第3話 冷める気持ちと嵐

「そんな所だ。だがなあ。このメッセージは……」

 言いかけた所で、まるっと無視をされる。


「そんな事より注文しよう。飲みものなに? 咲那さくやはどうする?」

「私はカシスソーダ」


「彼女はボクちんの彼女。橘 咲那。あの髭を生やしてオッサンになっているのが、今日の主賓次野 幸雄つぐの さちお君。てっきり家で、もう腐ってると思ったよ。君に聞かれたから逆に聞いて回ったら、高校の時からの彼女だったんだって。ごめんね知らなくて。今日の分はおごるから」

 そう言って、手を合わせ拝んでくる。


「そして、澤入 彩乃さわいり あやのちゃん。同じメールを投げて、来てくれたのが彼女一人。彩乃ちゃん幸雄をよろしくね」

「えっ。はい…… えっ」

 話を振られて、彼女もオロオロだ。


「ちょっと待て、あのふざけたメッセージ。何件投げたんだ」

 黙って手を広げる香村。


「五人もか? リストよこせ。後で謝るから」

「だめ。放っておけば良いさ。それよりも、心配をして来てくれたんだ。彼女に感謝しな」

 そう言われて思わず、彼女に礼を言う。


「心配をさせてすまなかった。ありがとう」

 そう素直に言うと、なぜか涙が流れ始める。


 そんな感傷なのか、感動なのか、そんなものもぶった切られる。

「さあさ。飲み物」

「ビール」

「ウーロン茶を」

「アルコール駄目なの? 彩乃ちゃん」

「いえ、そうではないんですが」

「じゃあ、ウーロンハイね」

 強引さに、彼女は沈黙をする。



 澤入 彩乃は、もっと田舎の出身。

 右も左も分からず、前期を何とか走り抜けた。

 後期になった所で、実習用の班が作られ適当に決まった中に、河合 柚葉と次野 幸雄がいた。

 本当に羨ましいくらい自然な距離感。

 

 河合 柚葉と彩乃は、友達になろうかとしたのだが、周囲から止められる。

「あの子に、近寄っちゃ駄目。気が付いていない、次野君はかわいそうだけどね」

 そう言ってくれた子に、詳細を聞く。


「次野君に、教えてあげないんですか?」

「だめよ。奴らに恨まれたら、連れ込まれて回されるわよ」

 そんなことがあったが、幾つもの優しい記憶。次野に引かれていた。


 そして半年。

 今まで、クーポンの案内以外、誰からも連絡が来なかった、メッセージアプリに香村 瑛太からメッセージが来る。

「だれいったい?」

 疑問に思ったが、内容を見て、興奮をする。


 思わず、行きますと返事を返して、美容院へ行き。

 服を買いに走った。

 一世一代の散財。


 その日、垢抜けない女の子は消え失せていた。

「これが私?」

 まるでシンデレラが、舞踏会に向かう前のような気持ち。

 

 次野君に会いたい。

 彼が苦しいなら助けたい。


 踊りながらやって来たら、彼は本当に腐っていた。


 そして謎だった、香村と会い、彼を頼まれた。


 アルコールが入り、少しずつ状態になれていく。

 腐っていても彼は、スマートに気遣いができる。

 やっぱり優しい。


 そんな頃。廊下でガヤガヤと声が聞こえる。

 男と女。五から六人程度が騒がしく隣に入る。


 壁が薄く、売り上げは順調だとか、そんな話が聞こえる。

 途中、海翔とか、翔とかの間に、柚葉や乃愛のなまえや朱莉と凌久と聞こえる。


 それに気がつき、思わず香村を見る。

 奴は、人差し指を口の前に立て、笑顔を浮かべている。


「なんだよ、柚葉。欲求不満か?」

「そうなのよね。会いに行っても、なんか体調悪いらしくって」

「そりゃバレたんだよ。別れっちまえよ」

「それでも良いけどね。付き合いが長いし親同士が仲いいから。あんっ。ぐっ」

「もっと深く咥えろや。そうそう」

 そのあと、壁を通してわずかに、淫靡な音が響く。


 訳が分からないのは、彩乃だけ。

 オロオロしていると、香村からスマホが差し出され、彩乃は見始める。


「これって。ひどい」

 そう言って、俺を見上げる彼女の目にドキッとする。


 隣では、声は抑えているが、そこっとか、ああっとか聞こえていたが、最後は残すなよ。とかいう声で、静かになった。


 またガヤガヤと、奴らが出ていく。


「さて、どうするんだい?」

「どうするとは?」

「潰すんじゃないの? 幸雄君、目が怖いよ」

「そうか悪い。だが、怒りも湧かないもんだな」

「じゃあ、なにもしないのかい?」

 香村が嫌らしく笑う。


「冗談。捨てても、もう、心が痛まないという話だ」

「じゃあ、三箇所くらいに投げようか。一カ所だと潰されると面倒だから」

「分かった」

 にまっと笑うと、彩乃の方へ香村は向き直る。


「彩乃ちゃん。一人暮らしだよね。幸雄君をそうだな、二週間くらい泊めてくれる。彼、家に帰ると危険だから」

「えっ?」

「攫われるとか、殺されるカモよ」

 そう言われて、俺の方がビビってしまう。


「そんなに、やばいのか?」

「まあ、安全のためだね」


 そうして、香村は、なぜか嬉しそうに、手を振り帰っていった。


 ただ、仕事はしたらしく、翌日から嵐のようになり、大学は大騒ぎして、大量に人が消えた。

 そして、香村という学生も、橘 咲那と言う女性もいないことが分かった。


 あの食事会があった翌日。

 警察、マスコミ、大学へ同時に資料が届いた。


 組織図に関係者の一覧と役割。

 それに連なる組織。

 すべてが、曝された。


 香村は、きっと何かの調査組織か、奴らが存在しているとジャマな組織。

 善か悪かは分からないが、きっとやばい奴なのだろう。


 そして俺は、彩乃が入れてくれたコーヒーを飲みながら、スマホに着信したメッセージを見る。

「おまたせ。もう終わったよ。事情は考慮して貰ったけれど、授業に出ないと幸雄君留年だよ」

 そんなメッセージと、褒めて褒めてと乞うスタンプがやって来た。

 ご苦労という、兵隊さんが敬礼をしているメッセージを返す。


「もう。大丈夫みたいだ」

「じゃあ、荷物を持ってくる?」

「そうだな。それと、大学に行かないと留年するらしい」

「じゃあ。その…… 一緒に行きましょ」

 久しぶりに、変装用となっていた髭を剃り、彼女と二人。外へ出る。


 すると奴が居た。

「おひさ。協力ご苦労様でした。いやあ捜査をしていたら、君が邪魔で参ったよ。まあ、お幸せにね」

 奴はスーツだが、制服を着た人間が車でまって居る。


 スタンプは、兵隊さんじゃなく、警官だったか。

 その時強い風が吹き、その風は夏を感じさせた。


 どうせ偽名だろうが、橘 咲那さんのスカートは大きく翻ると、まるで空のようなブルーが目に映る。そして、珍しく素早い、彩乃の目隠しで、すべては闇へと消えた……



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お読みくださり、ありがとうございます。


すべて、フィクションでございます。

全部想像です。実際はどうだとか、全く知りません。

でわ。また。

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