第4話

「私の特別な 能力スキル をお教えします!」


そうなのだ。

虹夜は[未来視]できると偽り、美羽さまに 5年後に起こる事件を話し始めた――。

この世界が ゲームの中 だということは、伏せておいた。


(初めにお会いしたときに、何かおかしな事を言ったような記憶があるけれど、この際忘れよう)


美羽さまと 一週間ほど チャットをして、分かった事がある。

それは、とても『尊い』ということだ。



そして、その美羽さまが……。


ルート次第では、私の夫に 殺害されてしまうのだ。


夫の名前は、卵頭ランドウ 公崇キミタカ

前世の私が、それなりに遊んでいたゲームアプリの凶悪殺人犯だ。


ゲーム内では、美羽さまは とてもミステリアスで 掴みどころのないキャラクターだった。でも、実際に 彼女と話してみれば、とても『推したい』!

(だから、ぜったい 阻止しなっくっちゃ!)


私はテーブルに身を乗り出してしまうくらいに、熱くなっていた。



「お願いします。どうか、その主人公くんの居場所を教えてください!」



美羽さまも薄々、勘づいていたようで「なるほどね」と納得した様子だ。


――この人は聡明な方だから 私の言葉を信じてくれるかもしれない……。


美羽さまの反応を見て希望が沸いた。

でも、まだ信じて貰えるかどうかわからない。


もっと証拠が必要だ。


私は意を決して、夫である公崇のことを伝えた。


「美羽さま……、私が話したことは全て事実です。

 私の夫は あなた様を殺します。その主人公くんが 殺したように偽装して」


美羽さまの顔色が変わり、表情が強張った。

信じられないといった顔をしていた。

当然だろう。いきなり、こんなことを言われても困るだけだ。


「……えっ?! 嘘でしょう?」

「本当です。あなた様は殺されるんです」


「どうして、そんなことがわかるのよ?」

「わかりましたかって……。それは私が予知能力者だからですよ!」




「何それ? ふざけているの?」



「ふざけていません!! 真剣そのものです!!」

「じゃあ、証拠を見せなさいよ!」


美羽は興奮して私に詰め寄ってきた。

その顔には怯えの色が見える。


無理もない。


誰だって 自分が殺される なんて言われたら動揺する。


しかし、虹夜からすれば 美羽さまが殺されてしまうことは必然なのだ。

何故なら、彼女の行動は 運営によって決められた人だから。



「証拠ですか……。では、これを見てください」


そう言って、私は自分の左手を見せた。薬指に指輪がある。結婚指輪だ。

それを外しテーブルの上に置いた。

そして、指輪の中央に はめ込まれた 宝石を見せる。


「これは ブラックダイヤモンドに見えますが、じつは、月の鉱物を加工してできた宝石らしいです。5年後、夫は殺人を犯します。その時に 凶器として使われたものと同じ素材です」



「…………」


美羽は何も言わず 黙っていた。


沈黙が続く。


私は恐ろしくなって 逃げ出したくなった。


でも、ここで逃げたらダメだと自分に言い聞かせた。

彼女を助けるために 勇気を 振り絞ったのだ。ここで諦めたら意味がない。


「美羽さま……、私が話していることは全て事実です。あなたの命に関わることです。信じていただけませんか?」




「オッケー」

「えっ……」



「ひとり 狂えば、1,000人 狂う。月影の死神……」



――それって……。



「あなたを 信じる と言ったのよ」



美羽さまの目を見つめると、彼女の瞳の奥に迷いがあった。



――きっと不安なんだ……。


初めて会った時のような自信に満ちた態度ではない。彼女らしくなかった。


(私も 同じ立場だったら、怖くて 仕方ないだろうな……)



美羽さまの立場になって考えると、よくわかる。


――でも、信じてくれたんだ。



私のことを信じてくれている。


( 嬉しい…… )


胸の中に温かい気持ちが広がる。


独りで 悩むよりも、ふたりで考える方が、きっと 良い結果が待っている。

そこへ 主人公くんも加われば、文殊の知恵になる。


きっと、未来は 変えられる―――。


(……ところで、主人公くんの名前は なんていうのかしら?)


なぜか、未だに 名前を教えてもらえないのだけど、どうしてだろう??





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