第16話 風呂、日本人の執念
「ダメじゃ。元の所に戻してくるのじゃ」
だから捨て猫かよ
エッダも同行してエルフの里まで帰ってきた。
勇者とはいえレベルはそんなに高くないのか
徒歩以外の移動が無いようなのだ。
はやく馬車や気球を入手出来るイベントがあるといいね。
野宿で問題無いと彼女は言ったが
今しがた襲撃さればかりだろうに・・・。
俺は半ば強引にパーティーに引き入れた。
里までの道中で知りたい情報は入手できたが
はい、さようならというワケにもいくまい。
なにより俺自身が名残惜しかった
やっと出会えた「まともな人」だ。
まぁ真の姿を晒せばこう親しくはしてくれないのだろうが
ちょっとの期間ならいいだろう。
騙そう。
そんなこちらの状況を聞く気も無い
このバカ女神は偉そうにふんぞり返っているのだ。
「なんでヌシは単独行動に出ると何かしら
拾って帰ってくるのだ・・・悪いクセじゃぞ」
説教を垂れ始めた。
・・・たまには逆襲をするか。
「そうだな。済まなかった」
俺は頭を下げるとキッパリと言い放つ。
「全部、元の所に戻して来るよ」
ウンウンと満足気に頷くバカ女神。
「そういうワケでヴィータ」
「なんじゃ」
「まずは一番最初に拾ったお前からだ」
「あっ!」
「あの洞窟に放り込んでやる!来い」
里の入り口で一通りの寸劇をやった後、夕飯になる。
エルフの里では家族という単位が無いので
全員分を数名の調理担当が一気に作り
見張りやパトロール以外の手の空いている者は
一斉に食事になる。
メシで思い出した。
俺は背中のエルフ製リユックっぽい物からブツを取り出し
調理担当の一人「タムラ」さんの所まで行く。
ブツは岩塩だ。丁度、岩山に行った時に
発見し「塩が足りない」と言っていたのを
思い出し持って帰ってきたのだ。
タムラさんは大層喜んでくれた。
なんでも塩が無いと戦力に影響するそうで
本当に困っていたようだ。
糖分などと違い、植物から採取出来ない
入手は苦労するのだろう。
昼、長と話した時に塩が欲しい物リストに無かった。
やはり、どんな組織でも上と下では意見が違う
偉い人に聞くだけでは全てを把握する事は出来ない。
夕飯に出てきたフルーツの蜂蜜漬けは
本来なら保存食なのだが、俺たちの強い要望
(女子の)で出てきた。
ヴィータもプリプラも、そしてエッダちゃんも
目の色を変えて食いまくっていた。
早目に食べ終えると俺は単独行動に移る。
「里前の広場に居るから」とハンスに伝え席を立った。
実はもう我慢の限界に来ている事がある。
それを何とかするのだ。
日本人なら誰でも世界の何処に行ったとしても
コレ無しでは長くは生きられない。
風呂だ
もう入って無くて三日目だ。
限界だ俺は風呂に入る。
川での水浴びとか、頭おかしいんじゃねぇの
細菌だらけだろキレイになった気がしない
エルフは火を禁忌としている。
里の中はもちろん直下の広場に作るワケにはいかない
人目に付かない変身場所が丁度良く条件を満たしてくれた。
万が一全焼しても里まで延焼しない事。
それでいて里から近く、人目に付きにくい場所
今日の昼の時間、実は戦闘や交渉よりも
露天風呂作成に使った時間の方が多い。
まず地下室を掘り、岩を鉛でハンダ付けし
壁や支柱にしていく
そこから近くの川まで蒸着応用で作り出した
真鉄のパイプを給水用と排水用の二本通す。
給水側には貯水曹を設け、小石・砂・炭などで浄水する。
壁と同じ要領で床を作成
一番大きな一枚岩を削り出し浴槽とする。
周囲をお城の石垣風に適当に岩積み上げ目隠しにした。
ここまでは事前に出来ていたので
後は浴槽に貯めた水に小出し悪魔光線を照射し
40度程度まで加熱してやる。
出来た。
早速、衣服を脱ぐと、かけ湯をし
俺一人だからしなくても良かったかもだが
しないと気分が悪い、もうマナーというより
儀式なのだな。
お待ちかねの入浴だ。
「うぅぅぃいいいいいいいっ」
謎の掛け声を発しながら浴槽に入る。
もうちょい熱い方がイイか
半人化して入浴しながら悪魔光線を照射
ジョワッジョワッ
着弾した箇所が瞬間沸騰する。
そうしてから人化する。
「うむ、いい湯だ」
湯に浸かりながら昼の一件を自分の中でまとめてみた。
エッダの到着は俺達が対ベアーマン戦勝会してた辺り
その時に聖騎士団と大司教とすれ違いになった。
ヨハンが保護されたたのはその前、ハンスと出発した辺りか
それからエッダの到着までの間に洞窟は崩落した事になる。
仮定1
俺の居た降臨は囮で他に本命があった。
エッダが遭遇したのは本命の方。
仮定2
悪魔軍団が俺の様に人化し偽装している。
うーん
ヴィータが本物の女神なのは間違い無い。
やはり仮定2の線が濃厚か
どっちにしろヴィータは悪魔に襲撃される。
明日には出発しよう。
相手が悪魔軍団では
ベアーマンと違い余裕の勝利とはいかない
敗北も十分有りうる。
後、早目に聖都に偽装の一件を・・・・
うん?
なんで神側の思考なんだ
ダークエルフに会う為にも
いやいや
それ関係無しに
俺は悪魔サイドだろ
襲撃に合わせて味方の方に戻れないものだろうか
「んー今夜殺されるかもしれないし
今日の話の後で決めればいいかー」
ヴィータが出がけに言った。
「寝る前に部屋まで来い」
その時が俺の最後かもしれない。
半人化しておけば良かったのだろうが
それだと風呂の気持ちよさは味わえない
完全人化状態の俺は接近者にまるで気が付かなかった。
「ナニを独りでコソコソとやっとるのかと思えば」
「ちょヤダースッゴーイ温泉が出来てるー」
「エルフには入浴の習慣が無いはずなのに離れにテルマエが」
見つかった
女子軍団だ
どうせあいつらは
製作者の俺に感謝も無く
自分達だけの為に俺を追い出すのだろう
そして案の定追い出された。
フリチンのまま放り出され
着替えが投げつけられ
「覗いたら殺す」と言われた。
俺はカジノで全てを失った男の様な状態で
里へトボトボと帰る。
パンツを履きながら悪魔サイドへ帰還すると
俺は誓った。
思いっきり風呂上り状態で上気した俺は
タオルで頭をガシガシしながら里に戻った。
見張りエルフは、なんかスゴイ表情してた
もしかして風呂も禁忌なのか。
「アモンさん、まるで風呂上りの様ですね」
俺を見つけたハンスが不思議な事を言った。
「まるで、じゃなくて風呂上りだよ」
他にこんな状態になる方法は無いだろう。
「風呂があるのですか!?」
珍しく興奮気味だ。
落ち着けハンス君。
「今日作ったんだ。今は女子連に占拠され
俺は楽園を追われた」
「作った?今日?」
本当ならコーヒー牛乳が良かったんだが
どっちも存在していないので、今日の所は
柑橘系の果汁に蜂蜜を混ぜた飲料で俺は喉を潤す。
「あぁ、俺に騙された事にしてハンス君
今乱入してきてもいいぞ」
殺されるがな。
「・・・いえ、女性が終わってから
是非あずかりたいです」
「今・・・ちょっと悩んだなハンス君」
修行が足りんようだな。
「いいえ。そのような事は」
しどろもどろだ。
面白い。
「それよりもヨハン様を入浴させて
あげてもよろしいでしょうか」
なんでも無類のテルマエ好きなんだそうだ
自分が入るよりも床に伏せっている者を
気遣うとは偉いじゃないか。
さすがハンス聖職者。
どうやってエッダちゃんの裸を覗こうか
考えていた俺とは大違いだ。
さすがオレは生殖者。
「そう言う事なら・・・。」
俺はそこいら辺の材料を勝手に使い。
担架をこしらえた。
本来なら布床になる部分は帯を網目上に組んだ。
風呂用D型装備と名付けよう。
「サンダルの時といい。アモンさんは本当に器用だ」
やたら感心するハンス。
日曜大工はしないタイプだな
やる奴から見ればやっつけ仕事もいい所の作品ばかりなので
あんまりじっくり見ないで欲しい。
「さてハンス君、ヨハン様を担ぎ上げようか」
まだ乗せていないのに担架を広げ
前衛オレ、後衛ハンスでヨハンの病室に向かう俺達。
すれ違うどのエルフ達も不思議そうに俺たちを見ていく。
「何事ですか」
ヨハン部屋前に詰めている護衛が俺たちが
何がしたいのか全く想像が付かない様子だ。
事情を説明すると怪訝そうになった。
「里にテルマエはありませんよ」
「今日、俺が作った」
「ハイ↑?」
「いいからそこをどけ、それともお前を
倒していけばいいのか」
信じていないのか
二人いた護衛の内一人はその場を離れた。
長に報告するのであろう。
もう一人は俺達に着いてくるそうだ。
手伝えよな。
部屋に入るとハンスは興奮気味に
ヨハンに事情を説明する。
話を聞いたヨハンの顔は見る見る上気していき
怪我人や病人の表情では無くなっていく。
「テルマエだと?!本当なのか」
「あぁ、お前が好きだとハンス君から
聞いてな。今日、拵えた」
嘘です。
自分の事しか考えてません。
怒られそうになった場合の保険的な
理由に活用させてもらうぞヨハン。
蔦ではなく、篭使ったクレーン式の
エレベータで下まで降りた。
長の知り合いだからなのか
単純に病人に優しいのか
エルフ達は快く協力してくれた。
向かう途中でプリプラとすれ違う
「アモンー」
「どうしたプリプラ、ヘロヘロだぞ」
「エルフの体には風呂無理ー、あっというまに
のぼせちゃうよ」
やっぱり植物に近いからなのか、お湯はダメらしい
折角作った設備だが無駄に終わりそうだ。
「水は溜められないのですか」
護衛のエルフが聞いてきた。
水浴びはするらしい。
「出来ますよ。わざわざ沸かさない分、
むしろ、そっちの方が楽です」
悪魔光線で沸かしていたので
俺が去ると逆にお湯にする方が大変だ。
ボイラーは面倒だっので作らなかったのだが
反って良か・・・。
いや
想定通り
石垣前まで到着すると丁度残りの二人も
出てくるところだった。
くっ
エッダちゃんの裸は見れずじまいだった。
護衛のエルフは設備を見ると、驚くというか
呆れるというか微妙な反応だった。
水の給排水の仕組み・操作方法を説明すると
「これを一日で・・・これだから人族は」
自然に出来るだけ手を加えないのがエルフらしい
人の行う自然環境への介入は彼らにしてみれば
やはり悪行なのか。
問題なら退去する時、元通りにするからと
軽く言っておく。
そんな気分を軽く払拭したのはヨハンだった。
ヨハンは涙ながらに入浴を喜んでくれた。
介護職に就いている人はこういうのを
働く喜びにしているのだろうか。
大変だが、悪くないと感じた。
仕事は
他の人の役に立っているかどうかだ
必要とされ
役を果たしていれば、
どんな仕事でも立派な仕事だ。
俺はそう思っている。
そんなつもりは無かったのだが
今日、俺は仕事成した。
出展
塩タムラ:Fガンダム、HBの調理担当。何故か様々な作品でリスペクトされている。
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