彼女欲しい彼女欲しいと思っていたら、トップレベルの美女たちと仲が良くなり始めた

空翔 / akito

第1話 大学は人生の夏休み……そんなわけないだろ!

 古びたアパートの一室。


 外は既に真っ暗で、頼りになる明かりは目の前のテレビが放つ光だけ。


 俺はソファに座りながら、持っていた缶チューハイを口に近づけて、ごくんと一口飲み込む。


「ははっ! この子面白い!」


 横からそんな明るい声が聞こえた。

 ひょいと横目でそちらを見る。


 ……やっぱり信じられない。


 俺の横に座っているのは、俺が通う大学内でも屈指の美女と称される一つ上の先輩だった。


 ☆☆


 ……はぁ。


 黒板以外はほぼ白色で統一されている部屋の中で俺、吉田悠馬は興味のない授業を受けながら胸中で溜息を零す。


『大学は人生の夏休み』


 一体全体誰だ。そんなデマを言ったのは。


 中高一貫の男子校に通い女子とは無縁だった俺も、良い大学に入れば、ルックスにそこまで自信がなくても容易く彼女くらい出来るだろうと思っていた。


 そんな考えの元、一浪を経て俺は北海道内でもトップの偏差値を誇る"北海道帝国大学"に入学した。


 しかし時は二年生になって数週間。


 ……あれ?


 彼女はおろか友人も一人くらいしか出来ていない。


 ここでもう一度考えてみる。


『大学は人生の夏休み』


 そんなわけないだろ! 毎週毎週レポートやら課題に追われ何とか留年を回避。

 束の間の自由時間もバイトでびっしり。


 これではただのサバイバル生活ではないか。


「――はい。今週の授業はここまでです」


 胸中で愚痴をついていると、本日最後の授業が終了した。


「終ったぞ一樹かずき


 俺は隣で寝ていた男子に声をかける。


「……んぅ」


 ゆっくりと身体を起こしながら目をこするのは、現在の俺にとって唯一と言っても過言ではない友人である周防すおう一樹だ。

 緑色のツンツンヘアが特徴的である。


「俺今日これで授業全部終わったけど、一樹は?」

「全学の授業一つあるわ」


 全学……通称"全学教育科目"。


 俺の通う大学はいわゆる総合大学というやつで、色々な学部学科が存在するのだが、一年生の時は皆所定の授業を受ける。

 それが全学教育科目だ。


 俺は一年生の時に、自身が所属する学部が求める単位を全て獲得出来たのだが、一樹はいくつか落としたらしく、二年生になった今でも一年生と共に同じ授業を受けている。


「めんど。まあ頑張れー」

「おーう」


 両者気持ちの籠っていない言葉を交え、俺は先に保健学科棟を後にした。


 帰るためにキャンパス内を歩いていると、時折カップルと思わしき男女とすれ違う。


 リア充爆発しろ!


 ☆☆


「うぁぁぁ。疲れたぁ」


 バイトを終え帰宅し、風呂も入り終えた俺は勢いよくソファに腰を下ろす。


 俺は元々札幌やその周辺に住んでいたわけではない。


 だから大学生の間は一人暮らしだ。


 今はキャンパスから二十分ほど歩いたところに位置する古びたアパートの一室に住んでいる。


 そんな友人も彼女もゼロに近しく、ワンルームにて生きている俺が最近ハマっているいること。

 それは酒だ。


 目の前のテーブルには先ほど買ってきた、略称"スト缶"の500ml五本とおつまみが入ったビニール袋がある。


 本来なら大学二年生で二十歳を迎える人の方が多いだろう。


 しかし俺は一浪のために、去年二十歳になった。


 合法的にお酒を買えるようになった俺にとって、酒は至高のアイテムと化している。

 初めて酒を呑んだ時思った。


 なんだこの魔剤はと。


 目の周りがほわほわとしてきたかと思えば、普段は笑えないようなテレビ番組でももの凄く面白く感じる。

 感受性もバグっているのか、少し感動しただけで号泣。


 刹那、俺は確信した。


 酒……これこそが俺の人生を色鮮やかに染めてくれるものなのだと。


 ……とは言っても。


「やっぱり彼女欲しいなぁ……」


 天井を仰ぎながらボソッと呟く。


 そんなことをしていても意味がないと一瞬で悟った俺は、早速呑みにかかるのだった。


 ☆☆


 一時間とちょっとくらいが経過しただろうか。


 外は完全に日が暮れて、部屋の明かりはテレビからの照明だけ。


「フハハハハッ! 絶対それはねえだろ!」


 部屋に響き渡るのは俺の気持ち悪い大爆笑。

 普段なら笑わないようなシーンだが、今の俺にとっては違う。


 ちなみに今視聴しているのはアニメだ。


 二次元なんてオタクとかいう気持ち悪い人種が観るものだと、高校生くらいまではそんな偏見を抱いていたが、今ではすっかり酒のお供になっている。


「あれ。もうなくなった……」


 三本目のスト缶が空になっていることに気づいた俺は、四本目を手に取り開けようとする。


 ガチャンガチャン!


 刹那、部屋のドアが荒い物音を立てる。


 なんだ?


 普通ならビクッとか驚いたりする場面だろうが、今の俺は危機察知能力が低下しているからか、ただ何だろうと思うだけだった。


 一応確認だけはしておこうと、玄関前まで行き、ドアを開いた。


 ……あれ。何もない。もしかして幽霊とか……。


 しかし足元を見た途端、脳に衝撃が走る。


「ひ、姫野先輩!?」


 高身長でスラっとした立派な体型。長くて艶のある銀色の髪は後頭部で大きく一つに結ばれている。顔は言わずもがな美人だ。

 そんな先輩は床で寝ていたのだが、俺の声に反応したのか、パッと目を開けると俺の顔を数秒見つめる。


「……拓真だ! どうしてここにいるのー?」


 いや俺は拓真じゃなくて悠馬だけど。


 そう言いながら、先輩は立ち上がったかと思えば、勢いよく俺に抱き着いてきた。


「ちょ! 先輩!?」


 多量の酒を呑んできたのか、先輩の口からは酒臭い匂いがする。まあ、それを掻き消すくらいの良い匂いが身体全体からするんだけど。

 

 俺に抱き着いて数秒。先輩は今度こそ力尽きたといった様子で俺から崩れ落ちそうになる。


 寸前のところで先輩の身体を支えた。


 ど、どうするべきなの? 俺。


 考えても答えは出そうにない。


 ひとまず先輩を担いで、俺が寝ているベッドに運んだ。



 追記

 読んでいただきありがとうございます! 

 ☆の方お願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る