第1部 ー 第2部

「ただいまー!」



元気な声で、玄関の上がり框(かまち)をまたいで入っていく。


(きっと、驚くだろうなー)


私は こちらの世界に 帰ってくるときに、謙虚さと 感謝と 感謝をモットーに生きていこうと誓ったのです!


そして、この身体は 殺された当時(1年前)と同じく、15歳の頃の身体である。


(いやー。目線とか、いろいろと縮んじゃったけど、この身体も落ち着くなー)


などと、呑気のんきに 構えていた時期もございました……。



私は帰還してから、日曜日になるまでは 美羽さまのマンションにお邪魔させていただいていた。家族がそろっている日に帰宅する方が対処がしやすい、と言われたからです。


そして、この身体は『コピペで 3秒 !』で 出来てしまった、データです。

この世界も【現実世界とは 異なる】とは 分かっていても、15年間、ここで育ったわけだから、かなり愛着があるのよねー。


**


下駄箱を見ると、高そうな靴が並んでいた。

――ウチって、こんなだっけ?


「おとーさーん! おかーさん! ただいま帰ってきましたー!」



はじめに顔を出したのは、母親だった。



「ま゛?!」と驚いた顔をして、

「あなた、どこから上がり込んだの!」と怒られてしまった。



つづいて、父親が駆け込んできて「誰かに見られたかッ!」と騒ぎはじめた。

それに気づいた姉と弟が出てきた。


(懐かしい顔だなー)とか思っていると、



「困るんだよ、ネェちゃん」と弟が言い、

「ウチは殺人罪の慰謝料で家計が成り立っているから、あんたの居場所なんて、ないわよ」と言われて、シッシッと手を振られてしまった。


これが…。およそ1年間も家出した(とは言わないが)家族への対応だろうか?



私が ショックを受けて 佇んでいると、後ろから 凛とした声が聞こえてくる。



「失礼!」と、美羽さまが 割って入ってきた。



まるで 宝塚歌劇のトップスターが、赤いネクタイ。青いカッターシャツに白いタキシードを着こなして、ろくでもない婚約者から 私をさらいに来てくれたような登場だった。


「あゆみさんのご家族の方ですね。私、こういう者でして――」

父親に差し出されて名刺には、こう書かれていた。



【内閣府 特別・情報処理 安全確保支援士】



(どうだ! まいったか!)と 私が、ドヤ顔を見せる。


私の家族は、私と美羽さまを交互に見比べ、一斉にこうべを下げた。


「こ、この子が、何をしたかは存じませんが。

 もはや、娘ではありません! なにとぞ、ご容赦を!!」

「そ、そうよねぇ。あの子は もう お墓の中だし……」


「ちょっと、お父さん! お母さん!」姉が 慌てて 止めに入った。


でも、両親の言葉が、あんまりだよ…。本当に 涙があふれてくる。

(私はいるよ。ここに!)


言葉が、張りさけそうになった。あまりにも理想の再会には 遠い。


「顔をあげてください、お父様、お母様。娘さんの 今の顔を ご覧になってください。泣いているではありませんか」


美羽さまは、そっと 涙を指で拭ってくれた。


――もう、心臓が張り裂けそう!(別の意味で)


「実は。ご家族の方に、お願いがあって来ました」


「はい。何でしょうか?」父親が ゴクリと喉を鳴らす。




……



「娘さんを3億円で 売ってください」



……




「「「「えぇぇぇーーーー!!!!」」」」




***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る