第131話 交流会
大きめのテーブルを、合計七人が囲んでいた。
白雪の隣は美雪。その隣に孝之。
そして白雪の正面は、和樹で、その隣に奈津美、逆の隣は年配の教授。さらにその隣にもう一人。
「さて、では改めて自己紹介を……」
「それは教授からすべきでは」
「ふむ、そうだな。では私から。情報学部の教授を務めている、
そう名乗った大藤教授は、おそらく海外のブランド物と思われるスーツをビシッと着こなしていて、いかにも紳士然とした男性だった。
少し白いものが混じった頭髪は、きれいに撫でつけられていて、まさに『ロマンスグレー』というものを体現している気がする。
「次は順当にいけば、月下君かな」
「はいはい……月下和樹だ。この中では唯一学生ではなくて、扱いは大学の臨時職員……に六月からなる予定だ」
どやらそこから年齢順という扱いになったらしい。
「
「
「はい、お久しぶりです。あの時はどうもありがとうございました」
「え。白雪ちゃんここの学祭来てたんだ」
美雪が驚いたように声を上げる。
「はい。去年に。その時に皆さんにはお会いしましたし……大藤教授は、私の面接試験の担当……でしたよね?」
すると教授はにっこりと笑って頷いた。
「そうだね。君のことはよく覚えている。論文の内容も実に見事だった。今後も期待してるよ」
「あ、ありがとうございます」
自分でもよくできたと思っていたとはいえ、このように直接評価されると、さすがに恐縮するしかない。
「じゃ、今度は私ですね。春日美雪です。今日、情報学部に入学しました」
「同じく、情報学部の玖条白雪です。皆さんとは、初対面ではありませんが」
そう言ってから、二人は孝之に視線を送る。
戸惑い気味だった孝之だが、一度ため息を吐くと、顔を上げた。
「法学部一年、斎宮院孝之です。直接関わることはあまりないかもしれませんが、よろしくお願いします」
「うむ。新入生代表挨拶は見事だった」
「あ、ど、どうも……」
大藤教授は当然、入学式には参列していたのだろう。
孝之が恐縮しきったようになっているのが、面白い。
「しかし……いいなぁ、今年の新入生。こんな美人が二人もいるのかよ」
「来宮君。あとであかねちゃんに報告するわよ?」
「倉持先輩、それは勘弁っ」
その言葉で、去年の学祭での出来事を思い出した。
そういえば、同学年に付き合ってる女性がいたはずだ。
「まあそれはともかく……月下君の知り合いというのは、玖条君かね?」
「ええ。残り二人は私も初対面ですが、し……玖条さんの中学時代の同級生だそうです」
二人が同時に和樹に会釈する。
同時に、美雪が白雪を見た。
これは絶対、あとで問い詰めてくることは確実だろう。
「まあ、今日大学に入ったばかりの君たちだ。わからないことなら何でも聞いてくれ、と言いたいが、そもそも分からないことが分からないな」
そういうと、大藤教授は楽しそうに笑う。
ただ、確かに言われた通りで、何か質問しろと言われても何を聞くのかすらわからない。
「まあ、それよりせっかくの食事が冷めるな。さて、食べるとしよう」
学食は当然セルフサービス。
白雪たち新入生三人は本当に教授が奢ってくれたが、そもそも値段の安さは驚愕するレベルだ。
自分で作っても、材料費だけでオーバーすると思える。
ちなみに白雪はチキンソテー定食、美雪はハンバーグステーキ定食、孝之はかつ丼である。
「え、美味しい、ホントに」
「美味しいな、本当に。学食だと思ってたけど、普通の店と変わらない」
「お二人は受験の時は食べなかったのですか?」
白雪は試験の時は学食を利用しているのでよく覚えている。
「うん。弁当持たされたし、実際学食混んでると思ってからね。まさかこんな広いとは知らなかった」
「そういえば、お二人は……あ、でも受験日は違いますよね」
「うん。ま、どうせだから一緒に来たけどね」
「お二人はただ中学が玖条さんと同じというわけではないのですか?」
奈津美が不思議そうに聞いてきた。
これに関しては和樹も同意見のようだ。
考えてみたら、美雪と孝之の関係を、白雪以外が知るはずはない。
「えっと……」
言っていいものかどうか迷って、白雪は二人を見ると、孝之が小さく首を横に振った。実際、初対面の人相手にそういう関係を話すのは気恥ずかしいというのはよくわかるので、白雪が小さく頷く。
「私と孝君……斎宮院君は、許嫁なんです」
それを全く気にしない美雪が、あっさりと暴露していた。
横で孝之が「美雪!」と咎めるが、美雪は「なんで?」という表情だ。
そして暴露された方は――和樹を含めて驚いている。
「い、許嫁?」
「今時、学生でそんな人、いるんだ……」
渡と奈津美は文字通り唖然としている。
「まあ……あるところにはあるだろうしな」
「ふむ。今時では珍しいが、昔はよくあったと聞くからな」
和樹と大藤教授はそこまで意外とは思ってないようだ。
特に和樹の場合、友哉と沙月という例が身近にあるというのはあるのだろう。
「で、月下君と玖条君はどういう知り合いなんだね?」
「家庭教師と教え子、ですよね。先輩」
白雪や和樹が答える前に、奈津美が答えていた。
そういえば、彼女にはかつてそう説明している。
ただ、奈津美がそれを知ってるのに、和樹はやや驚いているようだが。
「そうなのか」
「ええ。情報関連で、まあ」
「なるほど。月下君の薫陶を受けた学生というわけだ。これは期待したくなる」
「ご、ご期待に沿えるよう頑張ります……」
さすがに、和樹ほどの期待をされても困る。
そうしてる間に食事は終わっていた。
「さて、私は研究室に戻るが……月下君はこれで帰るのかな」
「はい。まだ今の仕事の残件整理がありますし。予定通り、六月からでお願いします」
「うむ。じゃあ倉持君、来宮君は戻ろうか」
「あ、はい……あの、先輩」
「ん?」
奈津美が和樹を呼び止めた。和樹は下げようとしたトレイを持ったまま振り返る。
「また一緒に研究できるの、すごく嬉しいです。また色々、教えてください」
「俺も研究から離れて四年だからな。もう倉持の方が詳しい分野もあると思うが……まあ、よろしく頼む」
「はいっ」
白雪はその奈津美の顔を見て――複雑な思いになるのは、否めない。
その間に、大藤教授ら三人は去っていった。
「どうした?」
多分感情が顔に出ていたのか、和樹が心配そうに声をかけてきた。
「あ、いえ。何でもないです。今日はもう終わりですか?」
「ああ。なので帰るが……」
「じゃあ一緒に帰ります」
「あれ。二人って帰る方向同じなの?」
うっかりしていた。
ここには美雪らがまだいたのだ。
「えっと……そ、そうですね。近所なので」
「ああ、家庭教師してもらってたって言ってたっけ。ちなみに家ってどの辺?」
「えっと……」
白雪がざっくりとした場所を説明する。
あの辺りはマンションが多いので、それだけで特定される心配はない。
だが、美雪が驚いた顔になっていた。
「それ、多分めっちゃ近いよ。じゃ、一緒に帰ろ? 孝君もいいよね?」
「ああ……まあ、問題ないが」
「え。えっと……え」
問題はこっちにありすぎる。
これに関しては和樹もやや困惑気味だった。
とりあえず食堂を出るが、解決策が全く思いつかない。
「和樹さん……ど、どうしましょう」
「まあ、素直に言うしかないんじゃないか? 白雪の友人なんだろう?」
「それは……そうですが」
すでにいろいろ知られてしまっていた雪奈や佳織に話すのとは、またわけが違う。
とはいえ、本当に家が近いなら、遠からず露見するだろう。
となれば、隠す意味はあまりない。
とりあえずどうしたものかと悩みながら、白雪は帰路に就くべく、バスターミナルへの向かっていくのだった。
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