第5話 そのスライムは魔王を駄目にするクッション
私はナビコの案内で、魔王城の地下室の一つに来ている。
「この丸い物体はなに? 石っぽいけど……」
両腕を使っても抱え込めないほど大きい。
指先で触れてみると、やはり石の感触だ。
なにかの石像とかなら分かるけど、どうしてただ大きくて丸いだけの石が地下室に置いてあるんだろう?
『これは邪神の力で封印された魔族の一匹です。シロハ様。魔王であるあなたなら、解呪魔法で封印を解くことができるはずです』
「邪神の力で封印?」
『はい。かつてこの世界には多くの魔族がいました。しかし魔王様が消滅したことで魔族は弱体化しました。そして邪神が放つオーラに耐えられず、ほとんどが死にました。この魔族は地下にいたので、かろうじて消滅を免れました』
「消滅しなかったけど石化はしちゃったんだ……私なら元に戻せる?」
『はい。あなたは膨大な魔力に加え、天才的な魔法の才能を有しています。念じるだけで封印を解けるはずです』
そういうことなら念じてみよう。
むむむ。石化よ、解けろ。封印、解除。
お、石が光った。
灰色だった表面が、水色になっていく。愛嬌のある顔が浮かび上がった。
「ぷにぷにー」
水色の物体は可愛らしく声を出し、ぷにぷにと跳びはねた。
「おお! でっかいスライムだ!」
「ぷにー」
スライムは私にすり寄り、甘えるように肌を押しつけてきた。
ひんやりして柔らかくて触り心地がいい。なでなで。
『シロハ様、素晴らしい才能です。念じるだけでと申しましたが、たった一度で成功するとは思っていませんでした』
「へえ。私って凄いんだ」
『はい。脱帽です。このスライム以外にも、封印された魔族は世界各地にいます。封印を解けば、魔族たちはシロハ様の力になってくれるでしょう』
「なるほど。ならそうしよう。この大きなお城に私とナビコとスライムだけじゃ寂しいもん」
『ですが、スライムの封印を解いたように簡単にはいきません。そのスライムは、邪神が無意識に垂れ流しているオーラで石化していました。しかし上位の魔族は、邪神や天使が意図的に封印しています』
「ふむふむ。その強力な封印を解くには、どうすればいいの?」
『おそらく、一つ一つが別の術式で封印されています。なので、その問いに答えることはできません。また、魔族が封印されている場所の知識も、私は有していません』
場所を探すところから頑張らなきゃいけない系か。大変だなぁ。
「ま、目の前の課題を一つずつ、ゆっくり片付けていこう。まず、このお城のどこになにがあるのか把握しなくっちゃ」
『かしこまりました。では案内を続けます』
私が歩き出すと、スライムがプニプニとついてきた。可愛いなぁ。
って、くっつきすぎ!
お、おお!? 私のお尻に体当たりしている。
「もしかして、私を乗せて運んでくれるの?」
「ぷに!」
肯定しているように聞こえる。
私はお言葉に甘えてスライムの上に座った。
あ。これってあれだ。人を駄目にするクッションだ。
座り心地がよすぎる……しかも勝手に移動してくれる!
「魔王を駄目にするスライムだ……」
「ぷにぃ?」
それから私は自分の足を使わずに、城のあちこちを見て回った。
武器庫には格好いい武器と防具が並んでいる。伝説の剣とか、呪いの鎧とかあるのかなと思ったけど、ナビコいわく、本当に強力な武器は邪神との戦いで失われてしまったらしい。
図書室には沢山の本が並んでいる。何冊か手に取ってみた。知らない文字で書かれているけど、なぜかスラスラ読める。やはり、異世界転生ものにありがちな翻訳スキルが自動的に発動してるのかな。魔導書を何冊か持っていって、魔法の勉強をしよう。
城の最上階には玉座の間があった。ここも白を基調とた内装。ラスボスが待ち構えているような、おどろおどろしさはない。玉座に腰かけてみる。うーん、偉くなった気分。
「スライムのほうが座り心地いいかな」
「ぷっにぃ」
スライムは嬉しそうに飛び跳ねた。可愛い奴め。
それから私たちは、誰もいない食堂や、湯が張っていない大浴場を見て回る。がらんとして寂しい。
『ここが魔王の寝室です』
「おお、天蓋付きのベッドがある! 豪華!」
私とスライムは布団にダイブして、ゴロゴロ転がる。
ベッドを堪能してから、部屋を探検。
「クローゼットが広い。これなら何着でも収納できる。ならば!」
私は調子に乗って、以前から気になっていた服を全て取り寄せてクローゼットに並べた。
絶景かな、絶景かな。
「なんか急に疲れた……足下がフラつく……」
『それはそうでしょう。アマゾーンは素晴らしい能力ですが、その分、魔力の消費も激しいはずです。いくらシロハ様の魔力が莫大な量とはいえ、無限ではありません。それだけの量を異世界から召喚して、フラつく程度で済んでいるのは驚異的なことです』
なるほど。
本物のネット通販はお金を対価に品物を取り寄せる。この能力は、お金の代わりに私の魔力を対価として支払っているのか。
『疲れたのでしたら、横になってはいかがでしょう』
「そうする。心配してくれてありがと。ナビコは優しいね」
『私に感情はありません。ナビゲーターとしてアドバイスしたまでです』
「そっかぁ。それでもありがとう」
私は再びスライムと一緒に寝転んだ。そして図書室から持ってきた魔導書を開く。
いくら文字を読めるとはいえ、私はこの世界の魔法の知識なんて全くない。理解できるようになるまで時間がかかるんだろうなぁ……。
と、思ったんだけど。
なんだ、これ……スラスラ頭に入ってくるぞ。
「私、天才か!」
『はい。魔法に関しては間違いなく天才でしょう。シロハ様は魔王なのですから』
そっかぁ。
これだけ理解が早いと、勉強するのが楽しい。
学校の勉強もこのくらい理解できたら一流大学に入れたのに。
いや、一流大学に入って一流企業に就職するより、魔法を覚えまくるほうが絶対に楽しいか!
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