第3話 パワーアップした麻衣

 中学校の騒動いらい、勝手をさせないように見張っていた。

 高校になり、彼女の綺麗さは磨きがかかる。


 ただ、おつむはだめだ。

 子どもの頃から変わっていない。

 

 あの時のことを言っても、母親である玲奈れいなさんは笑うだけ。

 それどころか……

「その子から、代金としてゲーム機を貰えば良かったんだよ。安売りしたね」

 そう言っていた。


 ただ変わったのは、俺にねだること。

「人にして貰う方が、気持ちが良いの」

 そう、深井の所には行かないから、代わりにしてと……


 一度、玲奈さんに見つかってしまったが……

「まあ、あんたなら良いか。勉強をして偉くなりな」

 そう言って笑っていた。

 ただ、まだ子どもは作るなと。


 それ以降、玲奈さんが家に来ることが増え、親父と妙に仲が良い。

 まさかね……


 うちの親父は、人の家に養育費を払っている。

 母親が事故を起こして死んだとき、まきぞえで撥ねてしまった男の人。

 保険は出たが、それだけでは申し訳ないと、向こうは必要ないと言ったがずっと。

 だけど、もう七年? 八年? もう向こうも成人のはず。


 そんな疑問を抱えつつ、高校になると麻衣はテニスをしたいと言い始める。

 硬式なんか、子どもの頃からやっている人間ががちで取り組んでいる。

「いまからじゃ、遅いだろ」

 そう言ったが聞かない。


「お試し入部の時に、筋が良いって言われたの」

 確かに運動はできる。

 でも……


「道具とかはどうするんだ?」

「部になんかお古があるし、しばらくは、ユニフォームなんかも必要ないって」

 なんて楽観的な……


 俺は、スマホが欲しい。

 父さんに話をする。

「そうだな、あんまり高いのは駄目だが、麻衣ちゃんのも要るか」

 そう言って、安いモデルだが、に買ってくれた。

 驚きだよ。


 そしておれは、いよいよ玲奈さんとのことを勘ぐってしまう。


 でだ、入部勧誘の甘言はやはりで、遠征費用やユニフォーム代。

 本式に始めるならば、シューズにラケット、その他もろもろが必要となる。


 それが発覚して、一週間も経たないうちに親父が貸したと……

 嬉しそうに、ラケットを持って俺の前でクルクル回る麻衣。

 アンダースコートじゃなくパンツなのが何とも……


 そう、最近とみに二人の仲が怪しい。

 何時も疲れた感じだった親父が、カッコを付けて、なんだかしゃんとし始めた。

 母親が死んでずっと、うらぶれた感じだったのに。


 そうして、五月の連休中に早速テニス部は遠征。

 大会があるとかで、新人も手伝いと応援でバスに乗っていく。

 

 ただね、俺は知らなかった。

 男子部と女子部に別れて出発をしたが、目的地は同じ。

 そして、恋愛になれた野郎どもが、テニス部に多く。

 女子も男子も、そんなに初心な奴はいない。


 当然宿も同じで、まあそうなることが多いという事。

佳博けいはく先輩、明日個人で三回戦出場なの。お部屋に行かない?」

 部の女の子に、麻衣は誘われる。


「えっなんで?」

「そりゃ、マッサージとかしてあげたり。ねえっ」

 憧れの先輩。一人で部屋へ行く勇気がなく、やることが無くてあぶれていた麻衣を、無謀にもその子は誘ってしまう。

 言っては悪いが、大抵の男は二人が並ぶと麻衣しか見ないだろう。


 そして憧れの先輩は、普通の好みだったようだ。

「マッサージします」

 そう言って受けている間、先輩さんの目は頑張っているその子では無く、麻衣を狙っていた。

 テニスで鍛えた目は麻衣から離れない。


 だが翌日の晩、『ゆーちゃんに叱られるから、男の人と二人では会わない』そう言って振られた。

 だけど……

「二人じゃ無ければ良いね」

 そう言って、取り巻きのセフレ。それとメンバーを集める。


「色々教えてあげるし、部にいるなら君のためにもなる。そう…… 教えてあげるよ色々と」

 そんな言葉に騙されて、おバカは付いて行く。


 でまあ、なる様になるが、玲奈さんの教育が働く。

「タダで? 嫌」

 そこから、馬鹿なことに入札が始まる。


 あきれかえる、他の女子。

 権利は、三重岳みえだけ先輩が取ったようだ。

 だけど、麻衣は初めてじゃないし、ある程度は慣れている。

 そう、玲奈さんに見つかってから、俺は恋人同士のつもりだった。


 だけど、麻衣は違ったようだ。

 物やお金をくれるから、優しいから、気持ち良いから……

 このくらいなら、叱られないよね。彼女の貞操観念はどこかおかしい。

 その事を、気がつかなかった。


 帰ってきても普通に振る舞い、お土産を和やかにくれる。

 夜もエッチをして、普通に寝る。


 そう、いつもと同じ。


 だけど、周りの子には妬まれ、話が漏れてくる。

 あいつはビッチ。お金を払えば誰にでもさせる……


 回り回って、俺の所にも来る。

 だが幾ら言ってもそんな事……


 一応、その晩、問い詰める。

 だけど正座をして、俯いたまま、何も喋らない。


 その途中で気がつく。

 コミュニケーションアプリの着信。

 音を切っているため、ブーンブーンと響く。

「見せろ」

 そこには、お願いと御礼の数々。

 はめ撮りまで……


「ごめんなさい、人に売春だと言われて、そう言われれば、そうかもって…… ヤッパリ怒る? ちょっとエッチをしただけなの…… でも下手だし、強引だし、余り良くなかった……」

 そう言って、顔がへにょっとなる。


「そうかもじゃない、そうなんだよ」

 おれは、玲奈さんに言いに行く。


「あちゃぁ、それは…… ねぇ寛太君、許してくれない? この子ちょっとあれなのよ。寛太君がいないと…… たぶん碌な事にならないわ」

「いても碌な事になっていません。無理です」

「そっかー」

 そうだよねぇと納得をした様だが、ここで爆弾発言。


「でも、私お父さんと結婚するから、えーと、誕生日からすると、麻衣がお姉さんになるのね。よろしく」

 そう言ってニコニコ……


「嫌だぁ……」

 そう言って俺は、夕日に向かって走っていった。


 いま、麻衣は屑姉として、恋人から格下げをして、おれの監視下で奴隷となっている…… だけど、それはそれで喜ぶから、もうね……



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 お読みくださり、ありがとうございます。

 なぜか、ドロドロ話のはずが、お笑いに……

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