素直だったから(結月と朝陽)

騙されて

 結月は朝陽と幼馴染み。

 結月は家が武道の道場を営んでいて、少し箱入りなところがある。


 近所に住む朝陽は、小さな頃に家の道場に通っていたが、小学校の五年生くらいにはやめてしまった。


 でも頭も良くて、基本的な身体能力も高かった。

 やめた理由は、私の方が背が高くなったから。

「この頃は、女の方が大きいが、すぐにおまえの方が大きくなるよ。やめるのはもったいない」

 三つ上のお兄ちゃんも、そう説得をしたが、やめてしまった。


 家は、お兄ちゃんがいたから、私は真面目に家業である武道をやっていなかった。

 朝陽はネットで、拾ってきた情報を教えてくれた。

 小さな頃から、あまり筋肉を付けると、背が伸びなくなるみたい。


 それでも家にはきて、勉強を教えてくれる。

 これは、家に通っていた頃からで、道場には入らなくても来てくれる。

 おかげで、私はお兄ちゃんより成績が良い。


「おまえの家族、武道ばかりで勉強嫌いだからなぁ」

「そうなのよ。この前お兄ちゃん。サンドバッグを殴り損ねて指を折ったのに、おじいちゃんたら、お味噌を付けてお医者さんに叱られたの」

「味噌って、火傷じゃ無かったか?」

 あきれたように、朝陽が答える。

 ※民間療法でアロエとか味噌、蜂蜜やめましょう。火傷はすぐに患部を冷やし病院へ。骨折は、添え木等で固定して、動かさないで病院へ。


 そして、朝陽は巧妙に嘘をつき、私を揶揄う。

 これに気がついたのは、中学校の三年生とか。

 いえ、高校生になってから、本当のことを知ったこともあった。


 子どもの時は、『結月。スイカの種を飲み込むと、おへそから芽が出るぞ』そう言って、私が種を取っている間に多く食べられた。

 他にも、『おねしょすると困るだろ。そのアイス食べてやる』とか。


 そうして、私に興味が出たのか膨らんできた胸とかが気になるらしく、見せろと言って強引に見られた。実のところ、恥ずかしかったけれど、私に興味を持ってくれたのが嬉しくて見せちゃったのだけれど。

 でも、私が逆に見せてと言っても、お医者さんじゃ無いし見ても分からないだろ。そう言って見せてくれなかった。

 その時から、単純な私はお医者さんになる為。勉強を始めた。

 朝陽とお医者さんごっこをする為。


 そして、中学生になると最初っから朝陽はモテた。

 焼き餅を焼いて、『どうしてあんな子と仲良くするの』そんな事を言ったときには、『悲しい事を言うなよ。おまえだって、俺が人に言われたから、おまえと仲良くできないって言われたら悲しいだろう』、そう言われて納得してしまった。


 他の子と、キスをしているのを見たときも、『おまえが好きだから失敗したくない。練習だよ練習』などと言っていた。でも私には、キスすると子どもが出来るとか言っていたよね。小学生の時には、好きと思って手を繋ぐと駄目とか。


 中学校の、三年生くらい頃からボロボロとスイカの種を食べたら芽が出るなどが嘘だったとわかり始めた。凄く恥ずかしかった。それに、サンタさんもいなかった。これは悲しかった。おじいちゃんが、夜中に部屋へ入ってきたのに気がつき戦闘状態になった。プレゼントを持ち、サンタの扮装をしたおじいちゃんだと気がついたのは、騒動に気がついたお父さん達が、電気を付けたから。


「あまり練習をしていない割には、強いな。これからも精進せい」

 そう言って、おじいちゃんは部屋を出て行く。


 それよりも、私は貰ったプレゼントを抱えて呆然としてしまった。

 サンタさんは、おじいちゃん。

 みんなの家に、これから配達に行くの?


 朝になってから、朝陽に朝電話をする。

「家のおじいちゃんが、サンタさんだった」

「そうか良かったな。家は親だ、きっちり希望のソフトはゲットした」

「えっ?? サンタさんだよ」

「そうだよ。まさかおまえ、まだ信じていたのか? 結月は相変わらずおバカだな」

「まだ信じていた? それって」

「サンタなんかいるわけないだろう。どこかの国には観光用の人がいるとか言っていたが」


 その年は、欲しかったプレゼントを抱えて呆然とした。

 そして、親にありがとうを良いに言ったら、『そうか、結月も気がついたか来年からは、苦労をしなくてすむ』そう言って笑われた。

 年々私の気配察知の能力が上がり、両親では私を起こさずにプレゼントを置く。その任務が遂行出来ずに、おじいちゃんにお願いしたようだ。


 高校になり、私は朝陽と付き合い始める。

 少なくとも、私はそう思っていた。

 好きだと言って貰い、体を重ねる。


 でも、朝陽は人気者。

 見た目も普通の私と違い、周りにクラスメートも多い。

 でも、好きだと言ってくれるし、『クラスに付き合っているのがばれると、おまえがいじめられるかもしれない。だから特定の相手はいない事にしている』そんな、配慮までしてくれている。でも私の心には、何か重い物が降り積もってくる。


 この頃には、勉強では朝陽に勝っていたけれど、一緒にいる。この子どもの頃から変わらない時間が楽しかった。

 そして気分次第で、抱いて貰う。

 この時は、確実に私の腕の中に居る。

 その安心感。

 私は幸せ。


 もう目的は達していたけれど、医学部に何とか滑り込む。

 そこから、六年。その後、研修医として二年勤め、専門研修を三年ほど掛けて取得したら、気がつけば三十歳。学生の時には結構会う時間が取れたが、この数年会えていない。

『医者か、頑張れよ。一人前になるまで? ああ待っておくよ』


 彼のその言葉を励みに、私は頑張った。

 久しぶりに、休暇を取って実家に帰る。


「おお、立派になったな」

 お父さん達が、喜んでくれる。

 おじいちゃんは、私が学部学生の時に亡くなってしまった。

 思えば、あの時が朝陽に会った最後? かしら。


 そして、衝撃の事実。

 彼は、待っておくと言った一年後には、余所の娘。見た事も聞いた事もない奴と結婚して余所にすんでいるらしい。

 子どもも二人いる?


 その時、ぷつりと何かが切れた。

 朝陽は、自由にさせちゃいけない。

 いい加減な事ばかり言うし。

「おい。結月大丈夫か?」

「何が?」

「顔。凄く嬉しそうな」

「そう?」


「おい。結月。何があったか知らんが、切れるなよ」

 結月の顔は、小学校三年生の時、じいさんが組み手の時、誤って結月の顔に肘を入れてしまい切れたときと同じ顔。

 家の血統。裏の顔が姿を現した。


「あの時、じいさん。結月にやられて肋骨折っていたよな」

「そうそう。精神的に成長するまで、修行をするなって言いだした時だな」

 家の血統にたまに現れる、修羅。相手を完膚なきまで破壊する。

 普段ぽやっとした結月だが、一番その傾向が強い。

 暗殺拳。家の裏に潜む顔。



「お久しぶり。元気だった?」

「久しぶりだな、結月」

「結婚したんだって?」

 そう言うと、朝陽の顔がばつの悪そうな顔になる。


「別に怒っちゃいないわよ」

 ……あきれているだけで。

 その顔をするという事は、悪いとは思っているのね。でも許さない。


「ねえ、久しぶりだから、食事にでも行って、その後お医者さんごっこしましょ」

 肩から提げた往診 バッグの中には、麻酔から始まり、手術道具も滅菌されパックされている。フルに活用して今の私を見せてあげる。昔あなたが見たがった様に、私のすべてを。


「ああそうか、じゃあちょっと、家に連絡をするよ。遅くなるからと」

「ええ、連絡は重要ね」

 

 その後、朝陽は行方不明になった。


「えっ、彼ですか? 食事の後、急いで店から出て行きましたよ。家に帰ったのじゃないですか?」

 そう私たちの家へ。


 尋ねてきた、警察官にそう答える。

 二人は、納得して帰ってくれた。


 


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 ううむ。騙されたで浮かんだのがサンタだった。全くもって時季外れ。

 巧妙に隠したので、中学生くらいまで子どもは信じていたはず。

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