第10話
私の名前は、明坂あゆみ。
息子愛顧な父親 と 口うるさい母親 に 育てられ、仕切りたがりの姉と、
身長が伸びるににつれて、何かと バカに してくるようになった 弟をいれた 5人家族だった。
順風満帆とは言えないけれど、
初めてできた 彼氏と 初デートの日に、私は死んでしまった。
その記憶―――。
いわゆる『前世の記憶』というのが、長男の出産と同時に思い出した。
この世界は、
前世の私が それなりに遊んでいたゲーム「月影の死神‐晩鐘パラノイア‐」だった。
転生した先は、
オープニングで 連続殺人犯に 殺されるモブキャラのひとり。
海野 虹夜。
物語の後半には、
それなりに 重要人物だったと思えるキャラクターだったと判明する。
『キーパーソン』と言っても過言ではない……。
だって、その凶悪殺人犯は 夫の
そして、このデスゲームを主催していたのが、彼女のご両親だったのだから。
ご両親はとても地位のある人物だったので、表立って 復讐を 行えなかった。
だから、このような 回りくどい殺人計画を立てた。ただ……、
――正直言って、ゲームのことは ほとんど覚えていなかったわ!
「クリスマス商戦」用のゲームとして、
売り出された コレは 高校進学の勉強時期と被っていて、勉強のオンオフを上手く切り替えるためと、友達との話題くらいの感覚で プレイしていたからだ。
そして、その ゲーム の中で――。
プロローグが始まる前に、私は殺されかけていた。
もちろん、夫の
***
―――パチンッ!! 美羽さまが指を鳴らすと、
3枚連動引戸のクローゼットから 4人の執事風の イケメンが 現れた。
ただ 上半身が裸だったので、執事コスなのかは 不明だけど。
(いったい、いつから そこに入っていたのだろうか?)
……不思議と こんな疑問は 湧いてこなかった。
素早く 部屋の四隅に散らばると 胸の前に 両手でハートの形をつくる。
すると、キラキラ輝く ハート形の光が放たれました!
その光を浴びた 公崇の顔色が みるみると悪くなっていった。
「やっと、捕まえたわ」
美羽さまは 安どの表情を浮かべて、夫が手に持っているナイフを取り上げた。
「まったく! プロローグよりも前に侵入していただなんて、誰も想像しないわよ!」
ちょっと ぷりぷりしている お顔は、それはそれで可愛いです。
美羽さまが、黒い刃のナイフを両手でへし折ってしまう。
折れる音は聞こえず、壊れたところからマトリクスが飛び出しては、消えていった。
(ひょっとして、これで終わったの……?)
意外にもあっけない終わりに、私は キョトンと してしまっている。
夫は ぬいぐるみのように 地面にへたり込んでしまって、指ひとつ動かさない――。
――まさか、死んでしまったの?!
夫の名前を呼ぼうとしたけれど、上手く声がでない。
そのとき、はじめて呼吸を止めてしまっていたことに気が付いた。
美羽さまが、優しく 手を肩に置いてくれた。
「もう、安心していいわよ」
私は 小さくコクコクとうなずくと、
「ゆっくりと息を吸い込んで―――」という言葉にしたがった。
***
***
落ち着いて、あらためて惨状を確認した。
お父様と夫が、息をしていない……。
「……あの。ふたりは?」
「そうね。この状況だと落ち着かないわよね」
―――パチンッ!
美羽さまが 再び 指を鳴らすと壊れた部屋は何事もなかったかのように、元通りとなった。
そして、ふたりは ベランダで 仲睦まじく息子をあやしている。
「・・・・・・」
なにが起きたのか? まるで 狐につままれた 気分だった。
「まぁ、混乱するわよね。先ずは落ち着いて聞いてくれるかしら?」
私は、コクリと 頷くしかない。
「はじめに、貴女は【海野 虹夜】に 転生したわけじゃない」
「え?!」
「その指輪。それが貴女の本体よ。媒体 とでもいうべきかしら」
その言葉を聞いて、思わず結婚指輪を見入ってしまう。
中心には、ダイヤモンドの代わりに 月の鉱物を加工してできた宝石が納まっていた。
(これが。私、ですって?!)
「それがマルウェアの働きをしてしまったのよ。システム上のバグに ワームを送り込まれた といえば分かりやすいかしら?」
―――どうやら、私の頭では理解できそうにないです。
チンプンカンプンな顔で美羽さまを見返すが、笑顔で話しを進めていく。
「貴女が住んでいた世界と このゲームの世界をつなぐ『バックドア』が、その指輪ということよ」
「バックドアって、裏口てきな感じですよね」
「そうよ。ウイルスが侵入しやすい裏口をあける役割を果たしてしまったの。だから、貴女を殺したお友達までもがこの世界に簡単に入れてしまったのよ」
「わた、しを……殺した?」
「 姫川 妲己。この名前に 心当たりがあるんじゃないかしら?」
―――えっ?! あれ、事故なんかじゃなかったんだ……。
「もうひとつ。貴女を混乱させてしまうことを言うけど、気を確かに持ってね」
(これ以上、いったい何があるの? じつは、智也もこちらの世界に来ているとか……?)
「貴女の住んでいた世界は、量子コンピュータの中。つまり、貴女は人間ではなく、AI。正確には、日本人(女性)型AI。だから、このゲームの世界に人格データをバックアップすることが可能だったのよ」
―――うん。無理。理解できない。
「私がAIって、なんじゃそりゃ?って感じなんですけど」
「現実の世界では、人口が100億人を突破した時点で、環境汚染が かなり深刻化していたの。そこで、環境庁が幾つかの量子コンピュータを使って、疑似的な地球をつくって、演算をすることにしたのよ。どれくらい人口が減少したら環境改善が可能となるのか?を 調査するために」
「……それって、まさか………」
「そうよ。犯罪率を操作して、人口の減少を試みたの」
「それじゃ、姫川さん……」
「えぇ。コンピュータが 無作為に選んだ ひとりね。性格を 強制的に変更されてしまったのよ」
「それで、私を―――殺したんですか?」
美羽さまは、静かに頷いた。
「だけど、問題が発生したの。本来、有り得ないはずの事が起こってしまった」
「AIが、ゲームの世界で 逃げ延びようとしたんですね」
「そうよ。世界で 初めての現象が起きたの。それが “明坂あゆみ” のケースなの」
私は――。
私の想像をはるかに超える、絵空事を 聞いているようだった……。
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