15.

俺は、ふたりの顔を見て、どちらを信じるべきか迷った。


どうすればいい? 何が正しい選択なんだ!?

答えを決めかねていると――、


大和は、目を閉じ、大きく息をした。

そして、目を開くと同時に、瞳の色が変わった。


――狂気のオーラだ!

それは、ファザー・サンと対峙した時に見せた、異様な雰囲気。


(まさか、これが、大和の本当の姿なのか? )


しかし、ファザーには、動揺した様子はなかった。


それどころか、微笑みを浮かべたのだ。

「どうやら、正体を現す気になったようね」


「うっさい!ぜんぶ、アンタのせいじゃんかっ!」


ファザーのセリフに、大和の怒声が重なる。

これは、間違いなく、本来の性格なのだ。


「アタシが、どんなに苦労したと思ってんのっ!!」

そう言うと、大和は自分の胸元を押さえた。


「親が、教団にのめり込んでから、ずっと独りぼっちだった! 寂しかった、悔しかった。子どもよりも教団を選んだ最低のクズ親を恨んだつーの。なのに、あいつらはアタシの両親を簡単に切り捨てやがった。アンタが地位も名誉も分捕りやがった。それが悔しくて、憎んで、絶対に復讐してやろうと思ったんだよっ!」

激しい憎悪の念で、語尾が震えていた。


「アンタさえ 現れなきゃ、すべて上手くいったのに」

憎しみの眼差しを向ける大和に対して、ファザーが冷静に尋ねる。


「あらそう。…ところで、早妃ちゃんを殺したのは、貴女なのかしら?」


その問いかけに、真琴の眉が小さく動いた。


「そうじゃねーし!」大和が否定の言葉を口にした。

そして、小さく唇の端を持ち上げた。


「早妃をヤッたのは、颯太(※1)だし!」


――俺は思わず息を飲んだ。


「嘘だろ!?」 アイツに、そんな度胸があるわけない。

「本当だし」と大和が答えた。


「なんで…だよ……」教団で見た颯太の姿が 浮かぶ。

(まさか、本当に……)お前が殺したのか?


「さっきも言ったっしょ。この女を破滅させるために――」

「そんなこと、信じられるかよ!」俺の親友だ。人を殺すようなヤツじゃない!


「信じる信じないは、勝手だし。でも、この女は言ってた。早妃と朔也がいなければ、扉は開かないって。だから、教団の闇バイトを装って殺させてやったじゃんっ!」


「あら? そんなこと言ったかしら?」ファザーから愉悦の笑みがこぼれる。

「ああ、そうだよ! アンタ、確かに言ったっしょ!」


「覚えてないわね」


「ああっ! ムカつく! このクソアマっ! ぶっ殺してやる!」

大和は、俺が握っている手を振り解くと、ファザーへと向かっていく。


「待ってください!ダメです! 大和さん!」

真琴が制止すると、彼女は立ち止まった。


「止めるなし! アンタも、この女の味方すんの?」

「違います! ただ…、……おかしいとは思いませんか?」

「はぁ? なにそれ」


大和が真琴にも憎悪をぶつけてる。

アドレナリンが激しく、理性を保つのが難しい状態だろう。

彩花も愛生も怯えていた。


それでも、真琴は 大和と 対話をしようと試みている。

「彩花さんも愛生さんも聞いてください」


「「………………」」


「私たちは、私たちの望みを叶えて貰うために、ファザー様に協力を申し出ました。彩花さんは、全く人気の出なかった推しキャラの『テリス伯爵』のフィギュア化を。愛生さんは、亡くなった愛犬の蘇生を。大和さんは、おそらく、精神が病んでしまった御両親をもとに戻して貰うためではないでしょうか?」


「ち、ちげーし…」


「そうですか。ですが、初めは協力していたではないですか。いったい何があったのですか?」


「アタシは、幸せだった『あの頃』に時間を戻してもらうつもりだったし。でも、アイツは『そんな事になんの価値がある?』って否定しやがった。テメェーが壊しておいた家族を否定しやがったんだ!」


大和がファザーを ギリリと 睨みつける。憎悪が、さらに 膨らむ。

それでも、ファザーは 涼しい顔をしてやがる。


「ファザー様は、どうして 朔也が特別なチカラを持っていると知ったのでしょうか? どうして、あの扉を開けるには朔也と早妃が必要だと気づいたのでしょうか?」

真琴が、ちょっと考えれば、辿り着きそうな疑問をファザーにぶつける。


「さぁ? そんな気がしたから……と言えば、信じてもらえるかしら」

ファザーは、今にでも鼻歌がはじまりそうなくらい上機嫌だった。


「おかしいですよ。ここは、ゲームの世界でもなければ、小説の中でもないのですよ。もし、バグなんてものが発生しているとすれば、それはもう、ここが現実世界ではないということになります。それに、なぜ私たちはこの扉に執着しているのでしょうか? 私には、それがどうしても分からないのです」


――言われてみれば、たしかに、そうだ。

俺も、この扉を前にしていると、現実では絶対にありえないような発想が次々に浮かんできて、真相にたどり着いた かのような高揚感を味わってしまった。


「ファザー様、お答えください。この黄金ゲヘナの扉とは、いったい何なのですか?」


「ほーっほっほっほっ。まるで 名探偵 気取りね、真琴ちゃんは。でも、答えを私に訊くのは ナンセンスよ。自分の足を使って調べてこそ――」

「こいつ、ホントは 自分も答えを知らないパターンなんじゃないのか?」


饒舌じょうぜつに話しているファザーに、俺は揚げ足をとってみた。


「カッチーン、よ。これ、すっごくカッチーンと来たわよ。貴方とは良いパートナーになれそうな気がしていたのだけれども、残念ね。プライスレスだわ。それから、愛生ちゃん、ありがとう。貴女のお陰で、朔也ちゃんのDNAマップが手に入ったわ。これで貴女も、プライスレスね」


「そ、そんな……」愛生は糸の切れたマリオネットのように動かなくなった。

「待ってください! ファザー様!」


「あら、なにかしら?」


「だから、おかしいのですよ、すべてが! ファザー様も気づいていらっしゃるのではないでしょうか? ここまでが、デキすぎている事に!」

「つまり。私も含めて、誰かの陰謀にめられてる、って言いたいんでしょ」


「そうです」


「そんなの関係ないわ。だって、私は無敵よ。どんな相手にも負ける気はしないわ」

「なにを言っているのですか!」


「貴女のことは嫌いじゃなかったわよ。でも、願いを叶えられるのは、最後まで生き残った、たった1人と決まっているの。だから~。わるく思わないでね♪」


そういうと、ファザーはどこかに隠し持っていたスマートフォンを取り出す。


「それは、早妃の!?」大和が驚愕の声をあげた。


どこからか、鐘の音が響いてくる。扉から黄金の光が溢れだす。


スマホの画面には、文字が浮かんでいた。

その名は―――「月影の死神‐晩鐘パラノイアex‐」


「始めましょう、デスゲームを――」



※1……第2部-2 に 登場

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