第4話 進路と人生の苦悩

「と、言うわけで、とりあえず二週間。先生方からは、安易に暴力での解決に頼り過ぎると厳しい意見があった。でもどちらも、未然に被害を防いだのは確か。その辺りで何とかしていただいた。次は、問答無用で退学だ。三年生のこの時期に。くれぐれも馬鹿なことをするな」

「はーい。すみませんでした」


 と言うことで、淳は停学2週間。

 自宅学習で、夏休みが延びたと喜んでいたが、明けて即。期末試験がある。

「良いさ。伏実のご両親から了解も得て、毎日勉強を見てくれる様だし」

「そのかわり、ジムを首になったじゃないか」

「あーそれな。すまんな」

 まあ理由は、学校と同じ。

 元々、プロになる気は無かったから、あっけなかった。


 何とか、停学をこなし、反省文は五回ほど書き直したが、通ったようだ。

 

 その後は、夏祭りにも行ったし、受験も何とかなったが、淳は全滅し、調理の専門学校に通うことになった。

 停学が、響いたのじゃないかと噂だ。


 おやっさんは、調理の専門学校と言うことで、ちょっと怒っていたが、ある程度好きにしたら、戻ってくるだろうと腹をくくったようだ。


 そこから、横並びで部屋を借りる生活が始まった。

 まあ完全な横並びは無理だが、気分的に。

 同じマンションに住みだした。

 全員が、学生のうちは、子どもを作るなと釘を刺された。


 まあ、気は付けるが、羽目は外しやることはやる。


 そのうち、試食という名の淳の失敗作が、俺たちの晩ご飯の定番となる。


 最初のうちは、ひどかったが、やはり人間進歩をする。

 ある日を境に、劇的に味が変わる。

「どうしたんだ? 急に美味くなったぞ」

「凄いだろう。うまくいかない俺に、同級生がアドバイスをくれたんだ」

「なんだ、その画期的な助言は?」

「それがな、作っている途中で味見をした」


「…………」


 全員が固まる。

「だってさぁ、この材料なら、味付けはこの分量って書いてあるんだよ。普通は味見なんかしないだろ?」

「「「するよ!!」」」


 まあそういうことで、美味くなった料理のおかげで、真途花と伏実も習いながら、夕飯作成チームができあがった。

 そのかわり、俺たちも淳の生活サポートを始めた。


 そんなこんなで、2年が過ぎ。

 淳は、一足先に卒業。

 学校から紹介された、日本食の店から始まり、転々と店を渡り歩く。

 時には、繁忙期の温泉宿への、ヘルプとか行っていた。


 着替えなどの、荷運びをかねて、泊まりに行ったりしたこともある。


 そして、その時。


 都合がつかなくて、俺たちは行けず。

 伏実ちゃんだけが、淳の元へと向かった。

 そして、その途中。


 高速バスが、事故を起こす。


 その後は、みんながバタバタして、よく覚えていない。

 ただ葬儀や、淳が『俺が呼んだせいだ』そう言って自身を責め、それをなだめることに奔走した。


 その後、一応仕事に復帰をしたが、あまり集中できない様子で、仕事も首になる。


 その後、三ヶ月ほど居なくなり。

 心配していると、帰ってくる。


 そんなことを、繰り返していた。


 後で、話を聞くと、四国で歩き遍路をしていたそうだ。


 普通なら、三十日から五十日掛かるが、それくらいで終わる。

 ところが淳は、行く先々で人と出会い、お世話したり、してもらったり。


 そこで言われた言葉で、助けられたと笑っていた。

 『今までが不幸でも、これからその分。幸せになれば良い。禍福糾纆(かふくきゅうぼく)。禍福(かふく)は糾(あざな)える縄(なわ)の如(ごと)しさ』そう言って、「同じく事故で家族を亡くして、供養のために遍路を回っている人から、教えて貰ったよ」そう教えてくれた。


 そこからは、元気で仕事にも復活した。

 心配して、淳に帰ってきて、仕事を手伝えと言っていたが、元気そうな姿を見て、言うことをやめたようだ。


 その後俺たちも、就職し、晴れて会社員。


 淳はまだ、彼女は作る気は無いようだが、ちょくちょく女の子は部屋に出入りしている。

「また淳君の所。違う子が来てたわよ」

 報告をしてくるのは、もちろん真途花。

 伏実ちゃんが亡くなってから、掃除や洗濯を見ているようだ。


 この前土曜日に、仕事が休みの為、淳の部屋に行き。洗濯しようとしたら、女の子の、服から下着まで一セットそろっていた。

 まだ居るんだとわかり。あわてて、帰ってきたらしい。


「今度からは、玄関で靴を確認する」

 そう言って笑っていたが。

「痴話げんかに巻き込まれて、怪我はするな」

 一応、注意はしておく。


 そして、俺たちは、仕事をしだして一年後結婚をする。

 周りよりは少し早いが、両家の親がせかすためだ。

「子どもを作るなと言っていたのは、学生だからだ。社会人になったのなら早く作れ」とまあ随分な言いようだが、それに従った。


 結婚前には、別々に飲み会を開催する。

 俺の連れ、男子会と、真途花の開催する。女子会。


 その後から、真途花の元気が無く、理由を聞く。

 すると、女子会で淳の話が出て、実は中学校の時に出遅れたと嘆いていたこと。

『淳くんは、真途花の事が好きだと気がついたときには、横に楠田君がいたから諦めたのよ』そんな情報を貰ったようだ。

 無論。真途花もそれは知っている。

 俺と二人。すまんなと言ったことがある。

 だがそれは、遠い昔。中学の時のこと。


 結婚前で、すこしマリッジブルーになっていたのかもしれないが、気になったようだ。

「もし…… 」

 そう言いかけた、真途花の口を塞ぐ。

「ごめんな。そうなっていたら、真途花が、事故に遭っていたかもしれない。そうなっていたら俺は耐えられない」

「あーうん。ごめんなさい」

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