理由で魔王と認められてしまった。
そして女剣士さん、同い年だったか。仲良くしましょう。
私はみんなと酒を飲み交わし、そして『フェンリル』が封印されているらしい場所の噂話をゲットしたぞ。
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