第2話 獲物

「そうは言ってもだな」

 それは、当然のように問題となる。


 ただ、顛末はトイレに行った好美を追いかけ、個室のドアを叩くが出てこない。

 そこで、矢島 恵里華達は渡辺 龍達を引き入れ、五人でドアをガンガンやっていた。


 バケツを掃除用具から出して、水を個室にぶちまける。だが下手すぎて自分にかかり、矢島が怒り始める。


「バカじゃね? おっと」

 単なる付き添いなのに、つい本音が。

 周りに睨まれる。

 

 バケツに乗り、中を覗こうとしたらドアが開けられ、矢島は自らが作った水たまりの上にすっ転ぶ。

 ドアは内開きだから、登ろうとして、足でも掛けていたのかもしれない。


 それでまあ、好美は聞いたわけだ。

「なんでこんな事をするの?」

「どうだって良いだろ」

「どうでもいいんだ。じゃあ…… わたしがしても良いのね」

 そう聞いたら、矢島が好美の足を蹴った。


 蹴られたから、足が伸びて無防備な股間を、すかさず蹴り返した。

 すると、それを見ていた渡辺に突き飛ばされた。


 だから、まだ転がっている矢島の腹にまたがり…… 殴った。

 その時は、殴ったとしか言わなかったが、集まる前に話しを聞いたとき。意図的に目を殴ったらしい。

 鼻と目で悩んだらしいが、せせら笑う時の目が気に食わなかったようだ。


「おい、やめろ」

 また突き飛ばされたから、今度は鼻。

 滝川 遊姫たきがわ ゆきが私をどかそうと、わたしの右手を引っ張るので、左手で矢島の顔を殴った。


 まあそれから、殴られたり手を出された分を、矢島に返していったと。

 言っていたとおり、素直に証言をする。


 怪我をした矢島の親が、当然うだうだと言ったが……

「女子トイレに男まで引っ張り込み、『どうだって良いだろ』なんて理由で、か弱い私を、寄ってたかって虐めるのは良いんですか? わたしは力が無いので、全員の相手などできないし、たまたま目の前に主犯の矢島さんが転がって居たので、抵抗をしただけです。先生は来ましたが、ずいぶん後。抵抗をしなければ、きっとわたし、殺されていました。何もしなければ、こっちも何もしないのに。ねえ、矢島さん」

 一応目は大丈夫だったようだが、顔はボロボロだ。

 そして、冷めた目で殴り続ける好美は、ある程度の恐怖を植え付けたようだ……

 聞かれた瞬間、矢島はビクッとなる。


 ――だが、憎悪や恨みは、基本どっちかが切らないと続く。

 問題はその切り方……


 これからは予測だが、矢島はきっとまた、好美へと手を出した。



 その頃俺は、好美と付き合っていた。

 そして、日曜日。トイレ事件の時には無かった傷が、背中にあることに気がついた。

「痛っ」

「背中に傷があるぞ」

「どんな感じ?」

「ドアとか、角っこ。柱とかにぶつけた感じかな」

「あーそれなら、角材ね。立てかけてあったのが倒れちゃって」

「そんな物、一体何処で?」

「あったの。いいからゆっくり。しよ……」



 事件から一週間。

 一応コイツは、まだ謹慎も停学も食らっていない。

 だが、一応治療中。

 本格的に停学になると、親が付いていないといけない決まりがあるらしく、非常に面倒だと言っていた。

 親が家に居られない場合は、学校へ行って、自習だそうな。


 だがそんな事は、どうでも良くなった。

 当事者五人が、仲良く消えた。

 日曜日のことらしい。

 集まって話をしたのは、土曜日のことだった。


 昨夜気が付いた背中の傷。そして珍しく興奮をしていた好美。



 工事現場に好美を連れ込んだのは、あいつら五人だった。


 まだ基礎工事中だったビルの建設現場。

 家にいた、好美を連れ出した。


「ここはパパの現場なの。そこの杭を見てぇ。これから埋めるんだって。根元に、人が一人くらい埋まっていても、気が付かないわよきっと」

 矢島はそう言って、嬉しそうに笑う。


「何が言いたいのか分からないけれど、文句があるなら直接言えば良いじゃ無い。私なんかに、かまっていないで……」

 好美はあの後。

 奴らの行動、その根っこを、なぜだろうと考えたようだ。

 なぜ、無意味で馬鹿なことをするのか?

 理由は?


 私を選んだのは、虐めても密告しないチクらないと考えたから。

 それは、あの騒動の中で、誰かが叫んでいた。


「不満の元は、家なの? 学校なの? 成績が悪いのは…… 自分自身のせい。頑張りなさい」

 そう言って、五人を見ながら、淡々と好美は語る。


 この時、奴らは好美の違いに、気が付くべきだった。

 普段の生活の時と、明らかに違う。

 その目は、そう。じっと敵を狙う暗殺者。

 感情のこもっていない、冷たい目で彼らを見ていたことを。


「社会に文句があるなら、WEBから各政党に意見を投げたら?」

 そう言って、表情だけは薄ら笑いを浮かべる。


「やかましいわね。あんたには、少し反省して貰うだけよ。ひん剝いて写真を撮ってあげる。あんたみたいな貧相な体でも、多少はお金になるでしょ。慰謝料として貰ってあげるから」

 矢島はそんな事を言いながら、脅して泣かそう。その位にしか、思っていなかった。


 人のいない工事現場。基礎杭の周りには、まだ穴があり、埋め戻す途中。

 そう、ちょっと脅そうとしたはずなのに……


 彼女達の誤算。

 それは、相手が本物だったこと……


 距離は三メートルくらいだっただろう。

 パンという、乾いた音がした。


 痙攣をしながら、倒れたのは渡辺。

 そう、矢島の彼氏で、体も一八〇センチ近くあり、力任せだと面倒。

 性格は、以外とヘタレだが。


 胸に二本、棘が刺さっていて痙攣をしている。

 完全に違法だが、どこからか入手した、テーザーガン。

 一発で昏倒した様だ。


「はっ。なに?」

 困惑している残り四人。

 もう一発発射され、もう一人の男吉井 悠斗よしいゆうとを狙ったようだが、隣にいた椎名 梨花しいな りかにあたったようである。


「バカね、うろうろするんじゃないわよ」

 吉井が頭に衝撃を受ける前に、耳元で聞こえた冷たい声。


 衝撃と共に、彼の意識は途切れた……

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